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【オススメ本】福野博昭『ライク・ア・ローリング・公務員〜まち思う 故に我あり』木楽社、2021

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表紙のデザインや言葉選びも結構強いパンチですが、中身がほぼ100%「関西弁」でという、衝撃の一冊でした。

著書は福野博昭 (ふくの ひろあき)さん。 昭和35(1960)年に奈良市で生まれ、高校を卒業後、18歳で奈良県庁へ入庁。以来、働きながら大学にも進学し、「ならの魅力創造課」「南部東部振興課」など12の部署で、スピードと実行力、プロデュース力でさまざまな改革と地域活性を行われた方です。特に退官前の10数年は、「奥大和」(この命名者も福野さんとか)の地域のブランディングに取り組まれ、2021年3月に在職42年で退職されています。

私も奈良県出身ですが、奈良にはあまり仕事で関わりないので、失礼ながら存じ上げませんでした。いやはや、奈良にもすごい公務員がいるもんですね〜

まず本の前半は福野さんの公務員時代前半のお仕事編。公園のゴミ箱撤去、電柱地中化、職場へのPC導入、会議室の管理システム導入、各部署へのダイヤルイン導入、庁舎の光熱費削減、文化庁への人材派遣もそれぞれ読み応えあるエピソード満載でした。一言でいえば「ミスター行革」あるいは「ひとり行革」、「下(現場)から行革」ですね。こうした突破力、本当に現役の公務員の皆さんの参考と刺激になると思います。

後半は「奥大和(奈良の南部)」の地域づくり編。こちらは有名になった『オフィスキャンプ東吉野』やKobo Trailトレイルランニングレース(東吉野村)、えんがわ音楽祭(天川村)、SHIMOKITAYAMA BIYORIコワーキングスペース(下北山村)、五條高校(五條市)、十津川高校木工芸・美術コース(十津川村)などをどのような出会いと思いで、展開してきたのかということが紹介されています。

また、主題ではないとは思いますが、お笑い業界を目指したことがあるご縁で笑福亭鶴瓶さんと懇意にされている(仲人も鶴瓶さん)お話やマクドナルドに転職しようとしたことがあったお話、アメリカに研修にいき視野を広げられたお話など紹介されています。いずれも興味深いものがありました。

個人的に響いたのは以下の言及です。

・文句が出るようになったほんもんやって思ったな。だいたいトラブルになったら、ええ話やもんな(p.92)。

・誰もやっていない。めっちゃチャンスやん!って思ったな。何より知事や上司にごちゃごちゃ構われるの嫌やし、誰もやっていないエリアがよかってん(p.114)。

・ネットが繋がる環境があれば、地域でも仕事ができるんや(p.134)。

・移住者や関係人口をただ増やすだけでなくはなく、奥大和に住んでいる人に「ずっとここで暮らしたい」を思ってもらって、地域を元気にするのも俺ら自治体職員の目標やから(p.141)。

・お金のために仕事するのはあかん!お金のために働くな。それだけは気いつけて、考えなあかん(p.170) ※鶴瓶さんから言われた言葉

・役所やから、人のためになる、人が喜んでくれるっていう仕事が道理やねん。物差しやいつも「世の中にとってええこと」のはずやん(p.179)。

・やるときは失敗を恐れずやりきったらええと思う。(中略)変なデータなんかよりも、完璧に「これはええ」って筋道が通ったロジックをちゃんと立てられるかどうかやって思う(p.182)。

・仕事をするとき、全く知らん人と仕事するシステムはおかしいと思う、ほんまは。できるだけいろんな人と企画段階から話したり、ブレストが一緒のでけへんと、いいもんが生まれへん(p.184)。

・仕事をするときのものさしとして、一番重要やと思うのは、自分の仕事を家族に自慢できるかどうか(p.191)。

・同じものを横展開するんは嫌やねん。(中略)それでええやんと思ってる(p.193)。

・ゼロから1が大好きやねん。たぶんそんな人、自治谷1%はおるんちゃう?その人らがもっと自信持って、ロジック作り出して行ったらええと思うよ(p.195)。

・俺のことを「スーパー公務員」っていってもらうことがあるねんけど、そんなやないねん。(中略)江戸町奉行の遠山の金さんこそが、スーパー公務員やろ(p.203)。

・人とコミュニケーションをとる上で気をつけているのは、これ表現は悪いけど、「こっちがパンツ脱がな、向こうも脱げへん」ってこと(p.209)。

・やってみな分からんから、まずやって、気づいたとこは変えて、何か追加したり、修正したり。こうれかもそういう連続なんやと思う。

・役所は夢を語らなあかんねん。暗いこというたらあかんねん。夢語って怒られへんのが自治体職員やから。(p.248)。

いやはや、響きますね。上記は何も公務員だけでなく、どんな職業にも当てはめるエッセンスがあると思います。

というわけで関西以外の方はちょっと関西弁が読みにくいかもしれませんが(逆に関西弁の勉強にはなりますよ)、公務員の皆さんは必見の一冊です。

もちろん非公務員の方でも地域に関わる人もオススメです。人物論として読むなら3→1→2→4→5の順番で、仕事論として読むなら1→2→4→5→3の順で読むと読みやすいかと思います。

(参考)目次

第1章 公務員、めっちゃおもろい!

社会ってすごいな。変わるんや!  
県庁って、おかしな世界やな  
奈良公園の柵の針金を勝手に切る  
奈良公園のゴミ箱も撤去や!  
奈良公園のトイレに革命を  
日本初。歴史的な奈良公園での電柱地中化  
いち早くパソコンを導入する  
バブル崩壊の頃、アメリカで新しい時代に触れる  
自分の力でどこまでできるか気付いてほしい
そんな奴のためにやってるから
学生たちの一次産業体験、奈良県縦断チャレンジ  
会議室管理ソフトとダイヤルインを導入  
県庁のゴミ・電気代・水道代を減らしたる  
まず、仲良うならなあかん  
前例のない、文化庁の工事公開事業を始める  
人を育てる「奈良2010 年塾」  


第2章 奥大和をつくる

奈良にはなかった、農家民宿を立ち上げたい  
反対する村人に「この川と星を見せたいねん!」  
ボロボロの古い家を、次々に改修して変身させる  
「奥大和」という言葉をつくる
まさかの、紀伊半島大水害  
村の木で家具をつくった「十津川家具プロジェクト」  
高校に、新しい学びの場をつくる  
弘法大師が歩いた道を走るイベント「Kobo Trail」  
『オフィスキャンプ東吉野』に全国から人が来る  
奥大和で、さらなる拠点づくり  
地域の人たちを健康にする、コミュニティナース  
大事なんは、拠点づくりと人材育成の二本柱や!
 

第3章 俺が自治体職員になったワケ

やんちゃだった、子ども時代  
親父とおかん、妹のこと  
考えるの、おもろいやん  
県庁に就職したシンプルな理由  
働きながら、大学生になる  
笑福亭鶴瓶さんとの出会い  
マクドに転職しようとして鶴瓶さんに怒られる  


第4章 仕事はこうして「おもしろく」できる

格好を気にせん奴は、ええ仕事でけへん  
そもそもなんのためにしようとしてるのか?  
失敗を恐れずやる。自治体職員はクビにはならへん  
信頼できる「友達」と仕事する  
鶴瓶さんに教わった「仕事をシンプルに説明する」  
自分の仕事を家族に自慢できるかどうか
横展開はオリジナリティがないから嫌い  
ゼロから1 をつくり出すことが好き  
遊んで、考える。公私混同でいい  
求められるのは、スピードとチャレンジ  
憧れは、遠山の金さん  
ブレストミーティングが大事  
仕事の進め方とサッカーの戦術は似ている  
こっちがパンツ脱がな、向こうも脱げへん  
その仕事に、魂入ってんのか?


第5章 コロナ、ピンチはチャンスや

良くなるほうに最大限抵抗しようや
コロナ禍で野外のアートイベントを思いつく
約130のメディアに取り上げてもらった 
3つの村のブランディングムービー 
奥大和の家具がシンガポールでバカ売れする 
事業者どうしが仲良くなった「にっぽんの宝物」 
最後の年に、いろんなことにチャレンジできた 


巻末対談 福野博昭×坂本大祐 地域の未来

地域に「居続けるデザイナー」がキーマンになる 
ビジョンを信じていい続ける力
この10年で大きく変化した奥大和 
地域の未来と、行政の力 

(参考)木楽社ホームページ

http://www.kirakusha.com/book/b591053.html


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