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どんな時でも俺たちはここにいる

ここにいたい。愛を込めて、叫びたい。山雅が好きだから。大好きだから。

心からそう思ったのだ。もちろん勝った方がいい、でもたとえ勝てなくても、いくら負けても、どんな時でも、一生懸命に走り抜く勇姿を見せてくれ。


J2最下位、脱出なるか。今後を占うその命運を賭けた4月25日、ホーム群馬戦。ゴール裏から撮影したバックスタンドの写真が、この記事のトップ画像である。新型コロナ禍、規制がかかる中で、最下位という現実の中で、来場者数は6770人。
このクラブサポーターの一員であることを、私は誇りに思う。

『選手のアップ時にタオマフやゲーフラを掲げて、応援の気持ちを伝えよう』
ウルトラスの提案に、ゴール裏ばかりではない、たくさんのタオマフが風にはためいていた。

皆、気持ちはひとつ。戦え、山雅。



サッカーを観るのがつらい日々が続いていた。

私事ではあるが、公私共に色んなことが重なった。
自分自身の人生設計も生活も、風向きが真逆に変わるように一転し、
同時期に、社会の在り方も一変した。


少しだけ昔の話をしよう。
2019シーズンの終わり、松本山雅がJ2に降格したとき、一本の記事を書いた。

たくさんの反響をいただいた。山雅サポってなんて暖かいんだろう。
Onesou1、心からそう思った。

反響があったのは、山雅サポばかりではない。
リーグの枠など飛び越えて、様々なクラブチームのサポーター達が共感してくれた。そして、口々に、松本山雅FCの降格を惜しむ言葉をくれた。

クラブを背負ってきたレジェンド達、エース達との別れ。
今まで本当にありがとう。明るい方へ、どうか行ってほしい。
そんな気持ちを、ありったけの感謝を込めて、絵を描いた。描かずにいられなかった。
絵が描けてよかった。この時ほど、そう思ったことはない。
描けるものなら、全員を描きたかった。

血の入れ替えが始まる。ここから、作り直す。松本山雅FCというハコだけを残して、中身がそっくり代わってしまうかもしれない。
その変化を、果たして私は愛せるだろうか。いや、愛したいのだ。こんなにも熱い気持ちで後押ししてきた松本山雅FCというチームの変化を、目を逸らさずに、ちゃんと見なければ。

そんな時に、新型コロナウイルス流行という逆風が訪れた。


中断期間。無観客試合。天皇杯とルヴァンカップへの出場取り止め。
それをしてすら怒涛の過密日程と、どうしてか追い討ちのように悪天候が続いたのを記憶している。

私自身も人生の転機に追われていた。職場の環境変化、コロナ禍での対応による多忙。アルウィンは勿論、どこのアウェイだろうと一緒に足を運び続けた、私にサッカーの楽しみを教えてくれた夫が、今はもういない。私の、松本山雅FCへ向ける気力は、体力は、そこで尽きてしまった。

2020シーズンは、私にとってほとんど空白の期間となった。
無感情。これが、一番悔しいことである。

松本山雅FCのことを想う余裕がなくなっていた。
2021シーズンパスの継続は断念した。
ストーブリーグも、ほとんど追わなかった。
新しいユニフォームも、タオマフも、買わなかった。
自分がとてつもなく悔しかった。あんなにも愛していたクラブなのに。毎週のように、ホームだろうとアウェイだろうと、熱狂的にゴール裏で叫んでいたのに。

私は、叫びたかった。歌いたかった。つらいことがたくさんあった。それでも、嫌なことを全部吹っ飛ばして、勝っていようと負けていようと、大好きなものに大好きと伝える最大の手段を、未曾有のウイルスの蔓延によって奪われた。

期待されていた、布監督。あの圧巻の声援を、一致団結したOnesou1を見せたかった。聞かせたかった。
最も大切で、最も苦しい時期に、期待と責任を一身に背負うことを引き受けてくれた新しい指揮官に、もっともっと熱い声援を届けたかった。


アルウィンへ足を運ばなくなった。試合日程すら確認しなくなった。

選手が分からない。興味が湧かない。試合結果を時々見れば、失点が続く。
堅守を誇ったはずの、あの守備力はどうしたんだ。
あんなに補強したはずの得点力は何処にあるんだ。
反町監督がいなきゃ駄目なのか。多くのヒーロー達を送り出して、どうして。

苦しいのは選手達だ。フロントだって、こんな事態は想定していなかったろう。
わかっている。努力だってしているに決まっている。
でも、でも、でも!
スタジアムを埋め尽くすサポーターの声援があったら、以前のように熱い魂を爆音で届けられたら!そうしたら、走れるのか!!!意地で走り切って、勝ってきてくれるのか!!!

それがないとJ2を勝てないクラブが、果たしてJ1なんて目指せるのか。


そんな自分が嫌になって、私は『山雅離れ』を決めた。また見に行きたいと思えるまで、松本山雅FCへの関心を、情熱を、自ら手放した。

ただ、つらかった。悔しかった。そして、寂しかった。




どこかで分かっていた。必要な時期なのだろう、と。

上述の記事で書いたとおり、私は2017シーズンからのサポである。私は、一度降格してきて下り坂に足を取られ始めた松本山雅FCしか知らない。それ以前の、色んな確執を乗り越えて、歴史を積み上げて、短期間で怒涛の勢いで駆け上がってきた松本山雅FCを見ていない。
だから、登りあぐねて苦しんでいる選手を、監督を、ずっと見てきた。それでもずっと、応援してきた。

きっと、ここが正念場なのだ。ここを乗り越えられなければ、強くなれない。
強いクラブはきっと、皆そうして強く逞しくなってきたのだろう。

私も頑張るから、頑張ってくれ。低迷したって仕方ない、負け続けることだってある、でも、でも、意地を見せてくれ。『雷鳥は頂を目指す』、その心を忘れないで、受け継いでくれ。
サポーターは強制的に応援を制限された。声援は出来なくなった。入場者数も限られた。でも、いなくなったわけじゃない。心から離れていったわけじゃない。

だから聞こえなくとも信じてくれ、国内で屈指と言われるサポーターを!誇ってくれ、そんな私達を!

私達だって、信じていたいんだ!

心の片隅ではずっと応援していた。離れると決めたって、ずっと身につけてきたユニフォームやグッズは、部屋の中で一番目立つ場所に飾ってある。観戦に行くための『アルウィン用バッグ』の中身だってそのままだ。
いつ思い立っても、スタジアムに行けるように。




4月25日。天気は晴れ。少し肌寒くて風は強い。順位は、ついにJ2最下位。ただし、下位の勝ち点差は団子状態。そして相手は、一足先に降格圏を脱したばかりのザスパクサツ群馬。
岩上選手が、久保田選手が、高木選手が、皆に愛された選手が来る。

ここで行かないで、一体いつ行くんだ。そう思った。

あのプレースキックを間近でまた見たい!そんな不純な(?)動機もあった。余談だが群馬側のFKの時に、村山選手が「蹴るぞ8!!」と言ったのが聞こえて、つい笑ってしまった。岩上選手は、群馬でも8番を背負っている。『鶴舞う国の知将』という二つ名と共に。ザスパクサツ群馬には、選手一人一人に二つ名をつける文化があるのだという。


座席は、悩みに悩んでゴール裏を選んだ。コーナーフラッグの良く見える位置。
いつもお気に入りの席だった。立ち上がっても座ってもいい、見通しの抜群な前の方の場所。

選手紹介、そして中央線。無意識に、自然に立ち上がっていた。拍手、そしてキックオフ。
太鼓に合わせて目一杯、手を叩いた。いつ以来のゴール裏か分からない。声の代わりに手拍子を絶やさずに、いつかの、かつての、いつものゴール裏と同じ。ただただ、夢中だった。

あの時の雰囲気とよく似ている、と思った。2018シーズン最終節、J2優勝して昇格を決めるかどうかという徳島戦。アルウィンに集結した緑の全員がひとつになって、『絶対に負けるな!!!』と思ったあの空間。
あの日、大分に一点を返した山形の功労もあって、松本山雅FCは優勝して昇格を決めた。その時に山形に所属していた阪野選手が今、緑のユニフォームを着て、心強きベテランストライカーとしてアルウィンのピッチを駆けている。

手のひらが真っ白になるほど、手拍子を叩いて応援した。ハーフタイムに、物販へと走った。追い風になる後半戦、目の前で展開されるだろうCKの時、どうしてもこのタオルを広げたかった。

このチャントが分かる選手が、今の松本山雅FCに一体何人残っているのだろう。
大型ビジョンに輝く『CHANCE!』の文字、スタジアムが震えるほどに熱狂する、屈指の熱量と一体感。

『マツ・モト!!レッツゴー!!!』

歌いたい、歌いたい!本当は大声を張り上げて歌いたい!!!
コーナーフラッグが良く見えるように狙った私の席は見通しが抜群だ。だから、もしかしたら選手から見えるように、頭の中で、聴こえるように!そんな思いで、でも後ろの邪魔にならないように、『CHANCE!』の度にタオルを広げた。

前半では遠くて良く見えなかった下川選手が、目の前を駆け上がってきてクロスを上げる。特別指定選手だった時から応援していた。見ていて楽しくて、愛媛でも金沢でもずっと追っていた。今また目の前で、同じ色のユニフォームを着て、プレーを見られる。応援できるのが、たまらなく嬉しい。

70分が過ぎ、あっという間に80分が過ぎる。惜しいシーンは何度もある。攻める気迫も、絶対に失点してなるものかという意地も伝わってくる。そうだ、私が見たかったのは、この闘志だ。得点が入らない、それでも絶対に1点を与えないという意地、走り続ける泥臭い根性。点を獲る、勝つためのサッカーじゃなく、決して失点しない、負けてたまるかという不屈の闘志。そして隙あらば得点を狙う、勝ちに行くという強い意志。スタジアムの熱量が上がる。90分が近くなる。勝てないかもしれない。でも負けないでくれ、戦い抜いてくれ!

行けよ最後まで、走れ松本!!!

迎えた90分、ついにゴールネットが揺れた。大野選手が目の前にスライディングしてきて、ゴール裏に向かってガッツポーズを決めた。

最高潮だった。アディショナルタイムに入っていることさえ気付かなかったくらい、緑色の観客席が熱狂した。長い長い4分を耐え、ついにホイッスルが吹かれた時、アルウィンは安堵ではなく歓喜の熱に沸いていた。

降格圏を脱したこと。それよりも何よりも、ただ、勝利が嬉しかった。讃えたかった。

スタンドへ挨拶にまわってきた全選手が笑顔だった。笑顔で、観客席を見上げながら歩いてきてくれた。
最後まで走り抜いて諦めなかった選手たち。だから、私も座ってなんかいられない。手拍子で、全身で、応援し通して、気付けばずっと立ちっぱなしだった。


ああ、来てよかった。

私はこのクラブを、今でもちゃんと愛している。
本当に、本当に、嬉しかった。



降格圏を脱したからといって、決して油断はできない。
どころか、むしろこれからだと言えるだろう。たった一勝で、ここまでひっくり返ってしまうのだ。本当に負けられないのは、ここから先だ。

インタビューで大野選手は言った。「ここから優勝して昇格する気でいる」と。
最高じゃないか。最下位からの逆転劇なんて、もう上しか見ないで昇っていくしかないじゃないか。
松本山雅FCはそれができるクラブだと、私たちは見て知っているはずなのだ。2018シーズン、無得点のまま20位まで順位を下げて、そこから昇り詰めて優勝したのだから。

それを思い出させてくれ。それを、信じさせてくれ。

だって、雷鳥は頂を目指すのだから。





でも、本音を言ってしまおう。私は、昇格なんてどうでもいい。

こんなことを言うと怒られてしまうかもしれない。けれど、私が見たいのは強者のゲームじゃない。ただ上を目指して、泥臭くとも意地でも何度も飛び上がる不屈の雷鳥なのだ。羽をもがれる度に強く逞しくなって、手に汗握って応援したくなるような、諦めないその闘志に恋をしているのだ。

その羽ばたく姿をまた見たい。いつまでも、いつまでも見ていたい。


どんな時でも俺たちはここにいる。
叫べなくても、歌えなくても、ここにいる。

『止まらねえ、俺たち松本!暴れろ!荒れ狂え!!』

最高のSee Offを、アルプス一万尺を、勝利の街を。また歌える日が来ることを願って、俺たちは、私達は、ここにいる。

あの瞬間の感動を、もう一度。



昨シーズン、空白の時間に、せっかく覚えかけたサッカーの知識をずいぶん忘れてしまった。

山雅劇場はまだまだここから。私も、もう一度、まずは選手の顔と名前から、勉強し直す必要がありそうだ。

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