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崖っぷちテレビ局新入社員がテレビ業界に思うこと

この春、ぼくは新卒としてテレビ局に入社した。

…が、すでにちょっぴり後悔している。

あんなに憧れて入ったはずなのに、テレビ業界は想像以上に崖っぷちに立たされていた。

動画配信プラットフォームの充実、若者のテレビ離れ……

どうやら現状は、思っていたよりも悪かった模様。
まだ入社して1か月だけど、内部のことを知っちゃうと色々と思ってしまうよね。

そんなやり場のない気持ちを、新卒から見てテレビ局はどんな風に見えているかと題して書いていこうと思う。

テレビ局に就職を考えている学生や、メディア業界について調べている人の参考になればいいな。

テレビ局の採用試験を受けるまで


思えば、ぼくはテレビがそんなに好きじゃなかった。

ウチでは亭主関白の父親がリビングを独占していて。必然、テレビは父親のものだった。土日は父親が一日中テレビを見てリビングに座っていて、、

なんかそこにいるだけで息が詰まる感覚だった。だから、ぼくの居場所は自分の部屋だったし、ぼくにとってのスクリーンはテレビではなくスマホだったんだ。

まあそんなわけで、中学とか学校で友達と話しているとき、芸能人の名前を自分だけ知らない、なんてこともザラにあった。テレビを見てなかったから。

そんなぼくがなぜテレビ局の採用試験を受けたのかというと、エンターテインメントに関われる会社だと思ったから。ようするに面白いことに触れていたかったんだ。

ぼくは本当は漫画家になりたくて、大学時代に出版社に漫画を投稿したり編集部に持ち込みをしたりしていたんだけど、全然うまくいかなかった。         多分才能ないんだと思う笑

そんなことをしていたらいつの間にか大学3年生の春ごろになっていて。とりあえず漫画家になれないなら就職しないとなーって思った。

そのとき、ぼくの選択肢にあったのはエンタメができる会社だけだった。

会社で働きながら、何か面白いことを考えたり、作ったりするなんて最高じゃない?てかそれでお金もらってるとかズルくない?と思っていた。

それに、自分みたいに「自分のしたいことしかしたくない」みたいなわがまま指向のヤツは、銀行みたいにカッチリとした業界では絶対にやっていけないと思ったんだ。

そんなわけで何か面白いことができる会社を片っ端から探してみた。そしたら、そういう会社はたいていマスコミっていう括りに入っていることに気づいた。

その中でもぼくがいいなと思ったのはテレビ局のドラマ監督だった。そもそも本業(?)の漫画の勉強になることを仕事にしたいと思っていたから、自然と実務ができる仕事の方に興味がいった。つまり、製作ではなく制作だ。

「製作」と「制作」の違いってわかる?わかる人はとばしてね。

「製作」っていうのは、主にお金を出してその管理をしたり、関わる人の管理をしたりすること。レストランのオーナーに近いかな。

予算をあれこれ管理したり、キャスティングしたり。つまり実際に現場で作る人というよりはマネージャー的要素が強い人だ。

反対に「制作」はバリバリ現場でものづくりする人で、職人的要素が強い。レストランでいえば料理人だ。ドラマの監督は料理長にあたる。

ぼくは制作がやりたかった。

そうじゃないと漫画に活かせる技術は盗めないと思ったからね。だから制作ができるテレビ局を目指した。

そう考えたら、急にテレビ局が楽しくてキラキラした業界のように思えてきた。自分の企画を立てて、プロの監督、脚本家と一緒に映像を作ることができる。自分にとってこれ以上ない環境だ。

それに一流の俳優、女優と仕事をできる華やかさを考えると、心が躍った。そんな妄想していたらテレビ局への憧れはふくらんでいった。テレビをたいして見ないくせにね。

テレビ局の採用試験に臨む


いざテレビ局の就活をはじめたけど、その壁の高さに面喰った。異常に面接の回数が多いんだ。多分どの局も5回くらいあると思う。筆記とか、ほかの選考フローを合わせたら6、7回にもなる。

それに加えて応募者はミーハーも多いから母数がとんでもないことになる。つまり採用に至るまでの道は険しいってこと。

一通り受けた経験から言うと、テレビ局の就活には運も必要だと思う。大量の人間の中から採用されたとして、それを全部自分の実力だと言い切れる人っているだろうか?

ここで言いたいのは、山手線のドア広告に貼ってある胡散臭い運気UPの本を買えってことじゃあない。運で負けることは仕方ないから、引きずらないでさっさと見切りをつけることも大事ということ。

ぼくは最終で落とされたとき珍しく応えてしまって、その後の就活に身が入らなかったんだ。今思えば、あれはもったいないことをした。ダメだったら、すぐに次のことを考えたほうがいいよね。

■テレビ局の面接を突破するには

でも運なんかより重要なこともある。特にドラマ・バラエティー志望の人には当てはまるけど、面接では「人と違う」ということをアピールすることが大事になってくる。

たとえばさ、こういうの考えてみて。あなたは今面接会場にいて、面接官と一対一で対面で座っている。


面接官「○○さん、りんごって何色ですか?」

さて、これ、どう答える?




ぼくが思うに「赤です。」って答えたら、これはあまりいい答えじゃない。
なぜなら、世の中的に「赤」って答える人が多いから。(多分)

じゃあどんな答えの方がいいかというと
そこで「青」って答えてみてもいい。「青りんご」があるから。
あるいは「黄色」と答えてもいいかもしれない。青りんごってわりと実際は黄色に見えるよね。

もしくは「緑」でもいいかも。「グリーンアップル」っていうし、黄緑にも見える。
「紫」とかでもいい。自分なりの理由があればね。

つまり何がいいたいかというと、「自分なりの視点で物事をとらえる」ことができているかどうか、に尽きると思う。

何か作ろうと思ったら、今までとは違う視点からものを見るって大事だよね。そのためには、多くの人が考えていること、つまり常識的なことから少しズレた発想が出来ると強い。

りんごはヘタクソな例だけれど、どんな質問にも置き換えられる。ちょっとありきたりなことを言うのではなく、ズラして答えてみよう。そのちょっとのズレが、多くの就活生と差別化できるポイントになるかもしれない。

ぼくはそういうやり方で、テレビ局の就活を乗り切った。なんやかんやと大変で、第一志望には落ちたが、乗り切った。

やった、ようやく憧れのテレビ局で働くことができる!そう思っていた。

テレビ局に入社するも…

桜が満開の4月1日、ぼくはテレビ局に入社した。テレビをつけると、自分の会社が作ったものが映っている。その事実が、まだピンとこなかった。

新入社員は全員、配属される前に研修を受ける。会社全体のことを知っておく数少ない機会だ。いろいろな部署の話を聞いて、理解を深めるのが目的。

しかしその話はぼくをやる気にさせるどころか、今後が不安になるものだった。

■テレビ局の窮状~ビジネス面から簡単に~

まず第一に、テレビのビジネスモデルは崩壊しつつあるということ。

テレビ局の売り上げはそのほとんどがCM枠を売ることによって成り立ってきたんだけど、ネット広告の台頭によってCM枠自体の需要が下がってきている。

テレビCMはネット広告と違って、詳細なデータがない。例えばネット広告なら、年齢、性別、生活スタイル、趣味、仕事など事細かにターゲットを設定し、ダイレクトにその人に打つことができる。

反対にテレビCMは不特定多数に一気に流すだけで、それをどういう人が見たのかまではわからない。

スポンサーからすれば、詳細なデータや、費用対効果がはっきり出るネット広告の方が使い勝手がいいってわけ。驚きだけど今までの日本社会ではテレビCMを打ったら、それがどれくらい広告効果があったかってことを測定しようともしなかったんだよね。

そんなわけでテレビの収入源がどんどん減ってきている。じゃあ別の稼ぎ方を考えないといけないよねって話になるけど……。

悪いことに、今まではそのやり方で湯水のように儲かったもんだから、今のテレビ局はCM枠を売る以外のビジネスのノウハウが皆無なんだ。もちろん日テレを中心に新しいことを始めているけど、一朝一夕にはいかない。

収入源が減るとどうなるかというと、番組制作費がなくなってくる。ドラマ一本に対して、Netflixでは1億円以上出たりするんだけど、民放はよくて4000万円くらい。それがこれからはもっと減っていくことになる。

制作費が減るとどうなるかというと、一般的にはチープだったり、面白くなかったりするので、視聴率が下がる。視聴率が下がるとスポンサーがテレビCMを買いたくなくなる。また収入が減り、制作費が減り、視聴率が下がり…

という負のスパイラルに入っている。それをなんとか食い止めつつ寿命を伸ばしている今のうちに、起死回生の一手を探している。それが今のテレビ局だ。キラキラもしていないし、余裕もない。

それはかつてのテレビで、いま広告で一番イケイケなのは日本でいえばサイバーエージェントかね。ネット広告で急激に売り上げを伸ばして、今や電通・博報堂に次ぐ広告代理店になっていた気がする。

テレビ局をキャリア的に考えたときの価値


そんなわけで思っていたより大変なのがこの業界。
ぼくはエンタメをやりたい人間だから、特に同じような人に、テレビ局に就職することの価値を考えてもらいたい。

エンタメをやりたいなら、何もテレビ局以外の選択肢もたくさんある。ここからは「キャリアとしてのテレビ」について、今思っていることを書いてみるよ。

まず最初にテレビ局は特殊な業界っていうことをおさえてほしい。第一に公共性を持っているから、完全な営利企業とは機能が違う。
そのため一般的な会社員よりも、ビジネス感覚が身につきにくい。

営業にならない限り、社会人としては常識のビジネスノウハウや知識が身につかない可能性がある、と感じている。そもそも局によっては社長も経営がわかっている人ではなかったりする。

ある程度のビジネスノウハウが身についていないと、いつのまにか自分の市場価値は下がっていくことになる。

そうなると、転職したいと思ったときには、どこも引き取り手がない状態になっちゃうかもしれない。今の年々下がっていく売り上げを見ていると、転職に備える人も少なくないと思う。

次に体質の古さが気になる。これは局によるところはあるんだけど、テレビ局全体に共通することとして「年功序列を重視する」ことがある。

特に制作に関しては下積み期間というものがあって、その間はぼろ雑巾のように使われる。その間は自分の企画なんてできないし、プライベートの時間をすべて会社に捧げるくらいのブラックさだ。

ようやく自分で色々できるのは3年目くらい……だからもう25、26歳になってからだ。もっと遅い場合もある。ドラマに関して言えば30くらいにならないと自分の番はこない。

そんな待つくらいだったらYoutubeで一旗あげようって方が早いかもしれないよね。。

そして結局は組織だということ。配属で番組やドラマ制作にいけない場合もザラにあるわけだ。インターンを受けていたときに担当してくれた人事の人は、新卒で入ってからドラマに行きたいと言い続けてもう4年たっていた。

テレビ局に入ったところで自分のやりたいことができるとは限らない。ならいっそ、職種が決まっている会社に入るほうがいいかもしれないよね。(テレビ番組の制作会社はおすすめしないよ。超絶ブラックだから。)

■テレビ局に人生預けられますか?

……入社して一か月、五月病気味のぼくが感じたテレビ局の評価がこれだ。
結局のところ本気でエンタメで勝負したい人間なら、自分の力でなんとかするしかない。

そういう意味でいえば、ゆるゆるホワイトな会社で、プライベートの時間に創作活動をするほうが賢い選択なのかもしれない。

今はネットに発表の場がある。

それになにより……ネットは自由だし、多様だし、不健全さも受け入れてくれるからより人間の本音に近い。もちろん悪いこともあるけれど、みんなにいい顔しているように見えるテレビのコンテンツよりも、やっぱり人間味がある気がするんだよな。

長々とテレビの暗い話を書いてきたけど、悪い事ばかりじゃない。給料水準は一般的な上場企業よりも高いし、面白いことを考えている人がたくさん働いている。

ただ、現状のままだと将来的に不安を感じてしまうのが、新入社員の本音なんだよな、ということです。
よかったらたまにテレビ見てみてください。

                     糸冬





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