「母」―私から―

初めてかも知れない。
私からハグするなんて。

手を離れ、一人で外に出て行く。
母とは違う空を見上げ、風景に浸っていく。
感じる事も、記憶する事も、母から離れてゆく。

そうして久しいよね。
こうして傍にいて、母と手を繋ぎ歩くのも、
温かい縁側でお茶飲むのも。

初めてだよね。
私から。
母の背中に手を回し、「こんなの 初めてかも・・・」
と言ってみる。

「そうか」と言っただけだった。
「お母さんも」と言うと、何も言わず応えてくれる。

慣れてないのに。唯それだけだったのに。

ただそれだけで温かみが、優しさが、安心と云う贈り物が
一つになってくるまれている。

「ありがとね」
お母さんに抱きつく事も、甘える事も
出来なかった偏屈な私。

お母さんの心は、いつだって開かれていたのにね・・・

ハグする。

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