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文学フリマ特別号・舞神光泰『たまごやきの輪郭』

11月23日開催、文学フリマに【クー36】「Sugomori」として出店。物書きメンバーが【隣人】をテーマに執筆した、新刊「文芸誌Sugomori vol.2」(800円)を発売します。vol.1から半年経て、物書きメンバーに起きた生活の変化をつづった書き下ろしエッセイ【すごもりのおとも】とともにお楽しみに。今回は特別記事として、少しだけ先読みができます。書き手は舞神光泰さんです。

 夜中、物音がしたので目が覚めた。
カタカタと小刻みに襖が揺れている。地震かと思ったが揺れているのは和室と洋室を隔てている襖だけで、リズミカルに動いているのがなんだか面白くてボーッと見ていた。
 ふと、その正体が分かった。
「あぁ、セックスか」
 思っただけのつもりだったが声に出ていて、急に揺れが止まった。
 壁も天井も薄いこのアパートで窓が開いているのだから、上の住人に聞こえていてもおかしくない。気まずい空気が上から流れてきている気がする。こういう時どうするのが人として正しいのだろう?
 「お気になさらず」「続けて大丈夫です」「独り言です」と声を発するのは絶対に違う。「もしもし、いやこっちの話だから、だいじょうぶ、おやすみ」そんな電話のフリをするのは白々し過ぎてとても出来ない。色々考えてみたが「ちょうど」のタイミングだったに違いないと思うことにした。一気に揺れが激しくなった後に急に止まったわけだから、男が果てたわけだ。
 拙い想像だと自分でも笑ってしまうが、正直なところ本当にセックスの揺れだったのかすら分からない。安眠するつもりが、すごくイヤな気持ちがして枕を抱きかかえる事にした。ヒソヒソとした女性の声で「もう寝たかな」「大丈夫でしょ」など聞こえてきた気がする。たぶん夢の中の睦言だ。
 頭の上では、静かな揺れが再開されていた。


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