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【全文無料】掌編小説『今年を占う』柳田知雪

「占い結果どうでした?」
 液晶パネルで雑誌の占いページを開いたままの私に、美容師さんは尋ねた。
 鏡越しに目が合って、マスクの中で曖昧に笑う。
「366から生年月日を足した合計を引いて、出た数字を一桁に分解して9以下になるまで足せって言われてるんですけど、全然暗算できなくて」
「めっちゃややこしいですね、その占い」
「でも、このバミューダ四角先生って占い師さん、めっちゃ当たるって評判なんですよ」
「へぇ、名前もなんかややこしいですね」
 そう返される頃には、再び頭の中で数字を思い浮かべていた。
「えーっと……8、かも?」
「お、結果はどうです?」
「『何をやっても裏目に出てしまう一年になりそう。欲はできるだけ捨てて、周りの人への思いやりを忘れず慎重な行動を心掛けて』……だそうです」
「ま、まぁただの占いですしね!」
 決して明るい結果とは言えない文言に、美容師さんもフォローへと回ってくれた。
 その言葉はごもっともだが、『欲はできるだけ捨てて』という文言が胸に刺さる。
 正月明けに美容室に来れば、美容室で雑誌の占い特集を読むことができる。という打算も合って今日に予約を入れた。
 そんながめつさを見透かされているようで、そっと端末を鏡台へと戻したのだった。

 その日の夕食は、まさに占い結果を体現するかのようだった。
 スーパーへの買い出しはタイムセールを狙っていくも、お目当ての国産牛は全て売り切れていた。
 そんなショックを引きずってか、普通の卵を買うつもりが温泉卵を買ってしまい、調理中も注意力が散漫で牛肉の代わりに買った豚肉は焦がしてしまった。
「気にしすぎだって」
 旦那はパクパクと焦げた豚の生姜焼きを食べながら笑い飛ばす。
 しかし、予言通り全てが裏目に出ているように思えて肩を落とした。
「今年一年、ずっとこんな感じなんて辛すぎる……」
「なんだっけ、そのバミューダ三角先生? どんな占いなの?」
「バミューダ四角先生ね。366から生年月日を足した合計を引いて、出た数字を一桁に分解して9以下になるまで足した数字がその人のフォーチュンナンバーなんだって。私は8だったんだけど」
「めんどくさ」
 そう言いつつ、旦那は生姜焼きをじっと見つめて一拍置く。そしてふいに首を傾げた。
「フォーチュンナンバー違くない?」
「えっ」
「うん、多分。7だよ」
「えぇ!?」
 何ならスマホの電卓まで出して、旦那は私の生年月日を打ち込んでいった。そして最終的に7という数字だけが残る。
「占いなんて、やっぱこんなもんだよ」
「……そうかもね」

 翌朝、朝食を食べながら情報番組を眺めていた。
 11位から発表されていく占い結果の中に、自分の星座が出てこなくて、ついドキドキしてしまう。
「懲りないなぁ」
「しょうがないじゃん。もう習慣みたいなもんなんだから」
 結果、私の星座は2位だった。
『誤解が解けてハッピーな一日を過ごせそう! ラッキーアイテムは電卓です!』
 思わず旦那と顔を見合ってしまう。
 くすくすと笑いながらテレビ画面を消し、それぞれ出社の支度を整えるのだった。

*****


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