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夜の女と昼の女

それから、ママとアキとの取り決めで島田が来る日には、お店に出ることになったユウカ。ママとしては大歓迎だったみたいで、翌日すぐに、ユウカ用のナイトドレスも用意されて渡された。

それから、ユウカを驚かせたことは島田はリナちゃんがやめた事情を知った後もユウカ目当てにお店に通ってくるようになったことだ。ママに聞いたら、島田は不動産会社を経営しているのだが、普段は社員に対して居丈高に出ている分、こういうお店ではユウカのような強気な女の子に惹かれるのだそうだ。

ユウカとしてはこれ以上、お客を増やしたくなかったが、ママはユウカを他のテーブルにも頻繁にヘルプにいかせた。それからフリーの客に対しても接客をするようになると、ポツポツと自分を指名する客が増えてきた。

(私、何やってるんだろう?)

そう思わないわけではなかったけど、毎日の忙しい日々がユウカに考えることを停めさせていた。何より自分が必要とされていて、恩人のアキの役に立っていることの方がユウカには大切だった。充実感も感じていた。幸いお酒を飲むのは好きだったから、気の合うお客さん相手の接客の時は、羽目を外して飲んで心から楽しい、と思うこともあった。酔っ払って夜中に家に帰ると全身から力が抜けて、メイクを落として寝るだけ。翌日、起きるのも昼過ぎで豪邸の地下エステルームの横にある大風呂に入るのが出勤日の日課だった。

習慣とは恐ろしいもので、東京で当たり前のように過ごしていた朝早く起きて、翌朝の準備をしてから夜寝るという生活リズムは簡単に変化した。しかし、ユウカにとっては良い面もあった。毎日違う客を接客して一日が終わるとリセットされる日々は、今日が駄目でも明日がある、というポジティブな考え方にと変わっていったのだ。それから、ユウカは誰にも言っていなかったが積立型の個人年金と保険を契約していた。それは、丸の内時代、結婚相手を妥協で選びたくないと心底思っていた証拠でもある。もしも、このまま運命の人に出会えずに将来独りでも困らないように貯めていたのだった。

しかし、それを解約した。

お金を払い続けるのは難しくなかったが、それより払うことの意味を見つけられなくなったのだ。ここでは毎日みんな必死に生きている。そもそも、将来、結婚相手がいなかったら働き続ければいいんだし、仕事はきっとある。この店では年上のおばあちゃんだけど、最近では熟女キャバとかあって、そっちでなら私はまだまだひよっこのはず。

私を指名してくれるお客さんは今でもいるんだし、そんなに心配することないよね……。

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