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12/7 美味しい君

 キッチンからいい匂いが流れてくる。今日の夕食はゆいさんが作ってくれると張り切っていた。長い髪を、私のシュシュで結ってあげると上機嫌でエプロンを装着していた。
 メニューはひみつ、と言われたので私はリビングのソファで待機しているのだった。
 が、香ばしい香りにつられてそーっとキッチンを覗き込んだ。大皿に盛られた唐揚げから美味しそうな匂いが漂ってくる。私はそーっと手を伸ばしてそのひとつに手を伸ばす。
「あっつ!」
「あ。こら!つまみ食い禁止!」
 いとも簡単に見つかってしまった。
「…怒った顔もかわいいね。」
「話題を逸らしてもダメです。だいたいはるかがキッチンに立つと危ないんだから…ほーら、大人しくソファで待ってて。もうすぐ出来るから」
 ゆいさんに回れ右をさせられそうになった瞬間、一足早く私はゆいさんの唇をはむ、と啄んだ。ゆいさんは少し驚いて、それから嬉しそうに笑って「もう。」と言ってキッチンの奥へと向かった。
 大切な人が作る料理をのんびり待つ時間の贅沢なこと。あまり得意ではないけれど、次はふたりで一緒にキッチンに立ちたい。そんなことを考えながら、キッチンに立つゆいさんを眺めていた。

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