【詩】今日の散歩道

どこで買ったかも覚えていない上下ねずみ色のスウェットで、湿った桜を踏み潰しながら歩く。今日はやけに風が強い。左手にはもう入居者がいないゴキブリだらけのアパート。右手にはマットレスが放置されたカラスだらけのゴミ捨て場。しわくちゃな老婆たちが杖を片手に談笑している。何をそんなに無垢に笑っていられるのだろう。その皺は何を証明しているのだろう。何を証明してきたのだろう。何だか無性に腹が立って、わざと音を立てて地面に唾を吐いた。しかし、気付きもしない老婆たちの代わりに、近くの木の根元に止まっていた二羽のスズメが慌てて飛び去った。今度は無性に泣きたくなった。理由は分かっている。分かっているけれど分かりたくないから、駄々を捏ねて泣きたいのだ。快晴に負けじと顔に影を落とすように俯きながら歩いた。面白いことなど一つも無いのに、照らされてたまるかと思った。大橋の入口に出ると不自然なくらい交通量が増える。緩やかな坂を一歩一歩進み頂点に辿り着くと、半円状のスペースが出っ張っていて、いつもするようにそこから川を眺めた。今日はスウェットの汚れも厭わず座って眺めた。ドブのように濁った川とは対照的に、純白の白鳥が水門に止まっている。上空からもう一羽、もう二羽と駆けつけてきた。その矢先、一斉に大きな翼を広げて飛び立った。気付いた頃には私の足先と青空の間を飛行していた。理解にはラグが付き物だ。眼前に広がる水面は川の流れとは逆向きに、荒々しく波を立てていた。

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