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「愛」のわき出る温泉地は、いかがですか?

「いやぁ、なにもないところですよ。」

自分の地元のことを褒められたり、質問されたりしたときに、咄嗟にこんな言葉が口を出そうになったことありませんか?

東京や大阪などの都会には、なにかがある。それに対して、地方には、なにもない。いつの間にか、そんな格差が当たり前に語られるようになってしまいました。

その状況をよく表しているのが、「地方創生」という言葉です。創生という言葉を調べてみると、「初めて生み出す、初めてつくる」という意味で使われるようです。ということは、地方創生とは、地方を初めて生み出す。不思議な言葉です。


どんな人にも、生まれた町があり、育った地域があり、胸に抱いている地元があります。それが1つの人もいれば、たくさんの地域で育った人もいるでしょう。

でも、生まれ育った町を持たない人はおらず、地元のない人もいません。そんな地元という場所は、きっと「地方」という言葉では表現しきれない場所のはずです。そして、誰かに作られるまでもなく、昔からずっとそこにあった場所のはずです。

そこには人がいて、場所があって、関係性がある。思い出があって、痛みがあって、笑いがある。友達がいて、好きだった人がいて、怒ってくれた大人がいる。そんな場所が、きっとあるはずです。

誰かに「地方」と発見される前から、その場所はずっと、そして、今も誰かの地元のはずです。そこには、愛が埋まっています。ならば、必要なものは、その愛がわき出てくる温泉地かもしれません。

そんな愛のわき出てくる温泉地の、素敵な旅館を見つけました。

それが、佐賀は嬉野にある旅館大村屋さんです。

旅館大村屋さんは、佐賀県の温泉町、嬉野温泉にある老舗の旅館です。どれくらい老舗かというと、1830年(天保元年)創業と言われています。

1830年と言われてもピンとこないと思いますが、ペリーの黒船来航が1853年なので、それよりも20年以上も前のことで、吉田松陰と大久保利通が生まれた年です。とにかく大昔だということが伝わるかと思います。

そんな200年近く続いている旅館大村屋さんの温泉には、愛がわき出ていました。この愛がわき出てくる温泉を見つけるには、旅館大村屋の15代目の北川健太さんはもちろんのこと、ライターの大塚さんという方の存在も外すことができなかったように感じました。

大村屋さんのnoteは、大塚さんの書くこの1本から始まっています。

およそ1年前に公開されたこの記事を皮切りに、北川さんと大塚さんは嬉野の人を紹介するnoteを出し続けます。そして、このnoteは大村屋さんのアカウントなのかと疑ってしまうほどに、旅館の話が出てきません。

とにかく、嬉野の人にスポットを当て続けています。そして、このnoteに登場するどの人も魅力的なことはもちろん、どの人の言葉にも愛が溢れています。

たとえば、嬉野高校の観光コースの山本先生と北川さんとの対談noteがあります。

「上の人」たちの意向によって、いろんなことがうまく進まないこともあります。そんな時でも、山本先生は、生徒たちにこんな言葉をかけるそうです。

「先生、私たちが頑張っても意味ないよ」と思う生徒もいると思います。でも、それでもね「言うべきことは言うんだ」「会議の中に意見を投げ込むんだ」と話しています。「私たちだけは『どうせ』と言うのはやめよう」って、伝えています。

どうせ同じだから、どうせ地方だから、どうせ、どうせ、どうせ。。。

一度、この言葉を口にしてしまえば、きっとずるずるとハードルが下がってしまう。できないことが増えていってしまう。そして、それを仕方がないことだと受け入れてしまう。

それでは、この町はずるずると弱っていくばかりだから。そう思っての言葉だと思います。

「私たちだけは『どうせ』と言うのはやめよう」

町への、人への愛に溢れた言葉です。


また、日本で初めてブラウンチーズの製造に成功し、そのブラウンチーズでチーズの世界大会の銅賞を勝ちとったナカシマファームの中島さんという方もこのnoteに登場されています。

旅館大村屋さんで提供されている牛乳プリンは、ナカシマファームさんとのコラボレーションによって誕生した商品だそうです。

そんな中島さんと北川さんとの対談の中で、中島さんからこんな言葉が出てきます。

自分のアイデンティティーと仕事、それに土地となると、もう自分しかいなくなる。そこにさらに自分のやりたいことをかけ合わせていく。そうすれば、唯一無二になれますよね。

自分らしさや自分の仕事について考えたときに、その地元・土地というものに自分を掛け合わせることで唯一無二になれるという言葉。

それは、どこがいいとか、どこが優れているというものではなく、自分がいるその場所に意味があるという気づきを与えてくれる言葉です。

この言葉には、酪農というものが、きつい仕事・儲からない仕事と思われてしまって、選ばれにくいという現状を思ってのことなのかもしれません。

そのために必要なことは、選択肢を見せることだと、中島さんはおっしゃっています。

「こっちもあるよ」という選択肢を見せ続けたいと思っています。たとえば、田舎では「農業ではメシが食えない」って思われがちです。だから、子どもが「農業の道に進みたい」と言っても、親が止めてしまうという現状があります。実際は頑張ってうまくいっている農業の方はたくさんいらっしゃるのに。

その場所で、地元で頑張っている人たちがいることを知っているからこその言葉なんだと思うと、ここにもやはり愛が溢れています。

その他にもたくさんの嬉野の人たちとの対話が刻まれたnoteには、温かい愛に溢れています。ぜひ1つ1つ読んで欲しいnoteばかりです。


大村屋さんのnoteを読めば読むほど、嬉野という町が、人が好きになっていきます。そして、それと同時に、こんな疑問も生まれてきます。

なぜ、ここまでして嬉野の町を紹介し続けるのか。そして、大村屋の旅館の宣伝をしないのか。

その背景には、北川さんが大切にしている言葉があるようです。

それが、「一番になるな」です。その言葉の意味について、北川さんのnoteではこのように書かれています。

「一番はこの嬉野という土地であり温泉である。旅館はその上で商売をさせてもらっている。決して自分の旅館が一番と思うな」そんなメッセージだったと思います。自社のことはもちろんだが、嬉野温泉の魅力を磨いてこのエリアに行きたいという人を増やすことも同じくらい重要。

自分たちが一番になることよりも、この嬉野という町の魅力を磨き、ここにいる人たちの魅力を伝えることが大事だという考え方。

それは、何よりも町への愛、そして、そこに住む人たち、訪れてくれる人たちへの愛に溢れています。


地元の人たちが持っている愛情をつなぐ場所として、大村屋さんがあるのかもしれません。

そこには、北川さんをはじめとして、200年近く「この土地が一番だ」と考え、土地を町を、人々を大切にしてきた、たくさんの人の思いがあるからこそできることなのかもしれません。

何年も、何十年も大切にされてきた愛のわき出る温泉地で、心も体も温まってみませんか?きっと、「地元」の人たちがやさしく迎え入れてくれます。


このnoteでは、私たちが「愛とアイデアがある」と感じた企業さんについて語り、そして、できれば繋がり、そこから愛とアイデアを生み出すきっかけを作りたいと思い、始めたものです。

今回は、「愛」のわき出る温泉地にある、旅館大村屋さんをご紹介しました。次回の、愛とアイデアのある企業もお楽しみに。