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和菓子と“彩”時記『おはぎ』

 出世魚と呼ばれるハマチが成長に伴いブリと名前を変えていくように、和菓子には季節によって名前が変わるものがあります。
それは『ぼたもち』と『おはぎ』。春は『牡丹餅』、秋は『御萩』と名前を変える、蒸したもち米を丸めてあんこで包んだシンプルな和菓子で、和菓子店に行かずともスーパーやコンビニでも気軽に手に入る身近な和菓子のひとつです。あんこだけではなく、きなこや青のりをまぶしたものもあり、彩りや風味の違いも楽しめます。
   またここ数年では専門店がいくつも出来、『進化系おはぎ』としてテレビや雑誌に特集を組まれることもある『おはぎ』。その名前には昔の人の教養やユーモアが散りばめられていました。
 


◎ぼたもちとおはぎの違い

 
 それぞれ、お彼岸やお盆の御供菓子としてよく見かけることが多い『ぼたもち』と『おはぎ』。じつは、昔は少しずつ違ったお菓子だったのです。
春の『ぼたもち』は大きくて丸い牡丹の花にちなみ、少し大振りで丸い形をしています。あんこの原料・小豆は秋に収穫されるため冬を超え、春になるころには皮が固くなってしまうため、皮をとってこしあんにしていました。そのため『ぼたもち』はこしあんなのです。
   また、秋の『おはぎ』は小さくて少し細長い萩の花にちなんで小ぶりの俵型に作ります。秋には収穫したての皮が柔らかい小豆が用意できるので、あんこはつぶあんに。
とはいうものの地域差も大きく、現在では区別されることがあまりなくなり、総称して『ぼたもち』『おはぎ』という名前が使われています。
 

◎夏と秋の名前は?

 
   春と秋の呼び方は有名ですが、夏と冬にもそれぞれ名前があるんです。春と秋は花にちなんで名づけられていましたが、夏と冬は言葉遊びが転じてお菓子の名前になったパターンです。
   ぼたもちやおはぎはお米をつかずに作ることから、搗(つ)かない→「搗き」がない→「つき(着き・月)知らず」と派生していきました。そこから夏は「ペッタンペッタンとつかないので音がせず、隣人がいつ餅をついたのか知らない」→「夜はいつ船が着いたのか知らない」となり『夜船(よふね)』と呼ばれるようになりました。
   また、冬の『北窓(きたまど)』は北側の窓からは月が見えないことから「月知らず」と「搗き知らず」のか掛けた名づけと言われています。
   なぜそれぞれが夏と冬の名前なのかは詳しいことは分かっておらず、夏の闇夜に水辺に浮かぶ船があんこをまとったおはぎに似ていたから、だったり、北の窓から見える雪景色があんこを付ける前の丸めたもち米のようだったから、といったいくつかの説があるようです。ひとつのお菓子に対してさまざまな着眼点から名前を付けた昔の人がいかに風流や言葉遊びといったものを楽しんでいたか、また、『おはぎ』というお菓子がどれだけ親しまれ、愛されていたかがよく伝わってきます。

 

◎お彼岸、お盆のお供え物の定番

『父に酒 母におはぎの 彼岸かな』田村愛子

 
   おはぎと言えば、お盆やお彼岸に仏壇にお供えするイメージが強い方も多いのではないでしょうか。私が勤める杉谷本舗でも、お盆の期間中は本店店頭であんこときなこ、2種類のおはぎを販売しています。お客様にもとても好評で、「毎年心待ちにしとるとよ」と声をかけていただけるほど。私も毎年必ず購入して、仏壇に供えてからお下がりを頂くのをとても楽しみにしています。
 
   我が家の仏壇には、季節を問わずよくおはぎが供えられています。と言うのも、私の父がおはぎに目がない人だったから。家から車で15分ほどの食料品店のお総菜コーナーにある手作りおはぎをこそこそと買ってきては、嬉しそうに食べていた姿は何年たってもはっきりと目に焼き付いています。ひとつ100円ほどで、1個入と2個入が販売されており、父は必ず2個入りを買ってきては「1個やろうか?」とニコニコ笑いながらおすそ分けをしてくれました。ちなみに分ける人がいないときは2個を独り占めして、見つからないようにごみ箱の底に容器を隠すように捨てていたこと、私も妹も、そしてたぶん母も知っていました。
おはぎを見ると、父のお茶目だったところや優しかったことを思い出して少しだけ胸と鼻がつんとして、けれども一口頬張れば優しい甘さにほっと癒される。きっとその癒しこそ、昔から日本の人々に愛さてきたお菓子がもつパワーなのでしょう。
 
   今年のお盆も仏壇には父のため、そしてご先祖様のためにおはぎをお供えします。その横にはもう一つの父の好物、ビールを並べました。ビールとおはぎ、はたして食べ合わせはいかに。娘は濃い緑茶とおはぎの組み合わせこそ至高だと思うのですが、お父さんはどう思いますか。
 きっとお盆だけではなく、寒くなれば北窓を、春になればぼたもちを、そして私が生まれた夏には夜船を父に供えるのでしょう。名前によって季節を感じさせながらも一年を通して同じ味で安心させてくれる。いろいろな面を見せながらも、芯の部分は変わらずに人に安心感と癒しを与える。人々に愛され続けるおはぎのように、そんな人になれたら素敵だなと思いながら、今夜はお下がりのおはぎを大切にいただきたいと思います。
 
 
 文・写真・イラスト あーちゃん


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