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美しき淡単色の世界

 
 上記淡単色は造語。淡色もあるし、単色もある。どちらも読みは「たんしょく」。淡い一色の意味合いで使ってみた。
 
 このアーティストをかけていると、不思議と書くのが捗るというものがある。言葉がうまいこと頭から出てきて、言いたいことにピッタリと当てはまる。とても気持ちのいい瞬間だ。それを頻繁に起こしてくれる音がある。
 
 それが好きなアーティストであればいいのだけど、そうでもないものであればちょっと困る。以前は頭を働かせてくれるアーティストがレッド・ツェッペリンだったので、なかなか困った。
 
 特段きらいではない。いや、好きな方だ。お気に入りのアルバム30選をしろと言われたら、少なくともその中に『3rd』は入る(レッド・ツェッペリンは4枚目までアルバムタイトルがない)。あの、世の喧騒から離れて山小屋で作ったような、ハードロックファンからの評価が低い1枚が好きだ。
 でも夜中に書くときには、扱いにくい音だ。ボリュームを上げるわけにもいかない。金切り声は響くし、バスドラも強すぎる。
 
 それが、もっと書き物に相性のいいアーティストが出てきた。それをかけると、的確な言葉が頭から出てきやすい。「あぁ、これ聴きながらだと調子いいなぁ」と思い始めてから、好んでかけるようになった。
 
 そのアーティストが、Belle and Sebastian。1996年結成の、グラスゴーのバンド。元よりこのバンドの音が好きだからかけていたのだけど、それが書き物にも合うとなって、よりお気に入りになった。
 
 ロックのカテゴリーに入るのだろうけど、ボーカルに叫び声はいっさいなし。長髪でもないし、印象的なギターソロもない。おどろくことに、このバンドのドラマーは、極端にバスドラを端折っている。あきらかに、わざと。このバンドから比べると、The Smithsはハードロックだ。
 
 音数が少ないのに、全パートとても上手い。それなのに、「個」を消しさったバンド。でもそれが、無理に抑えているように感じない。メンバーそれぞれ、このバンドが好きで、それで的確に合わせているというような印象を持つ。メンバーチェンジをほとんどしていないので、メンバーみんながバンドそのものを愛してるんだろうな。
 
 Belle and Sebastianの特色のひとつは、初期の頃のアルバムジャケットが単色で統一されていること。これもまた、このバンドの雰囲気に合う。
 

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 事実上の1st。淡い赤。静かに始まり、微風が流れるように終えるアルバム。シニスターという単語があるのに、邦題が『天使のためいき』。うまく付けるものだ。
 

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 この薄いグリーンも事実上という注釈が付くけど、2nd。
 これも微風だが、前作よりももうちょっと音のひとつひとつがはっきりしている。
 このバンドはアルバム1枚で1曲になっているような、音のトータル性があるが、中でもこれが最もまとまっている。歌詞も皮肉に満ちていて、英語圏の人にはこの部分でも人気なのだろう。このタイトルもまたすごい意味。
 

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 上記2枚に「事実上の」と付いたのは、この幻の1stがあったから。大学の卒論といった感じの制作だったので、1000枚しかプレスされなかった。バンドの人気が出たので、グリーンの1年後に広く売られた。アルバムの女性はボーカルでリーダーのスチュアート・マードックの当時の彼女。
 

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 この色はなんと言えばいいのか。濃い淡さの黄色、と言ったらいいのか。変な日本語だ。また、このモデルの双子は別のバンドのボーカルで、Belle and Sebastianのメンバーではない。
 邦題『わたしのなかの悪魔』。
 

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 朱色。全曲belle and Sebastianのサウンドトラック。この映画の評価欄を読むと、かなりシニカルで前衛的な印象を受ける。このバンドに合っているような感じ。曲の間に話し声が多く入る。
 

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 ここからレーベルをラフ・トレードに。プロデューサーがトレヴァー・ホーンなので、音がかなり鮮明になる。会社はThe Smithsに近付いたが、逆に音は遠のいた。
 ジャケットはそれまでの雰囲気を変えず、淡いだいだい色。ふざけたタイトルも、これまでを踏襲。
 

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 次のリリースはコンピレーションだったが、やはり単色。初のモノトーン。

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 初めて、文字に色を付けたアルバム。初期のくぐもった感じの音と、はっきりした音が上手く融合している。
 

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 ここでライブ盤が入る。BBCセッションのアルバムは全体的にこんな感じで、このバンドに合っている。
 

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 そしてまたオリジナルアルバム。桃色というのか、薄紫というのか。これほど長く一貫性を持たせているのはすごい。
 

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 その次はシングルのB面集といった意味合いのコンピレーション。企画アルバムでも、単色は崩さず。
 
 このあともう2枚出ているけど、手元にないので載せられない。どうも好きなアーティストの新作は、聴くのが怖くて手が出ない。今までの雰囲気が壊れたらどうしよう、と……。
 
 ミュージシャンは継続していくうちに変わってしまうものだけど、このバンドは音もメンバーも、こういった諸々も、さして変化していない。ファンにとっては、それがとてもうれしい。
 
 この記事も聴きながら書いていた。今後もぼくの頭を動かし続けてくれそうだ。もちろんレッド・ツェッペリンもときおり聴いているけど。


書き物が好きな人間なので、リアクションはどれも捻ったお礼文ですが、本心は素直にうれしいです。具体的に頂き物がある「サポート」だけは真面目に書こうと思いましたが、すみません、やはり捻ってあります。でも本心は、心から感謝しています。