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【読書記録】ツインスター・サイクロン・ランナウェイ

小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」を読みました。

早川書房さんはnoteの使い方がうまくて、試し読みがたっぷりnoteにあるので、まずはそちらをぺたり。

各所で「最高の百合SFだ!」という賞賛の声を聴いていたのですが、どうも表紙が……萌え絵というか、オタク感というか、「オタクが好きな美少女百合」すぎて、どちらかというと古き良き(?)吉屋信子みあふれるエスな関係や単なるクソデカ感情を何かとはき違えた百合が好きな身としては敬遠していたのです。と思っていたら、ふと百合SFアンソロジー「アステリズムに花束を」を見返していたら、短編版本作が載っておりまして、それを読んだ結果気付いたらさらっと文庫を買っていました。わたし、チョロすぎ。

■古き良きSFとジェンダー問題

「それが答えだ。女性は、想定外の状況での反射的対処能力が低い。これがFBBの気圧高度八〇〇〇で一〇Kもののバチコンドウと格闘している最中に、突然ダウンバーストが襲いかかってきたという状況だったらどうなる? 何も出来ず、真っ逆さまだろう。そんな危険に身を晒すのは、相応のものでなければならない」

うるせえ黙れ(#^ω^)

「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」は、ガス惑星で宇宙魚を釣り上げる女カップル(バディものではない)の物語です。現状カップルと言い切れないけれど、ぜったいカップルだ。
骨太な「ガス惑星」での「宇宙魚」漁の描写が続くと、まさに骨太の古き良きSFを読んでいるときの楽しさがあります。さすがの小川一水先生。
とくに宇宙船を粘土のようにぐにゃぐにゃにして、「デコンパ」がイメージする形に船を変形させ、網を作り漁をする光景は、SF的な楽しさと同時に、ファンタジー的なワクワクも感じます。

さて、その「デコンパ」はほとんどの場合女性です。そして、ペアとなり船を操縦する「ツイスタ」と2人で漁に出ます。そしてその「ツイスタ」は男。漁に出るのは「夫婦」単位というのがこの周回者(サークス)での常識なのでした。

主人公のテラは、全体的に大きな体を持ち(身長、おっぱい、お尻)天才的なデコンプの才能を持っていますが、天才肌すぎてなかなか一緒に漁に出るツイスタが見つかりません。何度もお見合いがうまく行かずにいたなか現れたのが、ダイオードと名乗る少女。彼女は女なのにツイスタであるといい、実際にかなりの腕前を見せます。

トントンと物語は進み、2人はペアを組み漁に出るようになるのですが……。

というところで、起きるのが「漁に出るのは夫婦でだ。女と女が遊びで漁みたいなもんをするんじゃない」という周囲の視線や言葉です。

最初に引用したのも、偉い人からのテラとダイオードへのお言葉です。全くありがたいお言葉ですね。

■現代日本社会じゃないからこそくっきり描けるジェンダー

こんなにあからさまに女を下げる表現は、流石に昨今見かけません。

ちょうど数日前に、Twitterトレンドに「緊急避妊薬」が載り続ける日がありましたが、その日女の子たちはけっこう憤慨をしまくっていたことがありましたね。

私、これを見たときに「あ、ツインスター・サイクロン・ランナウェイのジーオン長老だ!!」と思ったものです。

周回者(サークス)のなかでは、限られた人間の中で血筋をバランスよく保ち子孫を残さなければならないという使命があるので「男女ペアをつくる」というのはある種必然の流れだったのでしょう。もちろん、それは私達が生きる現実の世界も同じです。

主人公であるテラはお見合いを繰り返しながらも、なんとなく男性との結婚に乗り気になれません。でも、「男のツイスタを見つけて船を飛ばす」ためにお見合いを続けます。

そこにダイオードが現れたことにより、本当の目的である「船を飛ばす」ためには「男の」ツイスタを見つける必要がなく「ツイスタを見つけて船を飛ばす」事が必要だったことが明らかになるのです。
それって、私達の生きる中でもよくあることのような気がします。

■テラとダイオードが幸せに過ごしてほしい

バリバリの百合が必要なこの物語。テラとダイオードの関係もバリバリの百合に……

なってくれ!!!!! 続刊してくれ!!!!!!!!!!!

キャラクターはちょっと「あからだまだなあ」と思うところもありますが、でもテラとダイオードの2人をニコニコ見守りたくなるような良作SFでした。






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