「FPの頃」 2.初日。

 私が初出社した同日に出社…少なくとも初出社した同期はいなかったのではないかと思います。編集部は新宿の酒井ビルという1階が電器店のビルでした。現存しますが、あれから30年を経てもFPが入っていた5階は空いたま…というか酒井ビルの酒井さんは新しいテナント入れる気がないんでしょうね。理由は存じ上げませんが。
 もちろん制服はありませんでしたが、男子社員はワイシャツとネクタイが必須と言われました。取材に出ることの少なくない仕事だからか…と納得しました。白いワイシャツにネクタイ、下はジーンズだったんじゃないかな。
 編集部には応接用の小さな椅子と机があり、そこで指示を待つことになったのですが、いきなりその机を挟んでK誌編集部のOさんと制作のAさんが言い合いを始めたのにビビりました。たぶん入稿スケジュールについてA氏が注意をし、O氏が反発して言い返したのだと思いますが、初日に待たされているテーブルを挟んでの言い合いは恐怖でした。
 しばらく待って後に、先ほどケンカしていたAさんがのっそりとやってきて、私の前に斜めに座りました。この人はとにかく怖かった。ずっと怖かったです。何をするにしても「仕方ねえなあ」という顔つきで始める人でした。「それでさあ…Sくんだっけ? サイタニさんに何か仕事について言われてる?」といきなり尋ねられて「いいいいいえ、何も!」と声を裏返らせて返事をしました。
 この後も私はずっとAさんに怯えていたような気がします。制作という部署の仕事として進行管理も担当されていて、入稿の遅れを叱られ続けたということがあるのですが。しばらく経ってから、昼休みになると編集部にある少女漫画の単行本を1冊持って一人で昼食を摂りに行く習慣の人だと気がつきました。本当のところは心優しい人ですし後年、転職したAさんにもお世話になりました。でも怖かった。
 結局、私はMさんという方の下につきました。MさんはHさんという方の下です。担当は広告でした。Mさんは人柄もよく親切な方で何くれとなく面倒を見ていただきました。「サブカル」とか「キッチュ」とかそういう用語の好きな人で「いい人だけど、仕事はどうなんだろうな」と最初から失礼なことを考えましたが、もちろん入ったばかりの私の方が遙かに仕事はできません。漫画を「サブカル」という捉え方をすることに反発しただけだなんだろうなあ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?