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【論文紹介】苦手科目・得意科目:あなたは何から勉強し始めますか?

期末テスト前にどの教科から勉強し始めるかー誰しもが悩んだことがあるのではないでしょうか。苦手な教科から勉強する人、得意な教科から勉強する人、はたまた好きな教科から勉強する人と、様々な作戦がありますよね。今回は、生徒が興味関心・得意不得意に応じて学習時間をどのように配分するのかという問いに関する研究を紹介します。

結論

学習時間が充分にある場合、人は難しいと思う内容により多くの学習時間を割り当てる。
一方、学習時間が不足している場合、人は簡単だと思う内容により多くの学習時間を配分する傾向がある。

この研究のスゴいところ

この研究のスゴい点は、それまでの研究に基づいた既定概念をさらに掘り下げ、学習者の行動に関するより詳細なモデルを提唱したことです。

この研究の登場前は、生徒は「差分最小化モデル」(discrepancy-reduction model: 筆者訳)に基づいて学習時間を配分していると考えられていました。端的に言うと、生徒は自分が到達したいゴール(例:テストで点数が取れる状態)と現状(例:勉強を始める前の状態)を比較し、その差分を埋めるべく学習時間を配分する、という考え方です。この既存のモデルに基づくと、生徒はより難しい内容のものにより多くの時間を費やす、ということが予想されます。より難しい内容のものの方がより学習に時間がかかるとすると、至極自然な結論ですね。実際、この研究以前は、このモデルを実証するような研究が数多く発表されていました。

差分最小化モデル

しかし、この研究の筆者らはこの「差分最小化モデル」が必ずしも当てはまらない場合がある、と考えました。それはテスト前など、生徒に多くのプレッシャーがかかっている状況です。この仮説を検証するべく、筆者らが自分たちの教え子に対し、「教科の間で学習時間をどう配分するか?」というアンケートを取ったところ、30%以上の生徒が「テストが迫っているかどうかによって変わる」と返答したのです。こうした結果を受け、この仮説をさらに検証するべく、筆者らは以下のような実験を行ったのです。

実験内容

*読みやすさのため、要約しています。
*本論文では3つの実験結果が掲載されていますが、そのうちの一つのみ(実験3)を紹介します。

コロンビア大学の生徒28人に対し、以下の実験を行った。実験は全てパソコン上で行われ、生徒は一人ずつ実験に参加した。

①あらかじめ生徒を14人ずつのグループに無作為に振り分けておく(生徒は自分がどのグループに所属しているかは知らない)。一つ目のグループを高プレッシャーグループ、二つ目のグループを低プレッシャーグループと呼ぶ。
②生徒の記憶力を測定する事前テストが行われた。
③スクリーン上に8つの短い詩が表示され、規定時間内でできる限り全ての詩を覚えるように伝られた。規定時間は生徒の事前テストの結果に応じて調整され、平均して低プレッシャーグループには高プレッシャーグループの約4倍の時間が与えられた(低プレッシャー:41分・高プレッシャー12分)。生徒にはあらかじめ既定時間の長さと、既定時間終了後にテストが行われることが事前情報として伝えられた。さらに、勉強開始前に生徒にスクリーン上の8つの詩を読ませ、それぞれの詩がどれほど覚えやすいと感じるかを10段階で示すように指示が与えられた。

④学習時間中、スクリーンには各詩の一節目が表示され、生徒は自分が勉強したいと思う詩に該当する節をクリックすることでその詩の全文を確認することができた。生徒はいつでも勉強する詩を変更することができ、既に勉強した事のある詩にもいつでも戻ることができた。
⑤生徒が学習をしている間、クリック情報を用いて各詩に費やされた学習時間の長さが測定された。

結果、高プレッシャーの条件下の生徒は、元々簡単だと判断した詩により多くの学習時間を費やす傾向が見られたのに対し。低プレッシャーの条件下の生徒の中ではこの傾向が観察されなかった。

エビデンスレベル:比較実験

編集後記

生徒が感じるプレッシャーの程度によって、行動の傾向が変わるのは面白いですね。すこし乱暴ですが、テスト勉強で追い込まれた生徒は得意な科目に時間を多く費やす、という解釈につながるのかもしれません。得意科目に時間を多く費やす⇒苦手科目に割く時間が減る⇒苦手科目で悪い点数を取る⇒苦手意識が高まる・・・という事態は避けたいですね。苦手科目でつまづかないためにも、追い込まれないようしっかり事前に準備をしておこう、というメッセージにつながりそうです。

文責:山根 寛

Son LK, Metcalfe J. Metacognitive and control strategies in study-time allocation. J Exp Psychol Learn Mem Cogn. 2000 Jan;26(1):204-21. doi: 10.1037//0278-7393.26.1.204. PMID: 10682298.

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