ノートの上に

ぼくの生徒の日のノートの上に
ぼくの学校机と樹々の上に
砂の上に 雪の上に
ぼくは書く おまえの名を

読まれた全てのページの上に
書かれてない全てのページの上に
石 血 紙 あるいは灰に
ぼくは書く おまえの名を

金色に塗られた絵本の上に
騎士たちの甲冑の上に
王たちの冠の上に
ぼくは書く おまえの名を

密林の 砂漠の上に
巣の上に えにしだの上に
ぼくの 幼年の日のこだまの上に
ぼくは書く おまえの名を

夜々の奇跡の上に
日々の白いパンの上に
婚約の季節の上に
ぼくは書く おまえの名を

青空のようなぼくの襤褸の上に
くすんだ日の映る 池の上に
月のかがやく 湖の上に
ぼくは書く おまえの名を



欲望もない不在の上に
裸の孤独の上に
死の足どりの上に
ぼくは書く おまえの名を

戻ってきた 健康の上に
消え去った危険の上に
記憶のない希望の上に
ぼくは おまえの名を書く

そしてただひとつの語の力をかりて
ぼくはもういちど人生を始める
ぼくは生まれた おまえを知るために
おまえに名づけるために

“自由” と

(ポール・エリュアール)

何度も何度も書き写し
其のたびに涙を流し
心の震えが止まらず
溢れる感情を抑えきれず

こんな詩があったのだと
これ程人を呼び覚ます言葉があったのだと

ひとつひとつの
この世のものを

これ程 愛で 表現できるのだと

名づける事は
意識に留める事は

「愛」なのだ と
知ったのでした

こんな日は
開いてみた
私のノートの1ページを
遠い 未来の記憶の上に
重ねてみたりするのです。

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