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『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』とは庵野秀明氏のクリエイションの集大成であった。

シリーズ開始から26年、最終作となる新劇場版第四段「『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が一昨日3月8日(月)、遂に公開された。初日動員は50万人超え、興行収入は既に8億円突破と、長年待ちわびたファンの積年の思いを晴らすかの様なロケットスタートを切っている。最終興行収入は最低でも70・80億円はおそらく行くだろう。

以後論点はとても局所的ではあるが本作について思ったことを記録しておきたい。

※本劇場版と「ふしぎの海のナディア」のネタバレを含みますので未鑑賞の方はご注意ください。

■庵野さん作品郡の集大成としての本作

まだ消化し切れていないところは多々あるがこの作品を一言で表すと、エヴァンゲリオンシリーズ作品の完結であると同時に、庵野秀明氏のクリエイションの集大成であったという感慨が大きい。(パンフレット冒頭で発言されている様に、ご本人もそのつもりで本作を制作されたのだという意思が感じられる )

※「日式」「未来からのホットライン」なども影響も他レビューで語られておりますが自分は未鑑賞なので割愛となります。

ストーリー展開的には何より庵野氏が初めて監督をされたアニメ「ふしぎの海のナディア」とのつながりを強く感じた。

そもそも作品の監督だけでなく、キャラクターデザインの貞本氏、音楽の鷲巣詩郎氏、など制作スタッフも共通する所が多いのは多分にあるのが大前提だが。わかりやすいのは冒頭のエッフェル塔だ。ナディアでは第一話からパリ万国博覧会を舞台とする流れでエッフェル塔が登場し、第38話「宇宙(そら)へ」では、そのエッフェル塔が戦艦に見事に衝撃を食らいへし折れるシーンが描かれる。一方で既に公開されている様に本劇場版の冒頭ではエヴァ2/8号合体機体が倒壊したエッフェル塔をぶん回すというとんでも展開が繰り広げられる。

ただそれ以上に両作が共鳴するのは終盤である。戦艦ヴンダーとともに自らを犠牲にし人類と愛する息子を守ったミサト艦長の姿は、ナディアにてエレクトラとの間に子供を宿し、ノーチラス号と共に散ったネモ船長に重なる。そしてネモ船長に相対した宿敵ガーゴイルの声を努めた清川元夢氏は本エヴァシリーズでは冬月を、ネモ船長を演じた大塚明夫氏は今作ではヴンダーの高雄コウジ役を演じているのだ。個人的にはネモ船長役の大塚明夫氏を再び戦艦に搭乗させ、今作においてミサトの意思を汲み「今は生き延びるのはオレたちの仕事だ。どれだけ辛くともな。」という言葉を残させている所には、もう胸が熱くならざるを得なかった。

また、同じく終盤で出てくる手書きのアニメーションは、2014年のドラマ「アオイホノオ」で垣間見た、庵野氏が大学時代に発表された手書き映像作品を彷彿とさせたし、その当時まさに制作スタッフとして参加されたという「風の谷のナウシカ」からはエヴァに着想を与えたという巨神兵が登場する。そして今作は「シン・ゴジラ」にて獲得した実写的な制作アプローチを本アニメーションの制作にも取り込んでおり、新しい手法の確立にもチャレンジしているようだ。「ナディア」が放送された1990年-91年からちょうど30年。ストーリーだけでなく表現手法においても自身の過去と向き合い、持てるものを全て注ぎ込まれたという本作は、エヴァシリーズの完結という以上に、庵野秀明氏の創作の歴史を辿る上での集大成として、日本や世界のコンテンツ、アニメーションの歴史においてより大きな意味を為していくのではないだろうか。

■主題歌「Beautiful World」とエヴァ

本作の主人公は最早、碇シンジであると同時に碇ゲンドウであると言っても過言ではないだろう。拒絶していたシンジとの対話を通じ、初めてゲンドウ自らも自分自身と向き合いシンジ(初号機)の中に眠るユイとの再会を果たすこととなる。

そしてエンディング、beautiful worldの歌詞はまさに碇ゲンドウのそうしたたった一つの願いとこれ以上ないほどに呼応してくる。シンクロ率2-300%どころではないのだ。元々宇多田ヒカル氏はエヴァのファンでありそこから楽曲提供を依頼されたというのは有名な話であり、世界観を熟知した当人が描く歌詞だからこそファンにも訴えかけるものが作れるというのはあるのだろう。ただこの楽曲が発表されたのは2008年であり、2007年劇場版の序と2009年公開の破の間である。最終的な第四段本作のオチをもはや予言しているかのような歌詞。もはや神の所業かと疑いたくなる程だ。。

It’s only love

もしも願い一つだけ叶うなら
君の側で眠らせて どんな場所でもいいよ
Beautiful world
迷わず君だけを見つめている
Beautiful boy
自分の美しさ まだ知らないの
(中略)
言いたいことなんか無い
ただもう一度会いたい
言いたいこと言えない
根性無しかもしれない
それでいいけど
(中略)
僕の世界消えるまで会えぬなら
君の側で眠らせて どんな場所でも結構
Beautiful world
儚く過ぎていく日々の中で
Beautiful boy
気分のムラは仕方ないね

もしも願い一つだけ叶うなら
君の側で眠らせて

※引用元:うたまっぷ「ttps://www.uta-net.com/song/55539/

エンディングが流れてきた時、ストーリーとのシンクロに驚くと共に、正直涙がこぼれそうになった。

(宇多田さんの楽曲とエヴァとの関係性についてはこの記事がめちゃくちゃいいこと書いてる。※引用したい所多すぎるので割愛します)

■最後に

人類補完計画。本作を持ってして、これは碇シンジの救済であり、碇ゲンドウの救済でもあった。そしてそれは結果として、TV版、旧劇場版からの混乱と失意に陥ったファンたちをも救済する結果となったはずだ。そう考えるともはや庵野秀明氏はエヴァシリーズを通じて浮き沈みを含めた結末をあえて描いてきたことで、最終本作による作品内のみならず現実世界の人類をも最大のカタルシスをもって補完することに成功したと言えるのかもしれない。そしてそれもある意味、本作が提示したテーマである「他者との共生」の1つなのかもしれない。なんたるスペクタクルか。

いやはや、長きに渡りこれだけの興奮と混乱と感動をもたらしてくれた庵野氏と全ての制作スタッフに感謝したい。そしてさようなら、全てのエヴァンゲリオン。

(個人的には、「シン・〜(シリーズ)」のウルトラマン/ゴジラ/エヴァは権利元の調整は前提必要となるだろうが何らかの形で今後つながっていくのではと想像している。そしてそうなれば日本的なIPのユニバース構想となりうるのではとは思っている。が、さてどうだろうか...)

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