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【全文無料】掌編小説『都会の星』誠樹ナオ

冬は星空が特に綺麗に見える。

『21個の1等星のうち、日本から見えるのは15個なんだ。さらにそのうち7個が冬の星座の中にあるんだよ』
『相変わらずうんちくばっかりだね』
クスクス笑いながら、彼のマンションの屋上から見える大して綺麗でもない星空を眺める。
『こんな明るい空じゃ何も見えないよ』
『そんなことないよ。1等星は分かるだろ。星座を知らない人でも眺めるだけで楽しいよ。覚えれば簡単に星座をつなげることができるのが冬なんだから』

そんなことを思い出しながらぼんやり空を眺めていると、隣からそっと肩を抱かれた。
「何考えてるの?」
「あ~、オリオン座だなって」
「星座、詳しいんだ?」
「冬のだけね」
教えてくれた彼は、もう今はいない。
「1等星が7個あって、冬は星座を見つけやすいんだよ」
「へえ」
見上げた空に、星が瞬き始めていた。
都会の空は明るくて、大して美しくもない景色だ。

「星って、昼間も空にあるんだってね」
「……そうなの?」
違ううんちくが、隣の彼から出てきたことに少し驚いた。
「見えなくても、この星々はいつも空に浮かんでそこにあるってことだよね」
「見えなくても……いつも、そこに」
「人はちゃんとそこに存在しているものを、見ようとしていないだけなのかもしれない」
涙が滲みそうになって、慌てて何度も目を瞬かせた。
1等星の彼も、いつもそこにいるのかな。
星空を見上げる傍に感じる温もりに胸が締め付けられる。
今だけは、別の人のことを考えているのを許してね。
都会の星の光はか細く、だからこそ殊更に優しかった。


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