同じ景色。違う自分。

恋人とキスをして、不用意に乱れる。
仕方が無いのだから、と自分に言い聞かせても、事後にはほんの慰めにもならない。
ああ、やってしまったんだねえと自分が嫌になる。

二年前の勉強に包まれていた自分には想像もできない未来。
いろいろなことが早すぎたのかもしれないが、気持ちよさと気持ち悪さを知るのにはちょうどいい年齢かもしれないと、自分を納得させるしかなくて。

だいたい気持ち悪い方に傾く。
喉の奥から嗚咽がはしって、なにかがこみあげてくる。
綺麗で居たい自分の中にこんな欲望が混ざっているんだと思いたくない。
はいずりまわっているものを、ひきずりだしたい。

「都会のひとびと」をえがいていたころを、

よくおぼえている。

純粋無垢な、何も怖くなどない、ただただ精神では自由だったあのころ。

あのころにはもう戻りたくなどないが、一瞬もどってみたい。

私はあの頃の自分がキラキラしてみえる。
誰にも触れられない何かがあった。

どこか私は、あの頃の自分を探したくなった。

池袋の、池袋駅東口を出て右へ曲がる。
西武百貨店のほそい通路を、イヤホンをしながら歩く。
あの頃聴いていた音楽が染みる。

同じ景色、におい。すれちがうひと。
都会のひとびと。すべてがノスタルジックに感じる。

ああ私は思う。
この道をたどれば、あの頃の自分になれるんじゃないかって。
自分が辿っていた足跡を、確認するために来ている。
あの足跡、あの景色。

でも毎回気づく。
同じ景色を見ているはずなのに、違う自分が居る。
もういないってこと。わかってたけど。

あの頃の自分じゃない。彼女。彼女だ。
彼女は今もどこかで、この道を歩き続けているんだと思っていた。
処女のまま。何か、創作に夢をもっていた。
人生に、創作があった。
創作がすべてだった。
それでいいのに。

彼女は、今も空を見上げているんだろう。
それで周りの人をみて、「都会のひとびと」を見ている。
そこに、いまの私が居る。

私は彼女の足跡を追ってるんじゃない。
すれ違う事しかできない。
私は、あちら側になってしまう。
私は、都会のひとびとになりつつある。

それでもそれでも、もうすこしだけ。
このおもいのまま、彼女を追い続けたい。


あの道をたどれば、いつでも私は私で居られる。
私を思い出せる。
誰も触れることなどできない、誰のものでもない私。
どこかその生き方は、強くたくましい。
私はそうやって、生きていたいだけなんだよ。









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