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シャーロック・ホームズを呼ぶ前に

美しい春の終わり。残雪の山を映した田植えの時期も過ぎ、カエルの歌も少しトーンダウンしてきた。最高気温は30度を越し、ぬるい風がまだ暑さに慣れない白い肌を撫でていく。先ほどアイスティーと水出しコーヒーを仕込んだところ。なんと言ってももう6月なのだ。早いね。

お元気でしたか?私は元気です。

先月はようやく新しい曲も発表でき、慣れないオンライン作業も続いて、おかげさまで忙しい毎日を送っている。何を発信していいのかわからずnoteも止まっていたけれど、いろんな考えが一回りして、やっぱりここには日々の暮らしのことや、くだらないことを綴っていくのが良いかもなと思い至った。なので、今日はとびきりくだらない話をしようと思う。

家で過ごす時間が長いと、家族や身近な人との距離や考え方の違いを感じる機会も多くなる。うちでもちょっとした問題が起こった。題して「トイレットペーパー事件」先に言っておくけど、本当にくだらないです。すみません。

ある日夫がサラっとこんなことを言った。「うちではトイレットペーパーを替えるのは俺の仕事だよね」

???

気づいたら替えているつもりだった私は咄嗟に「え、そんなことないよ」と言ってはみたものの、確かに記憶を辿ると私がトイレットペーパーを替えた回数は多くない。家にいる時間は私の方が確実に長いし、女性の私の方がトイレットペーパーを使う回数は多いはず。たまたまにしては回数が偏り過ぎている。なぜ...

密室で起こったミステリー。目撃者はいない。
しかし、この謎を解くのにシャーロック・ホームズは必要ないのだよワトソンくん。少し考えればわかる話である。

うちのトイレにはペーパーホルダーが2つついていて、私はあまり考えず適当に使っていたのだが、夫は「少なくなった方から使う」ルールを徹底していたのだ。そりゃ少ない方から使うんだから、夫の方が芯に当たる回数は必然的に多くなる。謎が解けて夫婦2人して妙に納得した。こちらに悪気はなかったにせよ、夫は文句も言わず損な役割をずっと引き受けてくれていた訳で、なんだか申し訳ない気持ちになった。

うちは夫婦2人暮らしだが、こういう些細な生活習慣の違いは色々なところに出てくる。例えば私は床に物が散らかっているのが好きではないが、夫は気にしないので服や小物がよく落ちている。(私はそれをマーキングと呼んでいる)
私は色や形の揃ったのが好きなので、調味料や食べ残しも別の容器に移し替えて綺麗に並べたい。しかし詰めが甘いので、タッパーの蓋がちょっと閉まっていなかったりする。(一度夫が閉まり切っていない蓋部分を持ち上げてしまい、床にひじきが散乱して2人で爆笑した)夫は備蓄品などストックがあると安心するタイプで、シンプルに暮らしたい私とは対照的だ。

これはどちらが良い悪いという話ではなく、感じ方や習慣が違うということ。そこに他人と暮らす醍醐味があり、面白さがあると思う。日々いろんな発見があって、その度に面白がって、理解が深まり、お互い妥協しながら小さなルールができていく。特に生活を共にする家族の間にはそういう気づきや話し合いは絶対に必要だと思う。

トイレットペーパー事件以来、私も残り少ない方から使うルールを取り入れるようになった。もちろん芯を替える頻度は格段に多くなった。こういうことって、やっている本人は意識していても、恩恵を受ける側は気づきにくいものだ。

日々の小さな問題はシャーロック・ホームズを呼ぶ前に、何事も話し合って解決するのが吉である。さもないと不満が溜まって、事件は迷宮入りするかもしれない。


寺岡歩美



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