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夏の思い出、家のご馳走編

夏生まれの私は、やっぱり夏が好き。信州の夏は日差しが強く、もちろん暑いのだけれど、朝夕少し気温が下がるので、東京より幾分か過ごしやすい。何と言っても隣の田んぼの青さが毎日眩しく、風が渡る様子は目に涼しくて気持ちよかった。と言いつつ、今年の夏は主に部屋にこもって音楽制作していたおかげで日中ほとんど外出できず、夕方涼しくなってからようやく夕飯の買い出しに出掛けるという日々だったけれど。おかげで新しい曲も出揃ってきたので、息抜きがてら夏の思い出を少しまとめてみようと思う。

まず梅雨が明けてすぐ取り掛かったのは待ちに待った梅干しの天日干し!

ぷっくりと出来上がった梅を天日に干し、夕立に気をつけながら3日間。最後の1日は夜露に当てて乾燥具合を調整する。夏のお日様の威力は凄まじく、どんどん水分が飛んでいって、シワシワの見慣れた梅干しになる。炎天下に外に出て、熱中症になる仕組みが肌身にしみて理解できた気がする。

しそ梅の他に白梅も作ったので、それぞれ保存容器に入れて熟成させる。1週間ほどたった出来立てを口に含むと、すっぱ!い、けれども、とてもフルーティーで美味しい梅干しに仕上がった。文章を書きながら思い出して、口の中がじゅっとなるほどに。

梅干し作りに初挑戦してみて、嬉しい誤算はその副産物の美味しさだった。まずは梅酢。白梅酢は調味料として色々な料理に使える。例えばきゅうりなどの夏野菜と胡麻と和えるだけで、なんとも涼しげな一品に仕上がるし、酢飯を作るときに塩の代わりに梅酢を使えば梅酢寿司のできあがり。錦糸卵やしいたけの甘辛く煮たのを混ぜてちらし風にする。上品な塩気と酸味と旨味があり、塩の代わりにどんな食材にも万能で使える。簡単に洒落た一品が出来るので、お気に入りの調味料になった。

一方、しその色が移った赤梅酢は、瓶に移して薄切りにして湯がいた新生姜を漬ける。数日経てば紅生姜のできあがり。これを先の梅酢寿司にトッピングすれば、色も鮮やで塩気と酸味が食欲をそそる。もちろん焼きそばの付け合わせや、カツオの刺身に薬味としてのせても美味。市販の真っ赤に着色されたものと違って、しそ本来の鮮やかな紫色に近い色をしていて、自然の色彩の豊かさにはいつも驚かされる。いつか庭を持ったら育てたいものリストに赤しそが加わった。

また、しそ漬けに使ったしそ本体を梅干しと一緒に天日で乾燥させ、すり鉢で細かく砕けば「ゆかり」の出来上がり。そう、あのゆかりご飯のゆかり!元々ゆかりご飯が好きだったので、こうやって手作りできるんだな〜。と妙に感動してしまった。炊きたてご飯にほんの少し振りかけるだけで、贅沢な梅としその香りが鼻を抜ける。

知人から大量の夏野菜をおすそ分けしてもらった日には、ピーマン、ナス、とうもろこしなど夏野菜の天ぷら、オクラの梅酢和え、ゆかりご飯...
高級フレンチレストランのフルコースも素敵だけれど、季節の食材を気兼ねなくほおばれる家のご馳走もまた楽しいものである。

9月に入ったここ最近はすっかり秋の気配。昨日の晩ごはんには枝豆と味噌田楽が共に並び、我ながら季節のちぐはぐさに笑ってしまった。信州はお盆を過ぎると急に涼しくなるようで、肌掛け布団がないと寒くて朝方目が覚めるほどだ。空は高く、入道雲は散りじりなうろこ雲に変わり、蝉も鳴き止んでコオロギと鈴虫の涼しい声に取って代わる。どうして夏の終わりは理由もなく寂しくなるのだろう。それも秋の実りの時期が来ればすぐに忘れてしまうのだけれど。


寺岡歩美

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