見出し画像

リストマニアとは

 言葉にすると深刻になりすぎてしまいそうだし、世の中の深刻さをまるで自分の深刻さのように語るのがなんだか嫌でコロナのコの字も出さずに粛々と過ごしていたのだけれど、あるときついに、ふつふつと湧き出てくるこの心の迷いのようなものを断ち切らなくては、と思い立って電車に飛び乗り、しんと冷えた神社の境内で心身ともに浄化されるような時間を暫し過ごした帰り道、落ち葉を踏みつけながら、もっと人に会おう、と決めた。

 家族と職場の人としか喋らない日々を続けていると、いかにそれ以外の多くの時間で気を紛らわせていたのかがよくわかった。音楽は聴けることは聴けるけれど、心理的にも物理的にも居場所がない。前にも書いたけれどこの状態は子育て期間中に味わった閉鎖感とよく似ていて、ぼんやりとした辛さは気付かないうちに気分をどんどん沈めていくから、自力でなんとか這い出なければならなかった。昔から何処にだって平気でひとりで出掛けていたし、賑やかなものや集団は苦手だったはずなのに、結局その先に他者とのコミュニケーションを少なからず求めていたんだなとこの歳になって今さら思い知らされるという。

 とはいえ状況が状況なので、音楽を聴く場所で誰かと気軽に話すことはまだまだ厳しい。よく考えたら親しい友人とは必要な連絡を取り合うことが少しはできていたから、つまり私にいま足りないのは不要不急の極みのようなものばかり。じゃあ不要不急ではない理由を自ら作って何か続けられるようなことを形にすればいいんじゃないの?家でじっと待っていたって何も起こらないんだし、と閃いて、まず人に会いに行くこと、音楽の話をすること、協力してくれた方の役に立てるような面白い記事を作って読んでもらうことをしてみよう、とこの現状の中でも私が出来そうなことを知恵を絞りながら考えたのが、「Lisztomania!」という企画をはじめる経緯だった。

 ノリでいうと「時効警察」の霧山修一朗のようなもの。残念ながら三日月くんはいない。けれど幸い話を持ち掛けた人達は一緒になって面白がってくれて、その手応えが私の手や足を自然と動かした。第1回目の膨大な量の会話を捌いて記事にまとめ上げた時は、まだやれるんだ私!と謎の自信がついたし、トップ画面の写真のアイデアを思いついてビスケットを並べている時間は自分でもびっくりするほど楽しくて、ああこういうくだらないことを私はもうずっとずっとずうっとやりたかったんだ、と心底思った。そして誰かに話すとなんで?といつも笑われるのだけれど、テープ起こしの作業はいつ何時も大好き。

 今のところ第1回目に出てくれた大八木さんのほうにも私のほうにも嬉しい反応がいくつか届いていて、とりあえずホッとしている。長く続けたい気持ちでいるけれど、いつまで続くかなんて保証はないから感想はちゃんと今ください。あとからなんて伝わらない。伝わらないからね。

 そして今回の記事を通じてなのかフォローされたアカウントがあって、そのnoteを開いたらどうやらZINEを作っているらしく、どこかで見たようなタイトルが気になったので購入してみた。

 フリッパーズ・ギターに関する考察がびっしり文字で書かれた、読み応えのある分厚い冊子が私の元に届いた。昔ミニコミを作っていた頃はこういうの沢山あったな、と懐かしさを感じながらページをめくり、最初の引用の記事が凄く面白くて引き込まれるように読み進めていると、後ろのほうのページに「普通の人の音楽遍歴」というインタビュー記事を見つけて、なるほど、そういうことか!似たようなことをやっている人が既にいた、とようやくわかった。私はいまだに紙に執着があり、本当は時間と体力があればZINEを作りたいと思っているので、気付いた瞬間は羨ましさと悔しさが同時に湧き出てきた。しかも知り合いが出ていたので更に驚いた。私は対象を普通の人と限定していないのでそこは少し違うけれど、不思議な出会いも感じたのでこれから3冊ともゆっくり熟読したいと思う。

 ちなみに「Lisztomania」とはフランスのバンド、フェニックスの代表曲から拝借したもので、熱狂的なファンやマニアという意味らしい。寝ても覚めても音楽のことばかり考えているようなクレイジーな人たちにうってつけのタイトルだと思って。

 「Lisztomania」はこのグラストンベリーのライブ映像が最高。フェニックスのサポート・ドラマーの凄まじさと、サビの部分でシンガロングするグルーピーみたいな女の子たち、はじけるようなパフォーマンスやボーカルのトマの最後の仕草まで馬鹿馬鹿しくて、いつ観ても気分が上がる。

From the mess to the masses
Lisztomania
Think less, but see it grow
Like a riot, like a riot, oh!

#音楽 #インタビュー#エッセイ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?