超短編小説「キメラ」

 自衛隊基地の地下深くにある極秘研究所に出勤すると、アラーム音が鳴り響き、
『緊急事態発生。ただちに避難してください。これは訓練ではありません。緊急事態発生。ただちに……』
 と機械音声が流れた。職員たちはぞろぞろと小走りで出口に向かっていく。
 突然、階下で爆発音がする。冗談半分で避難していた人々は、血相を変えて出口に突っ走っていく。
 私は嫌な予感がした。携帯を取り出し、所長の番号をタップする。
『ああ、ミズキ君か。大変だ。レベル4のキメラが逃げた』
 嫌な予感は的中した。
 レベル4というのは、生物兵器を造りだしている部門だ。そして、私はそこの研究者で、キメラは手塩にかけて造りだした私の成果物だ。
「所長は早く避難してください。私はキメラを捕獲します」
『ダメだ、危険すぎる。キメラは諦めて、また新しい――』
「私は大丈夫です。キメラに殺されることはありませんから」
 通話を切って、通常の兵器を開発しているレベル1に行き、麻酔銃を拝借した。弾は三発。素人でも撃ちやすい工夫がされている銃であり、キメラに至近距離まで近づいても私は殺されない。三発もあれば充分だった。
 エレベーターは避難している職員が使っているはずだから、非常階段でレベル4まで降りた。フロアはものの見事に崩壊していた。瓦礫が散乱しているが通路は通れそうだ。
 そのとき、誰かが後ろから私を羽交い締めにした。抵抗するとすぐに私を解放する。元彼のアキラだ。
「あなたがやったのね。あなたが私への仕返しにこんなこと」
「ああ、そうだとも。君の気を引きたかった」
「でも、あなたはもう、ただでは済まされないわ。研究所に大損害を与えたんだもの」
 アキラは恍惚の表情を浮かべて、
「そんなことはどうでもいいんだよ。俺は閃いたんだ。ミズキが造ったキメラに俺もミズキも喰われる。そして、キメラの中でミズキと1つになるんだ」
 私はアキラに麻酔銃を向けた。
「糞が」
 弾はアキラの腹部に当たった。すぐさまアキラは倒れ込む。
「気持ち悪いんだよ、お前」
 通路の角から、3つのライオンの頭が出てきた。私のキメラだ。
 キメラには私の遺伝子が組み込まれている。私のことを家族だと本能で悟っている。だから、キメラが私を殺すことはない。

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