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【ミラベルと魔法だらけの家】が、これからのディズニーの顔だ!

 1937年に、白雪姫が「いつか王子様が」と夢見てから84年後の今日。
すっかり価値観は変わり、女性は男の人に見初められて「幸せに暮らしましたとさ(Happily ever after)」という人生より
「ありのままに(Let it go)」自分で人生を切り拓く強さを選ぶようになりました。

 かつて王子様に愛されたのは、バラ色の頬をした可愛い顔と細身の体、ドレスを着こなす可憐なプリンセスでしたが、ポリコレの声が高まる中でヒロインは次第に変わっていきます。
塔の中から飛び出したラプンツェルと、塔の中で王子様のキスを待っていたオーロラ姫(眠れる森の美女)は価値観が合わなそうですし、
王子様に騙されたアナは、王子様のお迎えを待つ白雪姫と恋バナできない。
愛と言えば家族愛のエルサと、愛と言えば家族より舞踏会での出会いだったシンデレラも、センシティブな話題すぎて喧嘩になりそう。
 時代と共にヒロインの性格やシナリオは変化していきます。

 白雪姫から数えて60作品目のディズニームービーのヒロインは、さらさらの輝く髪も持たず、痩せてもなく、魔法も使えず、王子様も待っていない、普通の有色人種の女の子、ミラベルです。
そして驚く事に彼女には、趣味や特技すらもありません。

 彼女の姿を見た時、正直「ポリコレに配慮し過ぎてこんなデザインになっちゃったのか」と思いました。

つまり、
人種に配慮して金髪、青い目の白人ではなく有色人種
ルッキズムに配慮して、モデルのような美人ではなくぽっちゃりした体型
フェミニズムに配慮して当然王子様に幸せにして貰いたいと思ってない
メガネの野暮ったい女の子…
こんなにガチガチにポリコレ問題対策してどういうつもり?
ディズニーは何を作ったの?
私の興味は俄然そちらに湧きました。

 結論から言うと、今回ディズニーが作ったのは
「ポリコレに配慮させられたアニメ」ではなく
ポリコレをテーマど真ん中に据えたアニメ
これには予想を大きく裏切られ「そう来たか!!」と唸りました。
しかも、野暮ったく特別じゃないミラベルは、劇中では実に生き生きと魅力的なのです。
今までの「あなたはそのままで十分素敵」というメッセージを
さらに拡大して伝える為に作られた映画だと感じました。

_以下、作品内容に触れます。_

ミラベルは、カシータという魔法の家にマドリガル家の一員として
家族と仲良く暮らしています。
この一家は伝統として、5歳の誕生日に魔法の家から特別なギフトを貰います。
それはその人専用の特別な魔法。
一家のリーダーの祖母との約束「与えられた能力を家族の幸せの為に使う事」と共に
皆が魔法を使える中、ミラベルだけ何の能力も授かれなかったのでした。
それでも大好きな家族の為にミラベルは力になりたいと願っています。
明るく優しく生きる中で、親戚が魔法を授かる日には平常心でいられないミラベルなのでした。
ある時、家の魔法の力が弱まり家がひび割れ始めている事に気づいたミラベルが姉妹に相談すると、
思いがけず、怪力の姉は「能力が使えなくなったら私に価値はないのでは」と
激しいプレッシャーの中で生活していた事を知り
花を咲かせる“完璧な女性”の美しい姉は、「結婚などしたくない、
美しく完璧でいる為に頑張りたくない」と苦悩していた事を知ります。

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 カシータというのはスペイン後のcasa(家)に指小辞itaがついた「小さな家」という意味の単語。
どうして「カーサ」ではなく、あえて「小さな」をつけて「カシータ」にしたのでしょう。

 これは創業者のウォルト・ディズニーの理念"it's a small world(小さな世界)"と符号しています。
今回描かれる「カシータ(家)」は、私達の住む世界(社会)の暗喩であり、「ファミリア(家族)」は、社会生活を営む私たちの事です。

 ミラベルのように特別な何かがない人間は社会に居場所を見失い、
人々に貢献できる能力を獲得した人間はその能力こそが存在意義になり、
美しさや女性らしさの中で生きる事を望まれた女性は息苦しさを感じます。
今回の映画では、今まで個人に宛ててきた「ありのままでいい」というメッセージだけでなく、
「家族(周りの人)の幸せのため」に役割を与えられ、貢献を望まれ、息苦しさで追い詰められるくらいなら、一度家(社会)は完全に壊れなければならないという強いメッセージが込められています。

 今回この記事を書くにあたって、"it's a small world"の英語の歌詞を読みました。
日本語訳とは少し違うので、ここに意訳を載せておきます

笑いの世界、涙の世界
希望の世界、恐怖の世界
私達はたくさんのものを共有している
認識する時が来たんだ
所詮は、小さな世界なんだってこと
所詮は小さな世界
所詮は小さな世界
月はただ一つ
輝く太陽も一つ
笑顔は全ての人への友情
山は分断し、海は広大だけど
所詮は小さな世界なんだ
所詮は小さな世界
所詮は小さな、小さな世界

この歌が作られた当時から、世界には分断がある事、私達にはわかりあえる希望がある事が歌われています。
60作目に、この時代に、カシータ(小さな家)でディズニーの理念を再構築したのは素晴らしい挑戦だと思いました。

今、社会の価値観は大きなうねりの中で分断され、ぶつかり、変化してきています。
この映画でミラベルは「プリンセス」でも「魔法使い」でもなければ「本の虫」や「弓が上手く操れる子」でもない。
ミラベルは、ただのミラベル
能力や象徴で人を見るのではなく、これが本当は正しい人との向き合い方なのかもしれません。


最後に、
「ミラベルと魔法だらけの家」
原題は「Encanto」です。
この単語には2つの意味があります。
1つは「魔法」
そしてもう1つは「魅力」です。

何も持たないミラベルが主人公の映画についたタイトルが、Encanto。
何を持っているか、どう貢献できるかではなく、その人の魅力は何かが重要だ、というメッセージのようにも思えます。

今までファンになったプリンセスはたくさんいたけど
友達になってそばにいて欲しいヒロインは
ミラベルが初めてでした。
きっとそれが彼女の魅力、なのでしょうね。

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