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幽霊部員の山田さん【未完結、執筆中】

#恋愛 #SF小説 #空想地図 #架空鉄道
画像:Bing Image Creator

 NR加奈山駅(エヌアールかなやまえき)は全体的に横浜駅と名古屋駅を足して二で割ったような感じだが、地下五階建ての複雑な多層構造でどこに何があるのか分かりづらいのは渋谷駅を思わせる。
 Daily Miniという駅構内のキヨスクのような場所で試しに何かを買おうとしてみたが、通貨単位すら違うようでSuicaは使い物にならなかった。
 駅から外に出ることもできず、自動改札機に謎のオレンジ色のICカードをピッ、とタッチして去っていく人々を僕たちはただ眺めていた。
「……どうしよっか」
 なんとか雰囲気を明るく保とうと笑顔で話しかけるも、山田さんは泣き腫らした目で虚ろな視線を投げかけるのみだった。
「困ったなぁ……」
 この大量の人ごみの中に紛れ込んでしまった異物、それが僕たち二人だった。

 スマホで何かを調べようにも「圏外」と表示されてネットも使えず、僕たちはしばらくその辺りをぶらぶらとうろついていた。
 駅の階段や壁面、柱にある広告はどれも見知らぬものばかり——
「いざ行かん 西浜へ NR中日」
「加奈山銘物桃饅頭 加奈山唐人街本店」
「Av. Montaigne」
「Speedup キミも明日へ走り出せ!」
「Fairy Cafe 北山店 New Open!」
 どれもことごとく訳の分からない商品名や会社名のオンパレードで、気が狂いそうになってくる。
 そして同時に、僕は極めて論理的に非現実的な結論に達した。
「僕たち、異世界に来ちゃったのかな?」
 行き場を失った僕は、駅構内の柱の側に佇んでいた山田さんのところに戻ってきた。
「異世界、っていうか、並行世界って言った方が正しいのかもしれないけど」
 僕が独り言のようにそう呟くと、彼女は真正面から僕の顔を見つめてきた。
「たぶん……そう」
 疑問形じゃない。
「何か知っていることがあるの?」
 僕はつい問いただすように聞いてしまった。
「……ごめんなさい」
 彼女は唇をギュッ、と噛み締めた。
「さっきからどうして謝ってるの? 別に山田さんのせいとか、そういうことじゃ——」
 状況がつかめず混乱していると、使えなかったはずのスマホが通知もなしに振動し出した。ポケットから取り出してみると、真っ黒な画面に「着信」とだけ表示されていてまるでホラーだった。

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