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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2024年2月の記事一覧

短編:【それでも親なのだ】

公園のベンチに腰掛けていた。 小学校帰りの赤や黒、最近では茶色や水色のランドセルが元気に動き回っている。中には黄色い昔ながらの交通安全と印したピカピカの一年生もいるようだ。 先週の土曜日に、別れた妻と暮らしている、まだ幼稚園に通園する娘と会ったことで、子供の声がとても耳についた。美味しい、ちょっと贅沢な食事に連れて行き、遊園地で遊ばせても「パパとふたりは、つまんない」「パパといるより、ママといる方が好き」…悪気がないのはわかっているが、頼りない父親の愛情は受け止めてもらえな

短編:【そのものに罪はないが】

電車内の車椅子やベビーカースペースに誰かの忘れ物のような顔をして、無賃乗車を続ける不審物。その不気味な存在に一瞬ギョッとした。紙袋だ。近づいて中を覗くと、中には同じ柄の描かれたまっさらな手提げ紙袋が数枚。つまりいくつか買って来たお土産のその個数分もらった紙袋がいらなかったようで、車内に放置した模様。 過剰包装が叫ばれて以降、近年は簡素化されて来た。しかし未だお土産の文化は品物とキレイな紙袋をセットにお渡しすることは少なくない。ましてや海外からやって来た旅行者にとっては、そん

短編:【願いが叶う菱餅】

「何これ?どうしたの?」 妻が矢継ぎ早に質問を繰り出した。 「ああ…菱餅ね…」 「え、これ菱餅なの?触ってイイ?」 「鋭角な所に気をつけてね…」 分厚い書籍が並ぶ本棚のちょっと空いたスペースに、1辺10センチ程度のひし形の物体があった。 「これね、これと同じひし形の物体を5枚集めると願いが叶うんだって?」 「何そのパン屋の春の小皿プレゼントみたいなシステム…」 「パン祭りか…僕は、龍が飛び出すアニメを連想したけどね…」 「ああ、私は現実的な思考が強いからね…」 ひし形の物

短編:【なんだろうコレ?】

スマホの写真フォルダを整理しようと、過去に撮った写真を見ていた。その中にスクショした、随分前に残した地図アプリで検索した画像があって、ただ自分でもそれを残した記憶が思い出せない。住所が書いてあるので、もう一度検索をしてみる。普段さほど通らない道だし、周辺の景色を見ても単なる何の変哲もない住宅街のようだ。 「なんでココ調べたんだろう?」 画像情報を見ると、金曜日の23時42分。 「この時間は、まだ帰宅途中かな…」 たしかその頃は仕事が溜まっていて、遅くまで会社で仕事をしていて