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変わりゆく、中央線

 
 「中央線が好きだ」というパンフレットが駅に置いてある。ずっと中央線に愛着を持っているぼくは、新しいものが出るたびに持ち帰っている。
 
 ただ、このご時世、大手の印刷物で紙の物だけというのは考えられず、Webでも「中央線が好きだ」は読める。

 中央線沿線だけでなく、青梅線、五日市線、八高線沿線の情報も入っている。いわゆる、中央本線部分の情報も。読み応えのある、冊子とWebページだ。
 
 中央線が好きで、ぼくは中央線の小説を出した。

だいだい色の箱

 2009年出版。版元は埼玉県のまつやま書房。情緒的な鉄道の本を数多く出している出版社で、「鉄道路線そのものが主人公」というようなへんてこな原稿を気に入ってくれたのだ。5編の物語だったのが、2編追加するよう指示があって足した。女性が主人公の話がないということで、そのうちの1つは女性が主人公のものに……。
 
 これは出版の計画もなく書いたものだった。毎日仕事で中央線に乗っていて、混み合うし、よく止まるしで、みんながこのだいだい色の箱に文句を言っている。ぼくだってみんなと同じように腹を立てたが、せめて一人くらい、愛着を持って物語を仕立てる人間がいてもいいだろうということで、書いた。だから当時は、仕事で使う昼は憎んで、物語を綴る夜は愛するという感じだった。愛憎入り混じっていた。
 
 今、中央線は、以前の「いつ乗っても混み合う満員電車」というイメージからだいぶ離れてしまっている。そしてコロナの影響で、さらに閑散とすることになった。利用者には混雑しない方が快適でいいはずだが、でもなんとなく変わっていくと寂しく感じる。自分勝手なものだけど。
 
 今日から中央線は、またイメージを変える。とても遅くまで走る通勤電車というイメージがあったけど、緊急事態宣言で終電が早まってしまう。中央線の最終は中途半端な「武蔵小金井行き」が定番だったけど、これが高尾行になってしまうようだ。最終が(通勤圏の)終着駅というのは、だいだい色君に襟を正されたようで、ちょっとイメージがそぐわない。武蔵小金井駅のタクシー運転手さんほどではないけど、ちょっと困る。
 
 いずれもっともっと中央線が変わっていって、便利で快適になるのかもしれないけど、ぼくにとっては、「中央線が好きだった」になるのかもしれないな。それでいいような、悲しいような……。

三鷹車庫

(ずっと以前の三鷹車庫。中央線上りの車内から撮影)

書き物が好きな人間なので、リアクションはどれも捻ったお礼文ですが、本心は素直にうれしいです。具体的に頂き物がある「サポート」だけは真面目に書こうと思いましたが、すみません、やはり捻ってあります。でも本心は、心から感謝しています。