先生がいきいきと働ける環境を作るには?
日本でも「ウェルビーイング(Wellbeing)」という言葉が市民権を得てきていますが、教育政策を考える上で「教員のウェルビーイング(※)」は欠かすことのできない要素です。
日本では特に学校の働き方改革の文脈で必要性が増しているのではないでしょうか。
今回は、オーストラリアにおいてNAPLAN(全国学力テスト)やMySchool(各学校の学力データなどを親など市民へ公開するウェブサイト)という施策へ警鐘を鳴らす研究者が実施した、教員のウェルビーイングに関する文献レビューを紹介します。
※今回の研究では、教員のウェルビーイングを「同僚や児童生徒との関係において構築される職業上での充実感・満足感・目的意識・幸福感」と定義しています。もともと、教員のウェルビーイングは燃え尽き症候群(Burnout)の関係で検討されていましたが、昨今ではよりポジティブな側面への注目が増していると指摘されています。
キーテーマ
教員のウェルビーイング、文献レビュー
結論
感情・同僚性・プロフェッショナリズムという教員のウェルビーイングに必要な要素は、新自由主義による合理性・競争・業績評価により疎外されている。
教員のウェルビーイングを促進するには、1) 感情知能(Emotional intelligence)を向上させるための活動、2) 職業上でお互い支援し合う学びのコミュニティ (Professionally supportive learning communities)を取り入れることが効果的である。
研究デザイン
教員のウェルビーイングに関する25の研究(定量研究16, 定性研究9)を横断的に検討した。
結果
教員のウェルビーイングは 1) 仕事における感情、2) 人間関係、3) 社会的文脈の3観点から検討されてきた。
仕事における感情
a) 感情知能、b) 自己効力感、c) 専門職としての力量、d) 自分の価値が認識され、尊敬され、支援され、大切にされていると感じること、e) 児童生徒と働くことによる楽しさ・喜びが、教員のウェルビーイングに必要である。
人間関係
a) 同僚間のコミュニティ、b) キャリア開発、c) 専門職としての力量向上、d) 支援的な学校管理職、e) 教職員と児童生徒の両者を対象としたウェルネス向上の取り組みが、教員のウェルビーイングに必要である。
社会的文脈
a) 仕事量の増加、2) 学力向上へのプレッシャー、3) 教員の声や主体性・自律性が反映されず、教員の専門性が尊重されない環境は、教員のウェルビーイングにネガティブな影響を与える。
一方で、狭い学力観に基づく合理性・競争・業績評価といった新自由主義の要素が教員のウェルビーイングを疎外している(以下図参照)。
新自由主義の環境下で教員のウェルビーイングを促進するには、1) 感情との効果的な向き合い方といったトレーニングを通して感情知能(Emotional intelligence)を向上させること、2) 学校管理職と教員間、教職員間でお互い支援し合う学びのコミュニティ (Professionally supportive learning communities)を確立することが重要である。
留意点
対象となっているのが英語で書かれた論文のみであるため、レビュー対象に偏りが生じています。
また、今回は文献レビューであるため、どの要素が教員のウェルビーイングに最も影響を与えているのか、どの方法が教員のウェルビーイング促進に有効かという質問に答えることはできません。
エビデンスレベル:文献レビュー
編集後記
筆者の指摘を言い換えると、1) 数字をベースとした学力の測定は教育で育みたいものを包括的に測定できているのか、2) 競争により学校・教員のパフォーマンスは向上するのか、と表現できるのではないでしょうか。
昨今の評価の多様化が1) への答えにどのような影響を及ぼすのか、実証研究より2) へどのような示唆が得られるのかなど、引き続き今後の記事で紹介していきたいと思います。
文責:井澤 萌
Acton, R., & Glasgow, P. (2015). Teacher Wellbeing in Neoliberal Contexts: A Review of the Literature. Australian Journal of Teacher Education, 40(40). https://doi.org/10.14221/ajte.2015v40n8.6
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