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設計課題の形の作り方について

前回書いた文章は建築を学ぶ学生への講師である僕の評価の軸についてであったが、詳しく言うと形についての評価軸であったと言える。今回はまた違う方向からの形の評価についてである。

設計する建築がその場所に建つ意味についての評価である。

これが考えられる様になると建築をある場所に設計する事の意味がわかってくるかもしれない。

学生たちの作品を見ていると、建築の内側や外側についてそれなりに「格好良くしよう」と言う意識は感じる。デザインしてやろうとしているのがわかる。ただ、あくまでも外側の話や内観の話である。3Dでクルクル回しながら形を決めているのに近い。建築が物理的な形を持つのだから、当然形のカッコよさやピクチャレスクな美しさなはとても大事である。しかし建築はそれだけではダメなのである。

建築には、それが建つ敷地があり、その敷地は都市や街にある。
その土地には歴史があり、都市部に住んでいると気が付きにくいが、その地域独特の建築形式があったり、その土地の歴史がある。こう言うものを『環境ノイズ』(宮本佳明氏が提唱)と言ったり、『都市のコード』と言ったりする。
これらの要素をデザインの中に取り込みながら、時に強調し合いながら計画する事が必要である。そうしないとその場所に建つ意味が無い、もしくはその土地を無視した造形物となってしまう。
余談だが、建て売りや建物条件付きの注文住宅などの住宅ではこの視点があまり取り入れられておらず、方位のみにより設計されているケースが多い。
整形の土地であればどこにでも建てることができ、そのため個性的というよりオールマイティの量産型である。量産型であるが故にコストメリットも大きい。

土地には、周辺の環境、歴史的背景、景観など複数のコードがある。
例えば沖縄の家は石垣に囲まれて、軒が深く背が低い。これは強い風を避け日差しを遮るような構成であるが、これを踏襲したりするケースもある。
また、京都の伊根には、船屋という形式がある。海岸線にある家であるが、海抜が低く干満差が小さいので家の1階部分に船をけい留できる場所を持っている。それがずらっと並びとても美しい景色を作っている。
砺波平野では、点々とある住宅には屋敷林という強風から建物を守為の樹木を植えてある。その他にも特徴的な建築形式がある。この建築形式を持つ住宅が風景を作っている。
それ以外にもどんな土地にもリサーチをするといろいろなノイズが出てくる。このノイズを掘り出す作業で、何をピックするのかで、設計者のオリジナリティが出てくる。

旗竿状の敷地は一般的に接道などが取りづらく建築には向いていないとされて、整形の土地に比べて安く販売されていることが多い。
しかし、その形状も計画によって面白くなる。導入を長くしたり、エントランスを長くしたり、アプローチとせずに庭のように扱うと面白くなる可能性もある。
敷地形状に合わせて計画するだけで、その土地特有の建築になる。
また、同じような形の敷地でも、何が見えるのかなどから窓の大きさや形が変わる。方位が変われば、どの部屋をどの方角に向けて置くのかも変わってくる。


この様に、前回書いている形とは違う、ある場所に建つと言うことは、その土地の形や性質が、その形に反映されていくのである。
場所にものが建つと、必ず風景が変わるのである。この変化をどう考えるのか。大きく変更するのか?寄り添うようにするのか…。
コレを考える事も設計者の仕事である。

建築は小さくても場所を占める以上、その周辺に影響がある。そのことを考える必要がある。

建築の敷地リサーチとはこのノイズを集めて行く事なので、リサーチを手を抜いてしまっては建築の説得力がなかなかにできないのである。

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