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【全文無料】小野寺ひかり「SDGsへの向き合い方」

文芸誌「Sugomori」9月では「SDGsへの向き合い方」について考えてました。今回の書き手は小野寺ひかりさんです。

漫画『葬送のフリーレン』(山田鐘人/アベツカサ)(小学館)に印象的なエピソードがある。

かつて強力な力持つがゆえ勇者にも倒せず、封印された魔物がいるというものだ。80年の時を経て改めて戦いのときがやってくるのだが――『葬送のフリーレン』はファンタジーを舞台にした世界観で、ひと味違うのは、勇者らの冒険はとうに終え、勇者一行の仲間だったエルフ・フリーレンが主役である点だ。フリーレンは、縁あり人間の少女・フェルンを弟子にしている。いざ魔物の封印が解かれるのだが、攻撃を受けてフェルンは驚く。「これは“一般攻撃”魔法です」と。過去最強とされた魔法だったが80年の歳月のうちにすでに研究され尽くされ、“一般”魔法の体系として取り込まれてしまったのだ。魔物は、フリーレンの攻撃によりあっけなく崩れ去る。

私にとって「SDGs」への向き合い方は、他ならない魔物との向き合い方と同様のものだ。考えるだけでため息が出る。世界に根強く残る問題は、一朝一夕に解決へ向かうことはできないだろう。「差別」とは。「貧困」とは。「資源」とは。2021年、コロナ禍や五輪をめぐる報道により明らかになった日本の今――「ふつう」とは。
だからこそ生活と根強くあるべきだという論が展開されることも推察されるが、今のところ“2030年”までのゴールと据えられてしまっている。残り9年、掲げるだけのスローガンになりはしないか。先日もまた男性の育休を認められない経営者が4人に1人を占めるという報道が流れた。


「ジェンダー平等の実現」から考えれば育休制度に反対すること自体がありえない。「SDGs」そのものを語ることに少しの疑問符がつく理由だ。記事本文の言い方をすれば、すでに「古い」世代が何も買えられず、新しい考え方を浸透させられずにいる。
先の話に戻るが、人間の希望はいつも「次の世代」なのだと考える。月日が経てば、人間は入れ替わる。新たな知識を身に着けた人間の営みがはじまる。忘れられていく人の顔も、歴史もあるだろうが、“魔物“に打ち勝つことができる力もいずれ身につくことだろう。
私が老いるころにはきっと――もちろん人間の視点では、80年の月日を長いと言わざるを得ないが――残り9年と発信されるよりも、よりよい変化を得るためには十分な時間だと思う。

『葬送のフリーレン』
作画: アベツカサ
掲載誌: 週刊少年サンデー
原作・原案など: 山田鐘人
出版社: 小学館

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