行けよ最後まで走れ松本、勝利をこの手に
俯いてしまった。
怖くて怖くて、顔を上げて見られなかった。相手が攻め上がる度に、防戦になる度に。
自分のつま先を見ながら、せめて手拍子だけは絶やさないようにした。
下を向かないでくれと、選手達には思うくせに。
真っ白になった手のひらに、アルコール消毒液がとても染みる。
悔しい、泣きたいくらいに。色んなことが、悔しい。
順位も勝敗も実はどうでもいい、なんて前の記事では書きながら、ちっともどうでも良くない。勝ちたい。私は今日、勝ちを見に来たのだ。だって、勝たなきゃ後がない。
私だけではないはずだ。いや、ないに決まっている。ここにいる全員が勝ちたいと思っている。7750人の来場者を数えたスタンドは、今日も一面の緑だ。
『NEVER NEVER NEVER GIVE UP!』
創価学会の駐車場は、10時半にはもう満車情報が出た。相手がアルビレックス新潟なのも輪をかけて、今日は間違いなく混むだろうと思っていた。
諦めない。松本山雅は降格しない。だったら今日は勝つに決まっているだろう!
なら、見に行かないわけがない!!!
大芝生から歩いた。どうやら30分もかからずに、アルウィンに到着していた。今季一番ではないかと思うほどに天候が良い。勝ち試合を見ることしか考えていなかった。
なのに、なのに。
開始5分で先制点を得た。佐藤選手の素晴らしいミドルシュート。アルウィンを満たす割れんばかりの拍手と熱。久しぶりだ、こんな雰囲気は。
太鼓のリズムが分からなくなるくらいに、手拍子の音が大きい。メインもバックも、皆が手を叩いている。
今日は、勝つぞ!絶対に勝つぞ!!ここにいる緑の誰もがそう思っている。
なのに、どうしてこんな気持ちになるんだ。
不安で、不安で、たまらない。失点が怖くてたまらない。
どうして。負けないことを、どうして信じられないんだ。こんなに勝つつもりで来たっていうのに!
病で息をするのもやっとだった先月とは打って変わって、今日の私は立たずにいられない。立って、手を叩かずにいられない。
ストレスの溜まるシーンが何度もあった。ブーイングは好きじゃない。ただ手を叩く。
ああ、私、またサッカーが観られる。
雰囲気が分かる。嫌な気持ちになるのも、チャンスに沸くのも、どっちも感情だ。
それは、観戦を楽しんでいるってことだろう。楽しい。私はいま、とても楽しい。元気な身体と心があるって、なんて幸せなんだろう。
だからこそ、だからこそ、悔しいじゃないか!!!
小春日和のアルウィンに、今日は一人。目標達成だ。
でも、独りじゃない。緑の仲間達、想いは皆同じだ。どうして忘れていたのだ、この一体感を。この熱量を。
勝て、勝て、勝て!!!行けよ最後まで走れ松本!!!
コーナーキックの時に、『松本レッツゴー!』のタオルを広げている人が私以外にもいて、嬉しくなった。
ああ、歌いたいなあ!叫びたいなあ!次節からはタオルが回せるんだ!得点したら圧巻だろうなあ!!!
何だか、涙が出そうだ。色んな感情がぐちゃぐちゃで、涙が出そうだ。
悔しい。無事に終わってくれなんて願うのは悔しい。他チームの勝敗に一喜一憂するなんて悔しい。残留争いなんて、本当はとてつもなく悔しい!降格の可能性を話しながらも、本当は、ちっともそんなこと思っていない。
残留が目標だなんて、そんなのは、本当は悔しすぎるんだ。口に出したくないくらい、悔しくて悔しくてたまらない。だから、言わない。
松本山雅は降格なんてしない。それを信じてただ応援するのみ。
どんな時でも俺たちはここにいる。いつも笑顔じゃないかもしれないけれど、ここにいる。
俯いてもまた顔を上げる。泣いても笑っても、観るしかない。いや、観ていたい。
残り試合は後4つ。それなら、それらは全て勝ち試合になるはずだ。
『NEVER NEVER NEVER GIVE UP!』
行けよ最後まで走れ松本、勝利をこの手に、俺たちの誇り。
まだまだ、諦めない。諦めたくなんてないから。
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