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和菓子と“彩”時記 『花筏』

 春ですね。日本の春といえば桜。桜餅に花見団子とこの季節ならではの和菓子が次々に頭の中に浮かぶ私は花より団子です。そう言いつつも、つい先日まで桜並木を横目に出勤していましたがやはりその美しさにどこか心が躍り、一日の始まりをいつもより明るく迎えられていたような気がします。
桜を愛でる気持ちは千年前も、おそらくそれよりずっと前でも変わらないのでしょう。現代人がきれいに咲いた桜を見るとつい写真を撮るように、昔の人たちは花(桜)を詠んだ歌をたくさん残しています。

『花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに』小野小町
『ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ』紀友則

教科書に載るような有名どころの2首。どちらも色あせて散りゆく桜を惜しむ歌です。
桜を詠んだ歌がたくさんあるのは百も承知で、どうしても自分の言葉で桜の美しさや儚さを表現したいと思ったのでしょうね。
 

  そして、和菓子にも桜を取り入れた意匠はとても多くみられます。
桜といえば代表的な桜餅。長命寺と道明寺で地域差はあれど、やはり春の訪れを知らせる代表的なお菓子ですよね。
ほかにも、桜の花びらが揺らめく水面を表現した『花筏』。同じ名前、同じテーマでも実際のお菓子は練きりやお饅頭、羊羹、寒天などそれぞれに全く違った形で表現されているのも魅力の一つ。下の図、これ全部『花筏』なんです。

  和菓子はそれぞれにモチーフやテーマがあり、職人一人ひとりの感性で仕上げられていくので、同じ名前でも全く違ったお菓子が出来上がる。春夏秋冬を楽しめるだけでなく、誰かの頭の中にある季節の姿をおすそ分けしてもらっているような気にさえなってくる。私は和菓子のそういったところが大好きなんです。

 学生時代に7年ほど表千家茶道を習っていましたが、その中でたくさんのお茶菓子と出会いました。初釜の時にしか出てこないお菓子や、夏の暑い時でもすっきりと食べられるのど越しのいいもの。特に6月の終わりに夏越の祓として食べた『水無月』は、その見た目と由来、どちらも印象深く残っています。『水無月』のお話はまたそのころに……。
 

 先日久しぶりに、茶道をやっていた学生時代に通った和菓子店をのぞいてみました。懐かしい、記憶のままの佇まいやお菓子たち。名前はそのままで少し意匠が変わったお菓子もあり、どれにするか悩みに悩んで選んだのは「春っぽい」と思ったこちらの二つ。


 
『桜』と『うさぎ』です。


 『桜』は練きり部分が白とピンクの2色ありましたが、『うさぎ』が白いのでピンクをチョイス。桜の花びらの形をしているところが可愛いですよね。
そして『うさぎ』ですが、こちらは私が学生時代とくに大好きだったお菓子の一つ。赤くてつぶらな瞳が可愛くて、まぁるいしっぽまできちんとあるところがニクいです!どこから食べるか悩んで悩んで、目が合わないようにおしりの方から食べました。

ちなみに4月は卯月だしイースターもあるし、うさぎって4月だよね、と思って選んだ『うさぎ』ですが、うさぎの季語は冬だそう。少し遅れてしまいましたが、甘い白あんをきめ細かい求肥で包んだ練きりは季節関係なくおいしいので問題ないです、大丈夫です。

濃く淹れた煎茶の苦みが、白あんの甘さをすっきりと流してくれて、ふたつあっという間に完食してしまいました。もうひとつ買っておけばよかった……。

  桜餅のように桜の葉や花を使ったものもありますが、実際に桜の味がするわけではなくても桜をかたどったお菓子を食べただけで、不思議と春を楽しんだ気分になれました。
見て楽しむ桜、食べて楽しむ桜。どちらもひと時の楽しみとして消えていくものですが、その儚さもまた美しく思えるのかもしれませんね。

文・写真:あーちゃん

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