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失敗体験からの学びを遮断してしまう、私たちの〇〇

エジソンが電球を発明するために、一万回以上の試行錯誤と失敗を重ねた事は良く知られていますよね。失敗は恐れるべきものではない、学ぶ機会だ、という教えは誰しもがどこかで聞いたことがあるかと思います。とはいえ、頭ではわかっていても実行に移すのは難しいというのが多くの人にとっての現実ではないでしょうか。重要だとわかっているのにもかかわらず、失敗から学ぶことはなぜこうも困難なのでしょう?

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結論

人は自身の失敗を指摘するフィードバックから学びを得ることが苦手である。
一方、他者の失敗から学ぶということは相対的に見て困難ではない。
上記二点をふまえると、自身のエゴが脅かされるということが失敗から学ぶ事の難しさにつながっていると考えられる。

実験デザイン

*本論文では合計5つの実験を紹介していますが、ここでは2つを抜粋し要約しています。

実験①:失敗体験から学ぶことは成功体験から学ぶことと比較して困難
インターネット上で招集された300人の参加者(少額の報酬金を受け取る事を条件に集められている)を対象に、以下の実験を行った。

①グループ分け:
参加者をランダムに「成功グループ」「失敗グループ」に振り分ける。(参加者自身には自分がグループに振り分けられたということは知らされていない)

②学習フェーズ:
全参加者に対して、架空の言語に関する2択の選択問題が3問出題された。(下図参照)成功グループの参加者に対しては、3問それぞれに対して、「正解です」というフィードバックが表示された。一方、失敗グループの参加者に対しては、3問それぞれに対して、「不正解です」というフィードバックが表示された。

*架空の言語なので、実際の正解・不正解はありません。成功グループの参加者にはどう答えようが「正解です」というメッセージが表示されるようになっており、失敗グループにはどう答えようが「不正解です」というメッセージが表示されるようになっていました。しかし、2択の問題のため、成功グループ・失敗グループ共に自分にとって「何が正解であるか」を判断しうる情報を得ているということが実験のミソになります。
*学びのモチベーションをあげるため、学習フェーズの冒頭に全参加者に対して、以下のメッセージが示されています。「この一つ目のパートでは正解しようが間違えようが、学ぶことに注力してください。この後の二つ目のパートで正解すると、一問ごとに追加報酬1.50$を得ることができます!」

③妨害フェーズ:
全参加者に対して、「あなたの好きな音楽に関して、簡単に教えてください」という小作文の問題が出題された。この問題内容には特に意味はなく、参加者が学習フェーズの問題を丸暗記することを防ぐためのものだった。

④テストフェーズ:
全参加者に対して、同じ架空の言語に関する2択の選択問題が3題出題された。しかし、これらの問題がそのまま出題されるのではなく。その問題の逆説となる問いが出題された(下図参照)。すなわち、ここでは学習フェーズのフィードバックから参加者がどれほど学びを得たのか、ということが試された。

⑤実験終了
テストフェーズ後、実験は終了した。

結果:
テストフェーズにおける成功グループと失敗グループの正答率を比較すると、成功グループの方が高い正答率を示した(統計的に有意)。以上を元に、人は成功に着目したフィードバックと比べて、失敗に着目したフィードバックから学ぶことを苦手としているということが示された。

実験②:失敗体験から学ぶことを妨げているのは自身のエゴ
インターネット上で招集された400人の参加者(少額の報酬金を受け取る事を条件に集められている)を対象に、以下の実験を行った。

①グループ分け:
参加者をランダムに「自身グループ」「他者グループ」に振り分ける。(参加者自身には自分がグループに振り分けられたということは知らされていない)

②学習フェーズ:
自身グループに対しては、実験①と同様、架空の言語に関する2択の問題が6問出題された。6問中3問の回答に対しては「正解です」というフィードバックが表示され、残りの3問に対しては「不正解です」というフィードバックが表示された。
他者グループの参加者に対しても同じ6問の問題が提示されたが、このグループでは参加者自身が回答をするのではなく、「別の回答者がどう答えたか」という架空の回答一覧が与えられ、参加者はその回答と全く同じように問題に答えるよう指示が与えられた。自身グループ同様、6問中3問の回答に対して「正解です」というフィードバックが表示され、残りの3問に対しては「不正解です」というフィードバックが表示された。

③妨害フェーズ:
実験①同様、丸暗記を妨害するための無関係の質問が一問出題された。

④テストフェーズ:
実験①同様、全参加者に対して、学習フェーズで出題された6問の逆説となる問題が出題された。

結果:
自身グループ内の結果を分析すると、実験①同様、失敗に着目したフィードバックと比較して成功に着目したフィードバックの方がより高い学びをもたらす(テストフェーズにおいて正解する)ことがわかった。(統計的に有意)
一方、他者グループの中では、失敗と成功それぞれに着目したフィードバックの間には学びの差が見られなかった
このため、他者の失敗から学ぶ事は失敗ではないということが示され、失敗からの学びを妨げるのは自身のエゴ(自己イメージの保全)ではないか、という仮説が提示された。

考察

以上の結果をもって、失敗に関するフィードバックを提示する際には、その失敗の現象そのものと本人を切り離して考えられるような提示の仕方が効果的ではないか、という考察を作者たちは示しています。

留意点

あくまで実験のために作り上げられた「失敗」と「成功」の体験を前提にしているので、現実世界にあてはめるにはより多くの要素を考慮する必要があります。例えば、参加者は実験内で活用された問題に対してなんら知識や関心も持ち合わせていませんでしたが、現実においてこのような状況はむしろ珍しいといえるでしょう。

編集後記

少し複雑な実験だったかもしれませんが、いかがでしたでしょうか?「自分の失敗から学ぶことは難しいものの、他者からの失敗から学ぶことはたやすい」、という現象を比較して、個人の「エゴ」という要因に着目した面白い研究だと個人的には思いました。

文責:山根 寛

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過去記事のまとめはこちら

Eskreis-Winkler, L., & Fishbach, A. (2019). Not Learning From Failure—the Greatest Failure of All. Psychological Science, 30(12), 1733–1744. https://doi.org/10.1177/0956797619881133

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