さらに事態は悪化していた。 「私が言ってた通りになったじゃないですか。お客さんも来ない、女の子も来ない、アキさん一人でやるつもりですか?」 「知らないわよ」 その日は予約が入っていないから休業することにした。 次の日も予約は入らなかった。そして次の日も。 ニュースでは外を出歩く人たちをまるで悪者のように取り上げ、彼らを受け入れるお店や会場をやり玉にあげて批判した。 今さえしのげば、日常は必ず戻ってくる。 自治体の長が、目を赤くはらし、マスクをつけ、いかにも緊急事態
さらに事態は悪化していた。 「私が言ってた通りになったじゃないですか。お客さんも来ない、女の子も来ない、アキさん一人でやるつもりですか?」 「知らないわよ」 その日は予約が入っていないから休業することにした。 次の日も予約は入らなかった。そして次の日も。 ニュースでは外を出歩く人たちをまるで悪者のように取り上げ、彼らを受け入れるお店や会場をやり玉にあげて批判した。 今さえしのげば、日常は必ず戻ってくる。 自治体の長が、目を赤くはらし、マスクをつけ、いかにも緊急事態の体で
ユウカがフロアをのぞくと、客はいつもの半分くらいしかいなかった。 自治体が自粛を呼び掛けたり、会社でもそういった場所を接待に使うということが避けられるようになっていた。 そもそもお店にでている子たちからも、「もう出勤はしたくない。感染したら怖いから嫌だ」そんなこともちらほらと言われていた。 雇われママのミユキさんも「閉めた方がお店の評判だって上がりますよ」と言っていた。 ユウカはアキに「あなたはどう思うの?」と訊かれて、さんざん頭を悩ましたけれど、どれだけ考えてもユウ
大陸の方で変な病気が流行っているとMariちゃんからの報告を受けてからも、「クラブ・フローラ」は通常営業を続けていた。 お店は20時開店、24時閉店。 しかし、周りのお店の状況は少しずつ変化を見せ始めていた。 「アキさん、お店このままでいいんですか?」 最近、仕事のコツを掴んだユウカには、指名もよく入るようになっていた。自然と出勤日も増えていた。 「なんでこのままじゃいけないの?」 「……居酒屋とかも時短営業を始めたみたいだし、さっき歩いてたら新地のお店の半分が閉
大陸の方で変な病気が流行っているとMariちゃんからの報告を受けてからも、「クラブ・フローラ」は通常営業を続けていた。 お店は20時開店、24時閉店。 しかし、周りのお店の状況は少しずつ変化を見せ始めていた。 「アキさん、お店このままでいいんですか?」 最近、仕事のコツを掴んだユウカには、指名もよく入るようになっていた。自然と出勤日も増えていた。 「なんでこのままじゃいけないの?」
その頃ユウカたちの働いているお店では、バレンタインイベントが終わり、一息ついたところだった。 「これで年末からずっと続いていたイベントラッシュもこれで終わりですね」 「そんなことないわよ。来月はホワイトデーイベントもあるし」 「ホワイトデーイベント? 何するんですか?」 「お客さんにきてもらって、ボトル開けてもらうわよ」 「それ、いつもと同じじゃないですか。じゃあその後は?」 「そうね、4月だからお花見イベントかしら。イベントが終われば、また次のイベントがくる。同
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「これじゃあ、神様もお手上げね」 ユウカが挙げた10個の叶えたいことリストをみてアキが言った。
難波の夜。大衆焼き肉屋での夜食。 まだキャバ嬢同士のよもやま話は続いている。 「しかし、Mariちゃんのお客さんは、いいお客さんが多いよね」 「そう? でも、みんな付き合ってほしい、愛人になってほしい、とかいろいろオファーをされるけど、みんなといい距離感を保ちつつ、店に来てもらうのは結構大変よ」 Mariちゃんでも大変なんだと思ったユウカは、自分がお客さんから聞きかじった話をしてみた。
ユウカは自分のお客がどんどん面倒くさくなっていく現象について 頭を悩ませていた。 最初は自分を指名してくれるお客さんが増えていくことが 嬉しかった。 お客さんとおしゃべりすることも楽しかったし、自分のことを あけすけに何でも話すユウカには自然とお客さんがついていった。 でも、しばらくすると、そんなお客さんが、だんだんと 男としての収入や見た目などのアピールを始めてくる。 最初からキャバクラなんて、そういう場所なんだよ、と言われれば そういうものかもしれないけど どう
「ユウカさん、2番テーブルです。指名の山本さんです」 「はい、OK」 週末の「クラブ・フローラ」はお客さんでいっぱいだった。 一見の客はほとんどいなくて、ほぼ常連で埋まっている。 ユウカを指名したのは、1か月前から頻繁に来てくれるようになった40代くらいの独身のおじさんだった。
それから、ママとアキとの取り決めで島田が来る日には、お店に出ることになったユウカ。ママとしては大歓迎だったみたいで、翌日すぐに、ユウカ用のナイトドレスも用意されて渡された。 それから、ユウカを驚かせたことは島田はリナちゃんがやめた事情を知った後もユウカ目当てにお店に通ってくるようになったことだ。ママに聞いたら、島田は不動産会社を経営しているのだが、普段は社員に対して居丈高に出ている分、こういうお店ではユウカのような強気な女の子に惹かれるのだそうだ。 ユウカとしてはこれ以上
ユウカはアキに自分の地を認められたみたいで、むしろ気持ちよかった。ちゃんと自分のことを理解しても態度を変えないところに、アキの優しさがあった。 「そろそろ、もっと自分の地を出してもいいんじゃない? その方がみんな楽よ」 アキはそう言ってくれたが、ユウカは「まぁ」と愛想笑いを返すしかなかった。自分が思うように生きると、悪いことばかりが起きる。これがユウカがiいま 大人しく過ごしている理由だった。
それから、ユウカはアキに付いて週に3回、北新地のお店に行くようになった。高速に乗って芦屋から大阪に通う間は、車の中でアキとよく話をする。 「ユウカ、先週のお客の入りはどうだったの?」 「全体としては先々週とそんなに変わっていませんね。ただ月初だったからか、いつもより接待のお客様が多かったように思いますけど」 「なんでそう思うの?」 「ボトルの注文が少ないのに、全体の売り上げが変わらなかったからです。ということは、お客様の数が増えていたということですよね。やっぱり、ボト
「昔のツテでね、北新地でいま女の子を教育してるの。その手伝いをやってくれない?」 アキにそう言われたユウカは快諾した。もともと、こんな豪邸にタダで住まわせてもらっているのだ。何かお返しをしないと居心地が悪いと思っていたところだ。 お昼になるのを待って、アキの運転する車に乗って、大阪に向かうことになった。白いセダンタイプの車が颯爽と六甲の山を下る。一切飾り気のない無骨な車でも、アキが運転していると樣になる。助手席に乗っているユウカは、アキの馴れたハンドルさばきに安心して身を