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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2022年12月の記事一覧

短編:【正月気分】

正月はずるい。おまけが付いている。 正月とは一月一日のことで、本来その一日だけの祝い事だったはず。なのに二日も三日も一緒で正月三が日と呼ばれ、誰もが休みだと思っている。さらには七草がゆなどの行事もあり、だからみんな正月だけ特別扱いをする。 私は近所ではまあまあ大きめのスーパーでレジ係をしている。最近では「初売り」というものもあり、近隣のお店でも元旦から、遅くても二日から仕事が始まっている。 正月気分などあったモノではない。 私も二日からの出勤。 本日の特売品は「新春にぎ

【ブタ蚊取り】

私は、そのブタの形状をした瀬戸物を、本来の使い方で使用したことが無い。何となしに可愛らしく古風な容姿から置物として、リビングの何だか目に付く場所に飾っていた。 都内で暮らしていると、近所に対し気を使い、無煙無臭で、人にも虫にも優しい暮らしを心がけるようになる。いつの頃からだろう、最近ではこういった薬品の類はあまり使わなくなっていた。 「山崎さん…辞めるそうよ」 昼食前。この後何を食べようかと思考している、平和な時間に突如飛び込んで来た、何とも驚きのニュース。オフィスの喧騒の

短編:【コインロッカーに愛を】

「ちょっと、そこに荷物預けて来る」 久しぶりに何の宿題も無い休日だったので、朝からグルグル回って買い物を楽しんでいる。そう言って友人の真由美は、いくつもの大きな手提げ袋を持っていた。 「真由美、随分と羽振りがいいんじゃない?」 「そりゃあそうよ!朝の8時に出社して、夕方5時まで働いて、そんな定時定時で終わるはずもなく、残業残業の毎日。それに土日だって宿題がたんまりあってさ…」 だから新しい彼氏もできない…それが真由美の言い分だった。 真由美は、広告代理店の営業職をしている。

短編:【木の上の猫】

昨夜の雨も上がり、久々に日向であれば薄手のコートでも充分暖かく感じる、ある冬の昼下がり。たまたま入ったお店の、本日のランチが大正解で、満腹感プラスアルファーの満足感の中、公園の木々の間を歩いていた。 「あの~、あの、すいません…」 どこからともなく、中年男性の声がする。 自分の右手の方から聞こえた気もするし、後方からの気もする。 気のせいか?誰もいない。 「ちょっと、そこの旦那さん…」 やっぱり聞こえる。周りには人影はない。気味が悪い。それに私はまだまだヤングで、旦那と呼ば

【音が鳴るモノなりけり】

<登場人物> 卓也:多感な年頃の小学校低学年生 卓也の母:子供の成長を楽しむ主婦 卓也の父:人生に失敗し、空回りする男 上村:反社組織に片足を突っ込む半端者 その他:卓也父の浮気相手、警察官、学校の皆さん、謎の外国人… 01_1・夕方。職質を受ける男性(上村)と、それを囲む2人の警察官。   警察官A:「もう一度伺いますが…これ…なんですか?」   上村:「えっと…何ですかね…」   警察官B:「これは、アナタのモノではないんですか?」   上村:「えっと…私のですね…」

【カレーの日】

街角で思いっきり殴られた夜、無性にカレーの気分になっていた。23時を少し回っていたが、24時間営業のチェーン店ならやっているだろう。 とはいえ、思いっきり殴られたせいで、右目の上は大きく腫れていて、左頬には紫のアザがくっきり出ている。見た目ではわからないが、口の中も切れているようで、微かに鉄分の味がする。 「こんな姿で、また街を歩くのは…」 …流石に気が引けた。一旦、シャワーを浴びて、血の飛び散った洋服を着替えてから考えることにしよう。 なぜ殴られたのか。 …ただ歩いていた