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【オススメ本】後藤好邦『自治体職員をどう生きるのか』学陽書房、2019

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この本のタイトルを見て、「もしかして?」と思った人は勘の鋭い方、あるいは読者家でしょう。そう、このタイトルは、数年前にベストセラーとなった『君たちはどう生きるか』のオマージュですね。しかし、この本では対象が絞られており、全国で274万人いる地方公務員、その中でも30〜40代の方に奮起を促す内容となっています。

著者の後藤さんは、山形市役所企画調整部企画調整課課長補佐(兼)政策調整係長(出版当時)。1972年生まれで、1994年に山形市役所入庁後、納税課、高齢福祉課、体育振興課冬季国体室、企画調整課、都市政策課、行革推進課を歴任されて現職に就いておられます。

なんでも関西学院大学のとある先生の勉強会がきっかけで、この本で言うところの「真の公務員(意識)」に芽生え、2009年6には岩手県北上市の職員らと共に「東北まちづくりオフサイトミーティング」を発足させ、今では1000人近い仲間がおられるとか。また、私も購読している月刊ガバナンスに「『後藤式』知域に飛び出す公務員ライフ」という連載を持たれている関係でお名前だけは存知上げておりましが、まとまったお考えを読んだの初めてでした。ともあれ、この分野で有名な自治体職員さんです。

内容はお読み頂くとして、目次は次の通りでした。

CHAPTER1 自治体職員の人生は30代で決まる
 01 自治体職員の土台は30代でつくられる
 02 改めて自治体職員の魅力を考えよう
 03 自治体職員がめざすべき4つの人材像
 04 時代の変化を捉えよう
 05 ジグソーパズルからレゴブロックへ
 06 「未来の常識」を見据えた仕事をしよう

CHAPTER2 30代からのワーク・ライフ・コミュニティ・バランス
 01 ワーク・ライフ・コミュニティ・バランスのススメ
 02 まずは勇気をもって「知域」にダイブ
 03 自分を知り、他者から学ぶ
 04 「1週間の時間割」を考えよう
 05 自分の時間は自分でつくれる
 06 小さなことからはじめる勇気、はじめたことを大河にする根気
 07 コミュニティを広げる、つなげる
 08 東北OMに学ぶ「チーム力」の高め方
 09 「コミュニティ」を「ワーク」「ライフ」に活かす

CHAPTER3 30代からの働き方改革
 01 働き方改革の目的は、働き方を変えること
 02 仕事のスピードを高める3つのコツ
 03 副業から考えるパラレルキャリアの必要性
 04 めざせ「認められるマイノリティ」
 05 役所の仕事は1人の100歩より、100人の1歩

CHAPTER4 自治体職員が30代で磨くべき仕事術
 01 仕事以上に成長できるものはない
 02 「できる」からはじめる意識、「できること」からはじめる行動力
 03 善例主義のはじまりは、他自治体のTTP
 04 他責にせず、自責で物事を考える
 05 仕事の「本質」を見極めよう
 06 法律の番人ではなく、上手に解釈できる職人になる
 07 「説得」ではなく、「納得」してもらう対話力を磨け
 08 相手に伝わるプレゼン力を身につけよう
 09 調整に欠かせない「4つのワーク」

CHAPTER5 自治体職員が40代以降も輝くための成長術
 01 公務員は、45歳から真価を問われる
 02 係長で身につけるべきリーダーとしての資質
 03 上司からの褒め言葉がモチベーションアップのカギ
 04 頼まれごとは試されごと
 05 どんなときもポジティブ思考
 06 自分ができて、人がやらないことをやる
 07 5つの「きく力」を高めよう
 08 「真の公務員」をめざそう

私が個人的に印象に残ったのは以下の言及です。

・「公」の担い手たちの中心となる存在が住民であり、その担い手たちが動きやすくなるよう環境を整える存在こそ、行政に身を置く、私たち公務員だと感じる(p.22-23)。

・コーディネーター、アントレプレナー、エコノミスト、オーガナイザー。この4つの人材像を同時に担うことができる人材こそが、自治体職員の目指すべき理想像だと私は考えています(p.27)。

・東京都で義務教育初の民間人校長に就任した藤原和博さんは、時代の変化について「ジグゾーパズル型からレゴブロック型へ」と著者や講演で表現しています(p.37)

・自治体職員は地域の未来をデザインするコミュニティデザイナーでなければならないのです。そのためには、地域に飛び出し、住民の声に耳を傾けながら、住民が望む未来の形をイメージすることが求められます(p.48)。

・同じ「ぜんれい」でも、これからは「前例」ではなく、「善例主義」でなければなりません。良い事例(前例)を参考にしながら質を高めることや、他の自治体が真似をするような「善例」をつくり出すことが必要です(p.51)。

・普段、役所の窓口や会議室でしか市民との関わりを持っていないため、「地域がどのような場かわからず不安だ」とか、「地域に飛び出すと行政に対する不満を言われそう」など、地域に対するマイナスイメージが自治体職員に蔓延している(中略)。こうした不安を少しでも解消したい。そんな想いで私が考案した言葉が「知域」です(p.53-54)。

・「小さなことからはじめる勇気、はじめたことを大切にする根気」。これは元三重県知事の北川正恭さんの言葉です。(中略)事を起こす、つまり、行動するからこそ、新しい価値を生み出すことができる(p.71)。

・私たち自治体職員は、民間企業に比べ、コスト意識が足りないと言われます。そのため、「費用対効果」を考えることは大事です。でも、私はその前に「疲労対効果」も考えなければならないと思っています(p.102-103)。

・大阪府吹田市の後藤圭二市長は、これから求められる人材像を「愛される宇宙人」と表現しています。(中略)周りから「あいつが言っているならしゃあないな」と言われるような存在になることが大切(p.117)。

・人口減少、少子高齢化、過疎化など、現在、自治体の課題として挙げられている項目は、本当に解決すべき課題なのでしょうか?実は、それは「課題」ではなく、単なる「事象」かもしれません。そして、それらの事象が引き起こす住民生活に影響を与えている何かが、「真の課題」なのかもしれません(p.151)。

・市民との対話によるまちづくりを推し進め(中略)た静岡県牧之原市の前市長・西原茂樹さんは「納得とは、諦めてもらうこと」と述べています(p.161)。

・自治体職員にとって大きな課題となるが「調整」です。AIがやってきても代替できないと言われる必須のスキルです。その調整に欠かせないが、①チームワーク、②ハートワーク、③ネットワーク、④フットワーク、この4つのワークです(p.167)。

・「成長社会はタイム・イズ・マネー、成熟社会はタイミング・イズ・マネー」。これは富山県氷見市の元市長・本川祐治郎さんからお聞きした言葉です(p.193)。

・「行き当たりバッチリ」。みなさんは、この言葉を聞いたことがありますか?(p.199)

以上、この抜粋からも分かるように、後藤さんの自治体職員観には、元首長や現職の首長、教育関係者など実に多くの方の影響の跡が見られます。しかし、これこそがまさに「知域」活動の履歴であり、自らワークライフコミュニティバランスを取りながら、行動と挑戦を続けている証と言えましょう。

公務員といえば、国地方問わず、どちらかと言えば、縁の下の力持ちの印象があるかもしれません。対住民という文脈では、確かにその面が強いと思います。しかし、対同僚、対他の自治体職員、対他のセクターに対しては、むしろ後藤さんのようなどんどんとアクセルを踏み、巻き込み、発信する職員の存在有無がこれからの地域の未来を決める、と言っても過言ではないでしょう。

ぜひこれから自治体職員を目指す方はもちろんのこと、現在の仕事の仕方や自分自身に対して違和感を持ちつつも、一歩踏み出せない現職の自治体職員のみなさんに読んでもらいたい一冊です。

そして、メディアでは基本は悪いニュースしか報道されませんが、このような素晴らしい自治体職員がいるという事実も市民一人一人にもっと知っていただきたいと思った次第です。その意味では、タイトルの話に戻れば、

「自治体職員をどう生かすか」

この視点もこれから大事ですね。

(参考)後藤好邦『自治体職員をどう生きるのか』学陽書房、2019

http://www.gakuyo.co.jp/book/b481178.htmlhttp://www.gakuyo.co.jp/book/b481178.html


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