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「沸騰する地球」の時代をどうすればいいのか(全4回)                              第3回 深刻さを増す生態系の破壊

地球温暖化のもうひとつの側面は、生き物たちが危機にさらされているということです。温暖化が要因となっている絶滅危惧種は4000種以上に及ぶと見られています。生態系の破壊はすでに進行しており、このままでは大量絶滅の時代がやってくる恐れさえ出てきているのです。

失われてゆく地球の生き物たち

 今進行している地球温暖化の最大の問題は、生態系の破壊が進行していることでしょう。私たちは魚を食べるので、日本近海での漁業の深刻な事態を見ていますし、極めて憂慮すべき状況と考えなければなりません。
 海、陸を問わず、生息環境の激変により、なすすべを持たない多くの生き物たちがエサをなくし、病に侵され、死んでいます。
 適地を求めて移動した動物は、新参者として生物相を攪乱し、新たな病原菌や害虫を運び込み、そこでも多くの生き物が死んでいます。
 
 氷の融解によって獲物が獲れずにやせこけたホッキョクグマや、繁殖地の氷の消失のためコロニー全体で死滅してるコウテイペンギンのヒナなど、温暖化のために命が失われてゆく生き物の映像には心が痛みます。
 メディアではホッキョクグマやアフリカゾウなど、絶滅が危惧される動物たちをクローズアップしがちですが、その陰でどれだけの小動物や昆虫、植物、微生物などの生き物が危機にさらされ、あるいは滅びているか、その実態は分かっていません。しかしそれが音もなく進行していることは想像に難くないでしょう。

すでに人類は生態系を壊してきた

 そもそも人類は農耕と牧畜を開始し、人口を爆発的に増加させたことにより、この間氷期の約1万年で、地球上の森林の3分の1を、草原の3分の2を切り開いたといいます。
 開拓した農地には単一の作物が生えるのみで、かつての豊かな生態系は失われました。農地には緑があるだろうと思われがちですが、実態としては環境破壊であり、ここ数十年は毎年大量の農薬と殺虫剤や殺菌剤を撒いているため、生き物がまともに生息できるような土地ではなくなっています。
 
 人類の急激な増加が原因となって、すでに多くの生物が絶滅しました。レッドリストによれば、1600年以降に確認されているだけで700種に上るといいます。
 そして今、さらなる環境破壊と地球温暖化が追い打ちをかけています。
 

地球にとっては急激すぎる変動

 ところで、地球の温暖化はこれまでも繰り返されているのだから、ことさら問題にする必要はないだろうという意見があります。
 テレビにも出ている著名な科学者が、地球が温暖化すると植物の生産性が高まり、人や生き物が住みやすい場所が増えるからよいことである、などと述べていることには、ただただ驚くばかりです。
 
 これまで繰り返されてきた気候変動は、「数万年単位」の時間軸にありました。そして生物は適応するものとしないものがゆっくりとバランスを変えながら、全体としての生態系を維持させてきました。
    例えば高山植物などは、氷河期に平地で繁殖していた植物が、温暖化とともにゆっくりと高地に移動して生き延びたものです。
   しかし今起きているのはわずか100年や数十年での出来事であり、地球時間で見ればほんの一瞬でしかありません。その急激な変動に生態系が対応できずに、著しく壊れてしまうことが危惧されるのです。

生物の大量絶滅さえ危惧されている

 地球のあらゆる生き物は、捕食したりされたり、あるいは相互に依存しあって巨大かつ複雑な生態系を構成しています。すべての生き物は他の生き物との関係性の中で生きており、奇跡的なバランスを保っています。そのため何かのピースが欠けただけでも、ドミノ倒しのように影響が及んでゆきます。そして命を育む母体そのものの地球環境が激変しているのです。
 
 地球生命の大量絶滅は、35億年の歴史の中で5回あったとされています。直近での大量絶滅は、6600万年前の白亜紀末に小惑星が落下した時のもので、恐竜やアンモナイトをはじめとした75%の生物種が絶滅しました。
 この時の大量絶滅は、衝突で発生した膨大な塵によって太陽光が遮られ、地球全体での気候変動が起こったためだといわれています。
 
 大量絶滅の定義は、75%以上の生物種が280万年以内に絶滅することとなっています。280万年とは一瞬耳を疑う年数ですが、地球の時間軸ではそれでも短い期間であるということを理解しなければなりません。
 そして今の短期間の地球温暖化は、過去の大量絶滅に匹敵するほど、あるいはそれ以上のインパクトを生態系に与えています。世界自然保護基金(WWF)は、1970年以降で脊椎動物の個体数が6割減少していると発表しており、このままでは6回目の大量絶滅にさえなりかねないと警鐘を鳴らす科学者がいるほどなのです。
 
次回は温暖化対策がなぜ進まないのかについてお話をします。

(#007 2023.08)

第1回 地球温暖化のメカニズムを知る

第2回 過去の地球温暖化とは何が違うのか

第4回 なぜ温暖化対策は進まないのか


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