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王座戦での評価値の疑問

 
 前回記事で王座戦2次予選羽生九段対藤井九段のことを書いたが、将棋ブログの達人大沢一公もちょうど同じ日に採りあげていた。彼と同じ日に同じネタを書いていたとは、なんとなくうれしい。ただ、彼が深夜23時エントリーだったのに対し、こちらはお昼にアップしている。半日のズレがあるわけだ。
 
 そこで、またも勝手に彼のそのエントリーを載せてしまう。noteでも読まれてほしいからだ。もっとも、勝手にとはいっても、彼からは「いつでも好きなときにどうぞ」と言われている。一回一回彼に連絡を取らないのは、連絡を取ると、「こんなブログでよかったら」などと、卑下した言葉を添えて承諾するからだ。「こんなブログ」じゃないから、転載しようと思うのに……。
 
 まぁ、彼、大沢一公の書く王座戦も読んでほしい。以下が、そうだ。
 タイトルは、『藤井九段の逆転負け?』だ。

 26日は第70期王座戦二次予選・羽生善治九段VS藤井猛九段戦が行われた。
 現在「藤井」といえば藤井聡太竜王を指すが、将棋ファン限定で「藤井ファン」を投票すれば、このふたりはいい勝負になる気がする。
 
 当日はABEMAで放送があったが、これはよい選択である。藤井竜王の中継もいいが、たまにはこういう注目のカードも中継してもらいたいものだ。
将棋は羽生九段の先手で、居飛車明示に、藤井九段が四間飛車に振った。対して羽生九段は▲7九銀形のまま▲6八金直と立つ独特の形。これは△8八角成を形よく▲同銀と取るハラである。
 
 将棋は互角のまま中盤に進んだが、王座戦は持ち時間5時間。とても私は付き合いきれず、途中でテレビを見たりしていた。
 羽生九段は▲4五歩~▲4四歩とし、角銀総交換になった。しかしこれは高美濃囲いになっている後手が十分だろう。これは藤井九段が勝つと思った。
 そこから局面は飛び、夜に見ると羽生九段が▲8九玉と引いたところらしかった(図)。

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 この局面でAIの評価は「藤井九段96%・羽生九段4%」だった。次は誰が指しても△8七銀成である。対して▲5一竜が恐いが△5二角が妙防で、藤井九段が勝つらしい。
 △5二角は打ちづらいが、プロなら読み切れる順である。両者の対戦成績は、羽生九段の37勝、藤井九段の16勝。藤井九段の持ち時間は26分に減っていたが、これはいよいよ藤井九段が一矢報いると思った。
 
 ところが、それからしばらく経ってPCを見ると、「羽生九段の勝ち」と出ていたので、唖然とした。
 藤井九段、なんでこの将棋を負ける? 藤井九段、またやっちまったのか?
 
 感想戦を聞くと、実戦は図から△8七銀成▲5一竜と進んだが、そこで藤井九段は△5二桂合としたらしい。
「だって△5二角じゃ▲4二銀△5四玉▲5二竜で、角を取られちゃうもんね。
 それより△5二桂のほうが4四にも利くから、よろこんで打ったんだ」
 と藤井九段。その気持ち、よく分かる。
 
 実戦は後日の調べで、△5二桂以下▲4四馬△同玉▲4二竜△4三歩▲4六飛と進んだことが分かった。この飛車打ちが後手は痛く、後に▲8六飛と桂を外す手がある。このとき後手の持駒に桂が残っていれば、△9七桂▲同香△9八銀で先手玉が詰むのだ。だから後手は桂を温存しておかなければならなかったのだ。
 
 実戦も羽生九段が巧みな手順で後手玉を追い角を取ると、藤井九段が投了してしまった。
 これがまた早い投了に思えたのだが、実際はどうなのだろう。
 
 藤井九段が△5二角合に気付いていなかったわけだから、藤井九段は難しい形勢、と捉えていたわけだ。そして羽生九段もまた、ここまで悪いとは思っていなかった――というかむしろ、先手有利、くらいに考えていた。
 となれば、不利の時間が長かった藤井九段が戦意喪失し、投げてしまったとしても不思議ではない。
 つまり、AIは後手勝勢と断じていても、それは別世界の話であって、人間の戦いでは、先手がそのまま押し切った、という構成にならないか?
 いや、藤井竜王ならどう指したか。平然と△5二角と打った気がする。そしてそれ以外の順では後手に勝ちがなかったことが分かり、さすが藤井竜王と、後世に語り継がれた気がするのだ。
 
 AIの評価値のあり方、この将棋にまったく関係ないのに、なぜかある藤井竜王の存在感。いろいろ考えさせられてしまった。

 前回記事で、AI評価値が「劇的さ」を煽る道具のように書いたが、大沢さんはそこまで断定していないものの、やはり評価値に疑問を持った書き方をしている。
 彼と同じ感覚でうれしい。ホント、別世界の話だ。

書き物が好きな人間なので、リアクションはどれも捻ったお礼文ですが、本心は素直にうれしいです。具体的に頂き物がある「サポート」だけは真面目に書こうと思いましたが、すみません、やはり捻ってあります。でも本心は、心から感謝しています。