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#sp12.憧れのパリ/春分の日特別版

記事のタイトルこそ「憧れのパリ」って書いたけど、わたし自身はパリにあんまり憧れみたいなものは抱いていない。パリには一度も行ったことがないので、一度くらいは行ってみたいなあとは思うけど。

ただ正直なところ、行きたいか行きたくないかで言えばそりゃ行きたいよね。ルーブル、オルセー、ポンピドゥーセンターの美術館はめぐってみたい。あとはマカロンとクロワッサンとタルタルステーキは食べたい。カフェオレも飲みたい!

と、パリに関するわたしの持ちうる限りの知識を総動員してみました。

そもそもフランス語はまったくできない。大学のときの第二外国語はフランス語とドイツ語の選択でドイツ語を選んだくらいだし。ドイツ語にしても試験は教科書の丸暗記で乗り切ったので、身についてはないんだけど。

とにかく、今回の特別編はタイトルが「パリ」の3曲。今日は春分の日だし、パリは「花の都」っていうからね。春分の日→花が咲く頃→花の都→パリ、という連想です。


今住んでいる場所ではなく、どこか遠くの憧れの地で暮らしたら……、と憧れまじりに考えることはありませんか? わたしは九州で生まれ育っているので、東京や関西になんとなく憧れを抱いています。

もし、自分が東京や京都あたりで暮らしていたらと考えても、自分がどうなっているのか見当もつかないですね。

そんな場合、今の自分とはぜんぜん違う人物になっているかもと考えると、遠くの土地で暮らしていなくても良かったような気もします。いや、今と少しは違っていてもいいかもしれないという意見もあるかもしれませんが。

それはさておき、特に春は移動/異動の季節。生まれ育った土地とは違う、遠くの見知らぬ土地で暮らしはじめる人々も多いと思います。そんなふうに遠くの見知らぬ土地で暮らしはじめる人の不安や見送る人の不安を歌う曲、日本にはたくさんありますね。

たとえば、東京で君が変わってしまうかもしれない、変わらないでいてほしいとか。あるいは、変わってゆく自分を変わらないあなたが見守っていてとかね。そういう曲がいくつか浮かびます。

Friendly Firesの"Paris"は、もし自分たちがパリに住むことになったら……、と夢想する曲です。もしパリに住んだら、君をダンスショーケースに連れて行って、毎晩一緒に星を眺めるだろう、と。

・Friendly Fires - Paris

ダンスショーケースにはいろいろ意味があるけど、その後の歌詞に「一緒に星を眺めるだろう」とあるので、つまりはパリで一緒にたくさんのきらびやかなものを見ようと約束するみたいな感じで夢想をしているんじゃないかな。

この曲の主人公はまだ若い感じの男性です。恋人とパリに行きたいと願っているが、本当に行くのかどうかはわからない。けれど、パリに行くとしても行かないにしても、二人がこれから時間が経つにつれ、関係も考え方も変わっていくことを予感しています。

(今はフランス以外の外国にいるけれど)二人がパリで暮らすうちに、恋人がパリの女の子に変わったことをこの若い男性は気づくだろうし、恋人もまたこの若い男性がパリの男の子に変わったことに気づくだろうと。

そうなったとき、「僕たちは自分自身を失うことになる」とも歌っています。変化はそれまでの自分を失うことでもある。そう考えると、ポジティブにもネガティブにも聞こえますね。

ちなみにこのFriendly Firesはイギリスのバンドです。だから、ドーバー海峡の向こうにあるパリに想いを巡らせているわけですね。


Kenya Graceの"Paris"では、この曲の主人公である女の子が、「私をパリに連れて行って」と誘います。これもパリ以外の場所から、パリに想いを巡らせる曲なんだけど、この女の子はどこかクールで冷めている。

・Kenya Grace - Paris (Official Lyric Video)

パリという場所は多くの人が憧れる場所だから、そこで愛し合っているフリをした写真を撮ってインスタグラムに投稿しようと言います。こんなふうに自分たちのパリでの行動は、すべてが偽物でどれもたいしたことのないものだと突き放します。

この曲の主人公である女の子は、恋人である男の子との関係がすっかり冷めている。けれど、まだなんとなく関係を続けている。周囲からは幸せに思われているし、インスタでつながっているフォロワーたちに、そういう偽物の幸せを見せることにためらいはない。

そんな感じの女の子を歌う曲ですね。この女の子は自分たちの「幸せ」な光景をたくさんの人々に見せつけて、うらやましいと思わせることを望んでいます。自分たちの行動や幸せさえも、他人にどう見せて、どう思わせるかを第一に考えている。

計算高い女の子と言えばそこまでですが、考えてみれば意識的無意識的に、人々はソーシャルメディア上でこの女の子みたいに振る舞っているかもしれない。

そこでは本物の自分ではなく、あくまでもフォロワーの期待にこたえる偽物の自分として振る舞っている。そう考えると、自分もまたこの女の子と同じところがあるかもね。そういう意味では、この曲は現代のわたしたちを皮肉っているとも言えます。


進学や就職、あるいは転勤以外にも、人がいま住んでいる場所から遠い場所に移り住む理由というのもあります。駆け落ちだったり、一時的な避難だったり。やむにやまれずにしかたなく遠い場所に行くことは、どこか悲壮な感じが漂います。

わかりやすいのが災害のときの避難ですね。わたしは災害時に避難した経験は一回しかない。大きな台風がやってきて、洪水や浸水の恐れが高かったときの一回だけ。それも体育館みたいな公的な避難所ではなく、近くの親類の家に避難しただけです。

そういう避難でもそれなりに大変なのに。これが駆け落ちだとか、あるいは誰かから逃れると言った理由での移動だともっと大変なんだろうなと容易に想像がつきます。

The Chainsmokersの"Paris"は、「君の両親から逃れるためにパリにいた」という不穏なフレーズからはじまります。なぜ、君の両親から逃れてパリにまでやってくる必要があったのか、その理由にはいっさい触れていないので、よけいに不穏さが満ちます。

・The Chainsmokers - Paris (Official Video)

この曲の主人公である男性は、この女性を見捨てておけないために一緒にパリに行き、「僕たちがすぐれていることを彼らに見せよう」と語ります。ここでの「彼ら」は、彼女の両親だけじゃないような雰囲気がありますね。

彼らの状況はわずかなフレーズから想像するしかないのですが、とにかくパリにやってくる以前の知り合い、地元の友達や知り合いを見返してやろうみたいな復讐心さえもそこに見え隠れします。

この曲からは、故郷の小さな町で付き合っていた恋人同士の身に何かが起こり、両親の怒りを買った二人。そんな両親から逃れるために彼女とともにパリまでやってきて、ささやかに暮らしている……、みたいな想像も広がります。

そう書くと、昭和の映画にありそうですが、パリにはそうやって小さな町から逃げてきた二人がささやかに暮らし、いつか故郷の人々を見返してやろうと思えるほどのなにかが転がっているとも言えそうです。


※ひつじのはなし|Good Morning! Musicは、水月羊(the Maverick Black Sheep)が大胆不敵にも音楽(主に洋楽)エッセイを書こうという目論見と試みです。洋楽の曲を聞いての感想や解釈のエッセイ、コラムとなります。気になった曲の歌詞の意味はそれぞれ訳してみてください。また違った見方ができるかもしれません。


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