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【労働判例】株式会社まつりほか事件


0.概要

飲食店店長の過労死について、会社及び代表取締役の責任が問われた裁判である。判決では、代表取締役は名目的なものであっても従業員の労働時間及び労働内容を把握する義務があるとしたものである。従業員の労務管理につき、会社のみならずその業務執行を担う代表取締役個人も重い責任を負うことを示唆するものである。


1.内容

当事者

A (死亡):株式会社まつりの従業員
X1:Aの妻
X2:Aの長女
Y1:株式会社まつり
Y2:株式会社まつりの代表取締役として登記されたもの

Xらの請求

AはY1における過重労働により死亡したとして、Y1に債務不履行 (安全配慮義務違反) による損害賠償請求、Y2に債務不履行または役員などの損害賠償請求権 (会社法429条1項) に基づく損害賠償請求を行った

経過

  • Y1の実質的経営者のZは平成25年7月にY1を設立し、レストランまつりを開店

  • Zは開店時に自ら役員にならず、店舗と別にZが経営する店で板前をしているY2に名前を貸すよう依頼して代表取締役都市、Zの妻の姉を取締役とする登記を行った

  • Y2は名義貸しを了承し、Y1の役員になるかもしれないと認識して印鑑登録証をZに渡した

  • 代表取締役として名義貸しをしたY2および役員の名義貸しをしたZの妻の姉にY1への経営の関与または同社からの役員報酬はなかった

  • Zとその姉は毎日店舗に出勤して社長、おかみと呼ばれて実際の経理担当など行った

  • Y1は平成28年5月に解散し、Y2が代表清算人となった

Aは平成25年9月にY1と雇用契約を締結し、板前 (店長) として業務に従事した
ただし雇用契約書はなく、タイムカードはつけていなかった (A以外はタイムカードをつけていた)
Aは毎月あたり128時間を超える時間外労働を継続
Y1は健康診断を実施していなかった
Aは平成26年3月22日・23日に体調不良で欠勤したが、受診せずに自宅で倒れて不整脈による心停止で死亡
労働基準監督署はX1からの井奥保障給付などの支給を決定


2.1審判決

以下のY1/Y2の責任を認めた
(1) Aの死亡原因は長時間労働による
(2) Y1は労働時間管理をせず安全配慮義務違反を行った
(3) Y2は代表取締役として会社法429条1に基づき重大な過失の賠償責任を負う
(4) Aの体調不良による欠勤後の病院受診を怠った点につき、Aを不利に解釈することはできないとして過失相殺を否定


3.本判決 (東京高裁)

一審の判決を支持
(3) 名義的な代表取締役であることをもって一般的な注意義務をのがれるものとならない。Y2は労働時間と労働内容の把握を怠り是正義務も怠った。Y1の業務執行を一切行わず労働者の管理も一切怠ったのであるから任務の懈怠について悪意または重大な過失がある
(4) ただし、病院を受診しなかった点について、受信すれば発症を防ぎえたとの意思の見解、長時間労働中の喫煙歴から早期受信すべきであり、その点は2割の過失相殺を認める


4.ポイント

名義貸しをしていた代表取締役社長の下で、労働者の安全配慮義務違反による死亡事件があった場合、悪質な過失として会社法429条1に基づき損害賠償の責任を負う


5.文献

木村恵子 (2024).株式会社まつりほか事件 産業保健21,117,18-19.

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