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長生きしすぎは恥なのか?死神は語る

世界全体の平均寿命が64歳になった。世界の平均寿命は13年間低下している。しかし、世界の総幸福量は10年連続で増加しているのだ。
平均寿命の低下と幸福度の増加の理由をを知る男がいる。死神、不破陵ジ郎(フワ リュウジロウ)である。



-今日は死神界のドン、不破陵ジ郎さんにインタビューさせて頂きました。
不破さん、今日はよろしくお願いします。

不破(以下、不):はい、こちらこそ。よろしく。

-まず、死神という職業についてお聞きしたいです。一般的にハードな職業だと言われていますが、不破さんはどう感じられますか?

不:全ての仕事はハードじゃないか。それでも、死神はハードだ、キツいって言われるのには理由がある。今は変わってきたが、余程のことがない限り人間は死にたくないからだ。死にたくないから連れて行くとき、死神を怖がる。
俺は現役の死神だが、人を連れていくのが嫌になって一回辞めたくらいだ。
辞めたのは人間たちが世界大戦をしていたときだ。

何の落ち度もなく殺された庶民たちは
「嫌だ、嫌だ!死にたくない!」
「何で私が死なないといけないんだ!」
と顔をくしゃくしゃにして泣き叫ぶ。
現世での夢も希望も全部、戦争でパァになってしまった。俺は彼らの怒りを受け止めるサンドバッグにもなれず、ただ連れて行くだけ。皆さん、知ってると思うが、死神は死ぬ人を選べないんだよ。

兵隊さんも本当に可哀想だった。手足を失って、薬も貰えず、地獄のような痛みに襲われた兵士たちが何人もいた。

亡くなった直後は
「苦しみから解放してくれた!」
と喜ぶ。しかし、こっちへ連れて行く途中で「私はもう終わりなのか、私の人生は何だったんだろう。」
「こんな時代に生まれたくなかった」
とポツリポツリとこぼし、次第に怒り狂って暴れるんだ。あんまりにも可哀想だが、俺はやっぱり連れて行くことしかできない。
俺は心底、死神稼業が嫌になった。そして、神様に3回頭を下げて辞めさせてもらった。

-不破さんでも、辛いと思うほどの仕事だったのですね。今は復帰されていますが、何があったのでしょうか?

不:人間の寿命が伸び過ぎて困ってたから、復帰したんだ。

大戦後、死神がたくさん辞めて人間界の死亡率がグンと下がったんだよ。
死亡率は神様が決めてくださるが、大戦後は人手不足で目標死亡率をクリアできなかった。
それから、医療技術の進歩で寿命が伸びた。
病気になっても、すぐに死神が来ないのでしばらく生きてる人間が増えた。患者が長生きすると、治験する時間も増えて、新しい薬ができあがる。こうして、医療レベルが上がって寿命がぐんぐん伸びたんだ。

-北イ連邦では平均寿命が100歳近くまで上がりましたよね。

不:そう!でも、自分で動けるのは70歳くらいまで。ほとんどが30年も寝たきり。働ける世代は寝たきり人たちのお世話をしてばかり。だから、他の仕事ができない。若者は高齢者に税金を取られ、介護漬けで時間もお金もない。だから、結婚もできない。そして、子ども増えず、国が滅びそうになる。

俺はその国を見て、もう一度死神をやろうと決心した。俺は1度辞めたことを神様に詫びて、復帰した。

久々に職場に来て驚いた。若い死神が仕事に出かけず、メールチェックばかりしている。俺は彼になぜ仕事に出かけないか聞いた。
「今は医者や薬が手強すぎて、簡単に人間を連れて行けないんです。」
手強いだと!人間の医療技術なんて進歩しても、たかが知れてる。俺はなんてひ弱なんだと思ってしまった。

-まぁ、確かに・・・。

不:それは勘違いで、弱いのは俺のほうだった。でも、そのときの俺は「若い奴らに代わって俺が出るしかねぇな」と思ってた。辞めたのは俺なのにな。
俺は死亡管理台帳を広げ、病院に行った。ところが、病院の自動ドアが開くと、頭が誰かに殴られたかのように痛くなった。昔、小さな子どもを連れていったときよりも、ずっと嫌な感じがした。それでも廊下を進み、病室まで行った。死亡台帳に載った彼は裕福な患者なのか、綺麗な個室で寝ていた。患者の顔を見た瞬間、俺は何かがこみ上げ吐き散らした後、ぶっ倒れた。
目が覚めると、若い死神たちが俺をおぶって詰所まで連れて行ってくれた。このときは、本当に申し訳ないし、恥ずかしかった。若い死神の言う通り、医者や薬は強かった。俺は初めて人間が怖いと思った。
だから俺は神様にお願いしたんだ。もう、俺たちだけじゃ叶わないからどうか助けて下さいと。

-神様は助けて下さったのですか?

神様はただ「考えとくわ。」と仰った。

-相変わらず、軽いノリですね。

神様は次の日に天使たちを地上に送った。インフルエンサーとしてだ。インフルエンサーになった天使たちは次々とSNSに動画をアップした。動画のタイトルはこんな感じだ。

「10年間病院に行かなかったら、驚きの変化が・・・!」
「10年後にあの世へ逝く某国立大生」
「昔の偉人が人生50年でやり遂げたこと」
「頭のいい人の平均寿命は60代でした」

俺は最後のは嘘だと思う。しかし、最後のも含めて全部伸びた。
次第に人間たちは「太く短く生きるのはかっこいい。長く生きるのは恥」と考えるようになった。

-また神様が人間の考え方を変えたと?

不:そう!神様が「ダラダラ生きるより、限りある命を全力で生きよう」って考え方に変えて下さったんだ。
例えば、人生上手くいってる人ほど、病院に行かなくなった。長生きしなくないからだ。だから、SNSに「最終通院日は8年前」とアピールするのが流行ってる。

死神をしていると人間の死生観はずいぶん変わったんだと感じる。おととい、32歳の人を連れていったんだ。そしたら、
「私の人生やれるだけのことをした。キャリアアップのために、次は別の世界に生きたい。」
と言ってたんだよ。凄いよな。未練が無いんだよ。

-それは凄いですね。ところで、不破さんは平均寿命の低下が人類に幸福をもたらしたと思いますか?

不:そこそこ。しかし、より不幸な人間も出てきた。早死をステータスとしか思っていない人間だ。
人生で何も成し遂げていないのに、早く死にたがって不養生を重ね病気になる。死神の人手不足は終わったから、あっという間にお迎えが来る。そして、死神が連れていくとき
「やっぱり戻りたい。」
「もう一度、人生やり直したい。」
と言うんだ。
これは俺が人間に向き合わず死神を辞めてしまったせいだな。俺が責任もって、不幸な人間を減らさないといけない。


死神、不破陵ジ郎は人間に負い目を感じているのだろうか。しかし、人間は死神のことなど知らない。ただ、幸福を求め散っていくだけなのだ。

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