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煮詰まるよりも煮詰める

気分を変えたい時、ジャムを煮るのが良い。
程よくぼーっと出来るのも良いし、くつくつ煮える果実と砂糖の甘い匂いも良い。
スーパーでイチゴが安く出ていたので、今日はいちごジャムを仕込んだ。形が悪くても多少酸っぱくても、ジャムにしてしまえば気にならない。甘酸っぱい春の訪れ。

昨年からようやく本格的に取り掛かった新しいアルバムの制作が佳境を迎えている。ミックスという作業で、ジャムを煮込むみたいに音の素材をバランスを取りながら混ぜていく。オリジナルアルバムは実に5年ぶり。私の5年間という時間が詰まったジャムだ。オリンピックムードで盛り上がる2020年の春に向けてリリースできるはずだったけれど、新型コロナウイルスのせいでオリンピックも延期。日常生活にも制限が出て、音楽イベントは続々と中止・延期になり、例に漏れず私もいくつかのイベントが延期になってしまった。世界に目を向けると外出禁止になっている国も多く、ジャムどころか缶詰状態。日本はまだ外に出られるけれど、明日どうなるかもわからない。色んなニュースにがっかりすることも多いし、どの情報を信じれば良いのかと疑心暗鬼にもなる。北海道で医療に従事している高齢の父親のことも心配だ。自分と大切な人の暮らしを守るための静かな戦いが始まっている。

すでに決まっている音楽イベントには出て良いのか?延期になったイベントはいつになったら実施されるのか?こんな時期にアルバムを出しても誰も聴いてくれないんじゃないか?生活はどうなるのか?不安や不満を言えばきりがない(家の中では結構ブーブー言っている)けれど、やっぱり前を向かないといけないし、命にはかえられない。

暗い話題が多い中、イタリアではベランダでセッションが始まったり、DJしたり、スペインでは警察がストリートで演奏を始めたり、そんなニュースを目にすると思わず顔がほころぶ。音楽には人の心を明るくする力がある。他の芸術と同じように、堪え難い現実に光を差してくれる。私も何度音楽に助けられたかわからないし、こんな時だからこそ世界には一つでも明るいもの、美しいものが増えた方が良いのだと思う。

5年もかけて温めてきた音楽を、よりにもよってこんな時期に出さなければいけないのは、正直悔しい。現実問題かかった制作費が回収できるかもわからない。事態が落ち着くまでリリースをずらしたほうが良いのかもしれない。でも、やっぱり予定通り突き進もうと思う。ライブに関しては現実的に考えて今の状態では判断ができないので、レコ発ライブだけはまだ白紙。会場は相談しているけれど、配信なども検討しないといけないかも。でも、絶対に届けたいと思う。

と、決意を新たにしているうちにジャムが出来上がった。辛抱強く待つこと、思い切って行動すること、考えるのをやめないこと。燃えるような情熱ゆえに煮詰まっている人がいたら、代わりにアイディアを煮詰めることをオススメする。さぁ、今音楽に何ができるかな? 私も頑張るからね。


寺岡歩美

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