超短編ファンタジー「魔法のノート」

 帰る家がない。パパの会社の倒産に加えて、家庭崩壊。ママに引き取られたけど、ママの彼氏はクソ野郎。漫画ではありがちな設定だけど、現実に自分の人生がそうなっちゃうとマジでキツい。
 ママの彼氏は、初めこそ優しかったけど、仕事が上手くいかなくなって退職してから、表情が厳しくなった。プライドのある人だったから、アルバイトなんて無理だったんだと思う。でも、生活のためにアルバイトを長時間していた。それから、おかしくなってきた。
 ママの彼氏が私に迫ってきて、家から逃げたのは一週間前。ママがパートに出ていて、ママの彼氏は休日だった。いろいろとおかしくなっていた人だったけど、ついに私を犯そうとしてきた。そして、逃げた。
 高校にも行ってない。わずかな全財産でネットカフェに寝泊まりして、お金がなくなりそうだったから、野宿してた。オジさんに、
「ホテルに泊まらせてあげようか?」
 とか言われたことがあるけど、私はそんなのは無理だった。
 今日の朝、コンビニで買ったおにぎりとパン、そしてお茶を飲んでから何も口にせずに、もう夜だ。
 ふらふらと歩いて、公園のベンチに座った。ぼうっとしていると、前を通ったお兄さんが何かを落とした。見ると、オシャレでなんか怪しげな模様の表紙のノート。
「落としましたよ!」
 私がノートを拾って叫ぶと、お兄さんは逃げていった。追いかける気力もなかった私はベンチに座り直して、ノートの表紙をめくった。
『僕の魔力を込めたノートを手にした君へ。僕は魔法を使える。このノートが君の手にあるのなら、僕は君を選んだということだから、安心してこのノートの主になりなさい』
 さらに、こうも書いていた。
『僕の魔力が込められたこのノートは、魔法のノート。何でも現実化してくれる。ところで、君の願いは? 何でも次のページに書きなさい』
 さっきのお兄さんは魔法使いなのか。でも、明らかに凄いノートをどうして私みたいな浮浪者に渡したんだろう。
 助けは確かに必要。何でも現実化してくれるのなら、どんどん書いていきたい。でも、
「私が主か。絶対に釣り合わない。私みたいなただの女子高生が、魔法の凄いノートの主なんて」
 私はため息をついた。助けは本当に必要。でも、私という存在が、このノートを使うにふさわしくない。
「でもな、もう死んじゃうかもしれないしな」
 なぜか分からないけど、私の両目から涙が溢れ出してきた。
 よし、書こう。1つだけだ。私がこのノートを使うのは1回だけ。
『パパとママと私が、また一緒に幸せに暮らせますように』
 私はそう書いた。そして、ノートをカバンにしまって、私はベンチに横になった。夏が終わっても、まだ暖かくてよかった。冬だったら、今ごろ死んでたな。そんなことを思っていたら、眠たくなってきた。

「君、大丈夫?」
 私が起きると、目の前に警察官がいた。保護された私は事情を話して、
「パパに来て欲しい」
 と警察官に言った。警察官は電話をしてくれて、真夜中なのに、目を腫らしたパパが来た。
「ごめんな。ごめんな」
 私に何度もそう言って、パパは泣いている。それだけで、私は救われた気持ちになった。
 それからパパと住み始めて、日常を取り戻していった私。ある日、パパは電話をしていて、
「俺とやり直さないか」
 そう言っているのを私は聞いていた。
 その翌日、ママがパパのアパートにやって来た。ママは泣きながらパパと抱き合い、そして、
「ごめんね、ごめん」
 ママまで何度も私に謝ってきた。確かに、一人でふらふら街を彷徨っていたときは辛かった。だけど、憎しみや怒りなんて、私にはなかった。私はただもう一度、幸せな生活を送りたかっただけ。だから、謝ってもらう必要なんてないよ。私はそう思っていた。
 貧乏だけど、家族三人で幸せに暮らせるようになった私は、引き出しに仕舞ってあった魔法のノートを取り出した。
 私が今度、このノートを使うときは、人を助けるときだけ。でも、今の私はそんな立派な人間じゃない。
 私は魔法のノートを引き出しの奥に仕舞った。
 いつか、このノートにふさわしい人間になったら、私はこのノートを再び使おう。そう、人を助けるために。

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