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鍵は幼少期と読み聞かせ?:読み書き力について考えよう

読み書き。子供のうちに必ず身につけさせたい能力の一つですよね。国際的にみても識字率はかなり高い日本ですが(参考文献参照)、読み書きの得手不得手は少なからず存在していることは皆さんも実感があるかと思います。読み書きの能力はいったいどのように発達し、いつ個人差が生じると考えられているのでしょうか?教育学における論文を紹介します。

キーテーマ

読み書き・幼児教育・読解力・記述力・モチベーション・教育格差

主題・結論

読書量が飛躍的に増える小学校一年生の入学時での「読む力」が、長期的な(小学校四年生程度まで)「読む力」と強く相関している。

・もともと「読む力」が高い生徒は学年が上がっても高い読解力を身に着け、もともとの「読む力」が低い生徒は低い読解力になってしまうことが多い。
・一説として、「読む力」がもともと高い生徒ほどその後の読書量が増えるため、雪だるま式に差が広がっていく説が考えられる。

一年生時点での「読む力」はその後(四年生)での「書く力」とも高い相関性を示す。

・「書く力」を伸ばすためには文章との接触回数が重要となるため(後述)、「読む力」がこちらでも雪だるま式に影響を与えるという説が考えられる。
・「読む力」がもともと低い生徒に関しては、差が広がらないように、文章との接触量を担保するための読み聞かせ等の取り組みを行うと良いと考えられる。

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前提(時間のない方は飛ばしてください)

上記結論の前提となります。「読む力」「書く力」とは実際何なのか?、というテーマについて関心のある人向けです。

教育学において広く認められている、Simple View of Readingとは・・・

「読む力」= Decoding(音声化、単語認識)× Comprehension(理解力)

Decoding
・書かれている記号(ひらがな・アルファベット)を頭の中で音声化し、意味のある単語として認識する力
・「読む力」の礎となる。言葉遊び・童謡等が発達に効果的といわれている。

Comprehension
・書かれている単語を文章として理解し、意味・文脈を理解する力
・Decodingの次のステップ。読書量・文脈から切り離された文章との接触量により発達が影響されるといわれている。

「書く力」= Spelling(スペリング)× Ideation(アイディア力・創造力)

Spelling
・単語を正しいつづり・記号で記述する力
・「書く力」の礎。Decodingとは逆に、音を正しく記号に直す力。正しいスペルの単語と多く接触することが効果的といわれている。
Ideation
・自分のアイデアを創出し、文書としてまとめる力
・文章をたくさん読み、聞き、構文や文脈の種類をより多く見つけることで伸ばすことができるといわれている。

上記を見てお分かりのように、Comprehension・Spelling・Ideationは「多くの文章と触れる(読む・聞く)」が上達のための大前提となっています。そもそものDecodingの時点で躓いてしまうと「読むことが苦痛になる」→「他の力も伸び悩む」→「授業によりついていけなくなる、読むことがさらにつらくなる」の悪循環になってしまうのです!この悪循環を少しでも是正するために、読むことに対する苦手意識を持つ子供には読み聞かせ等の手段が効果的であると考察されています。

20220222_鍵は幼少期と読み聞かせ?:読み書き力について考えよう

実験デザイン

*読みやすいように要約しています。

アメリカ国内の小学校における生徒54人に関して、小一~小四の四年間を通じて「読む力」「書く力」の推移を調べた。また、アンケートを通して各生徒が本を読むことに対してどのような印象を持っているのかの推移も調べた。結果:一年生入学時点と四年生終了時での「読む力」の間に強い相関性が見られた。一年生入学時点と四年生終了時での「書く力」の間に強い相関性が見られた。一年生入学時点での「読む力」と四年生終了時での「書く力」の間に強い相関性が見られた。「読む力」が高い生徒ほど、本を読むことに対してより好意的に捉える傾向があった。

まとめ

幼少期の「読む力」「書く力」はその後の「読む力」「書く力」と強い相関性が見られる。これらの力は雪だるま式に身につけられていく可能性が考えられるので、遅れてしまった生徒に対しては少しでもモチベーションを保てるよう読み聞かせなどの取り組みを取ることが大事だと考えられる。

留意点

実験は英語に関するものとなります。
他言語に関する考察は行われておりません。

あくまで相関関係に対して考察した研究となります。小学校一年生時点での学力差は取り戻しようがない、という結論を示唆する研究ではありません。小学校以降で「読む力」「書く力」を伸ばすことに成功した事例も存在します。

今回の実験結果はあくまで相関性を示すものになります。

エビデンスレベル:観察研究

編集後記

当たり前のように家庭で行われている「読み聞かせ」や「言葉遊び」などの背景には意外と奥深い意味が隠れてるんですね。幼少期以降どのように読み書きの力を伸ばすことができるのかということが気になったので、該当する研究が発達でき次第こちらでも共有させていただければと思います。

文責:山根 寛

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Juel, C. (1988). Learning to read and write: A longitudinal study of 54 children from first through fourth grades. Journal of Educational Psychology, 80(4), 437–447. https://doi.org/10.1037/0022-0663.80.4.437Literacy 

Rate by Country 2022. (n.d.). Retrieved February 22, 2022, from https://worldpopulationreview.com/country-rankings/literacy-rate-by-country

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