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なぜ学校の習慣は変えられないのか?

お知らせ
本記事は カタリスト for Edu とのコラボレーション記事の第一弾です。


学校は時代に合わせてアップデートすべきだという批判の声を耳にすることが多くあります。一方で、いつの時代も、政治や行政は数えきれないほどの「教育改革」を実行しています。学校がこのような批判を多く受けてしまうのはなぜなのでしょうか?そして、「教育改革」を成功させ、学校をアップデートするためにどういう方法が効果的なのでしょうか?今回紹介させていただく論文は、教育に関わる多くの方々が日々抱えられているこの課題を考えるにあたって役に立つのではないかと思います。

キーテーマ

教育改革、学校改革、学校組織論

結論

学校の意思決定を支えるのは、ルールのみならず、教職員組織における規範や、教職員の信念や習慣である。これによって学校の習慣は制度となって長くにわたって生き続けるが、逆に言えば、これらを変えることを意識すれば、制度を変えることが可能になるかもしれない。

組織の意思決定として、一般的に、「道具的合理性(instrumental rationality)」に依存するという考え方が挙げられる。「道具的合理性」とは、ある望ましい目的や結果に向かって、(最小限のコストで)実現可能な手段を選択するというものである。学校では、例えば、生徒の成績を上げるという目的に沿って、指導法や学校の理念、教職員組織に関する意思決定を行っていくということになる。

しかし、実際、学校における全ての意思決定が生徒の学習効果のために行われているわけではないと論文は指摘する。

では何を目的としているのか。筆者が挙げるもう一つの目的は「正統性(legitimacy)」を最大化させることである。「正統性」とは、適切であること、社会的に適合していると認識されることで、例えば、意思決定が日常的な習慣に沿っている時に「正統性」が与えられる。

「道具的合理性」は、ある具体的な行動が望ましい成果をもたらす確信がある場合に機能する。つまり、A(手段)をすればB(目的)が伸びるということが明らかな場合だ。しかし、教育分野では、どの手段をとることが子供の学びに繋がるのか必ずしも明確でなかったり、そもそも教育の目的とは何であるか、しばしば議論の対象となったりする。このように、学校においては、「道具的合理性」に頼ることが困難なので、筆者は最も合理的な選択として「正統性」の最大化を目的としていると指摘する。

その上で、筆者は制度論の議論(Scott, 2008)を借りながら、学校における信念や習慣、構造の「正統性」を支える3つの柱を紹介する。

①規制の柱(Regulative Pillar)
正式な法律・規制・政策を指す。学校の例で言えば、カリキュラムの基準に関するルールや、教師の資格や仕事の範囲に関する規則、学校運営に関わる教育委員会の方針などが挙げられる。

②規範の柱(Normative Pillar)
意思決定者が属すると考える社会集団の期待を指す。例えば、教師のある指導法に正統性を与えるのは、教師仲間の多くや同僚のコミュニティが実践しているものであることが挙げられる。

③文化・認知の柱(Cultural-cognitive Pillar)
抽象的だが、「どうあるべきか」に関する理解を指す。ある信念や習慣、構造が広く共有されていればいるほど、より強固な正統性を持つこととなる。例えば、教室には机と黒板が設置されることや、教師が教室の前方に立って「教える」ことなど、他の方法を想像することさえ難しいような場合が挙げられる。




この3つの柱によって、学校の習慣は制度化され、長きにわたって持続していくのである。さらに難しいことに、制度の存在そのものが、教職員の思考方法、教職員の交友関係やコミュニティなどを制約している場合があるのである。その結果として、多くの教職員は同じような考え方を持ち、同様の規範を共有し、教職員間で相互作用を持つため、既存の制度を改革することがますます難しくなる。


一方で、筆者は、この3つの柱を変えることで、教育改革を成功させられるかもしれないと主張する。つまり、特定のルールを変えること(規制の柱)、教師集団の支持を変えること(規範の柱)、教師に広く広まっている理解・認識を変えること(文化・認知の柱)が重要である。

具体的には、学校内の変化として、同僚的なコミュニティで共に働く教師の協働の例を挙げている。彼らは協働することによって、制度化された指導法を拒否し、生徒の学力向上や学校全体の改革につながるような新たな実践を行った。つまり、教師の協働によって、共通の理解を新たに生み出すことで、規範の柱と文化・認知の柱に影響を与え、新たな実践に正統性を与えることができたというのである。

留意点

今回の論文は、制度に関する理論をもとに、学校組織の行動論理を理論的に説明しようとするもので、実験によって実証的に研究されたものではありません。

エビデンスレベル:事例研究

編集後記

学校に限らず、長く続いた習慣や伝統を改革するのは組織にとって重要ですが大変難しい課題だと思います。そんな時に、規制の柱、規範の柱、文化・認知の柱というフレームワークに立ち戻ってみることで、既存の制度が生きながらえている理由や、変化の風を吹き込むための戦略について、何かヒントが得られるかもしれません。

文責:吉田 欧太

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Bridwell-Mitchell, E. N. (2018). Too legit to quit: Institutional perspectives on the study of schools as organizations. The SAGE handbook of school organization, 139-155. https://dx.doi.org/10.4135/9781526465542.n9

Scott, R. W. (2008). Institutions and organizations: Ideas, interests, and identities. Thousand Oaks, CA: Sage.

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