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王座戦の羽生善治対藤井毅をabemaで観る

 
 昨日はabemaTVで王座戦を視聴。本戦ではなく2次予選だったが、羽生さん対藤井毅さんという、多くのファンを抱える人気棋士で、視聴者数は多かったはずだ。
 
 また戦形も、ファンがよろこぶような四間飛車対急戦(先後は逆)。もちろんぼくもよろこぶ。
 王座戦は持ち時間各5時間なので、じっと見続けるわけにはいかず、途中は視聴を端折ったが、終盤は腰を落ち着けて観た。
 
 じっくり観だしたのは藤井さんがAI数値80パーセントくらいになっていたところ。9二に飛車を打たれて美濃囲いから中央に追い出されるも、羽生さんの玉頭に迫って追い詰めた。
 
 一段目に落ちた羽生さん玉の頭上に銀を成って手を渡し、藤井さん勝勢。AIの評価値も羽生さんひとケタに、藤井さん90パーセント超え。あとは「最後の羽生さんの攻めを受けきって勝ち」、という展開だった。
 しかし羽生さんの一間竜の王手に、藤井さんが桂馬で合い駒。それで一気にAIの数値がひっくり返った。解説や聞き手がいれば、「えッ!」と声が出たところだろう。
 羽生さんの評価値、70パーセント超え。AIの示す合い駒は、角だった。
 
 一間竜をごく簡単に説明すると、竜の、玉に近いところからの王手のこと。飛車が成った竜は斜めにも動けるので、接近戦では威力を増す。一間竜の多くは、玉がその場で踏ん張れず、合い駒が取られてしまうことが多い。
 
 だからここで角を使うのは、人間心理としてなかなかむずかしい。どのみち取られるのならば、安い駒で済まそうと思うのは当然だ。しかし桂合いのあと、羽生さんが緩手なく指し、きっちり藤井玉を寄せきった。
 
 ネット記事では「敗色濃厚から逆転勝利」と書かれていたが、その下のコメント欄には、そのタイトルに疑問を呈する声が紛れていた。「対局者は数値の映る画面を観ていないのだから、有利不利を感じていたか分からない」、というような。
 たしかに、あの場面で『角合い』することが条件の評価値90パーセントなら、指し手の心理として、それは90パーセントではない。
 『桂合い』と、ちょっと間違えたとしても有利のまま、ということであれば、人間心理も含めた90パーセントだ。あんな手順をシラッと90パーセントと示してしまうAIでは、ドラマチックさを煽るためだけの、あるいは演出するだけの道具にも感じる。
 
 昨年の朝日杯で、藤井聡太さんがAI数値1パーセントから勝ったことが話題になった。しかし相手の渡辺さんが感想戦で首を傾げていたように、金捨ての絶妙手を指すことを念頭に入れた、渡辺さんの99パーセントだった。『金捨て』が読めない以上、人間感覚では敗勢だ。「いやぁ、1枚足りない」、と……。
 
 画面に数値が出てしまうことは、もう仕方ない。今さら消せと言ったって、放送側は消さないだろう。しかし、もうちょっと人間感覚にあったAIへと改良してほしいところだ。「手直しする」という高度なことは、AIにはできなくても人間にはできるのだから。
 
 記事は、あの内容でまぁしょうがないかなと思う。実際画面に出ている数値から見れば逆転なのだから。視聴者に沿って書くしかないだろう。「対局者はそう思っていなかった」と記事に挟むことも可能だろうが、ネット記事は時間が勝負だろうから、対局者からすぐ本音を吐いてもらうのは至難の業だ。
 今の世は、軽いファンからマニアまで納得する全方位原稿はむずかしいと思う。熱心なファンは、記事にはガマンかなぁ。

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