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あわせ鏡

最近、大人に近づいているのかなって、歳を重ねるのが言い表せないくらい怖い。

お葬式へ向かう途中、数年前まで着慣れた制服でお別れをしてきたはずなのに、ふと、鏡にうつる自分を見たとき、周りの大人たちと同じ格好に身を包む自分を見て、「ああ、私ってもう大人なのか」って時の流れの早さを感じる。

10代後半に入り、守られているはずなのに、守ってはくれない世の中に生きづらさを覚えた六月。

身近な人が自ら命を絶ってしまった。
悲しさと同時に、自分と置き換えて、もしあの時、母親に助けを求めていなければ私もあのまま自ら命を捨てようと決心できてしまっていたのかもしれない。

火葬場からでてきたあの子は、知らない人になっていて、冷たい銀色の台には命を絶つ時に使ったであろう黒くて細長いロープのようなものが隣に置かれていた。

あの子の苦しくて悲しい掠れた声が聞こえそうで、頭の中には、その時の出来事が微かに想像させられる、一本の黒くて細長いロープだった。

真っ暗で哀しみだけが残る部屋に置かれたあの子の宝物の大切さは、貴方にしか分からないのに部屋の片隅で、大切に保管されていて、形見として残った。

貴方の生きた数十年間の苦しみと生きるための活力は
貴方にしか分からないけれど、苦しみの中には少しでもいい記憶となるものがかけらだけでもあるといいな、なんて考える午後5時40分。

遺書として残された数ページにもなるメモにはまだ、貴方が伝え忘れていた気持ちが目に見えた。

ありがとう。

頻繁に会うことは無く疎遠だった貴方が教えてくれたのは、愛とこっそり家族を想いやる優しい心でした。

貴方が、もう二度と哀しみと苦しみに溺れないように。

またね。

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