立て掛けられた樹木

信号待ちの間考えてみたけれど、なぜあそこにハシゴが掛けられているのかわからなかった。

あそことは、とある民家の敷地内にある立派な木。樹齢50年はくだらないだろう。いや、ゆうに超えているかもしれない。太くてゴツゴツとした幹にもたれかかるようにして、長いハシゴが立て掛けられていた。

その木は、幹より上がない。おそらく隣家や道路にはみ出さないように、もしくは、はみ出していたため、枝が根こそぎ切り落とされてしまっていた。つまり、幹だけ残された状態だった。

ハシゴを掛けるからには、きっと人が登って、なにか作業をするんだろう。しかし、登ったところでなにもない。つまり、することがない。ない、ない、ない。恋じゃない。ないないない、愛じゃない。NAI-NAI-NAI そこが危ない〜♪

もはや歌うことしかない残されていない、それくらいなにもなかった。遠くを眺めることはできるかもしれないが、そこまで背が高いわけではない。絶景は望めないだろう。しかし、幹の頂点へ向けて、しっかりとハシゴが掛けられていた。

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信号が青になっても、そのことは頭から離れなかった。そして、ついにハシゴの掛けられていた理由がわからないまま1日を終えようとしていたカメラマンの「ツバメ」。布団に入ってちょっと経った頃、ふとあることに気が付いた。

〈ハシゴを登れば、空が近くなる〉

次の瞬間!パッと光景が脳裏に浮かんだ。木の上で手を伸ばし、星をつかもうとする子どもと、隣で微笑ましく見守る親の姿・・。

〈パシャ!パシャ!パシャ!〉

すかさずシャッターを切るツバメ。しかし、3回程切ったところで急にまぶたが重くなり、そのまま落ちてしまった。やや頬が上がって、なんとも幸せそうな寝顔だった。

乾いた空には星が瞬いていた。






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