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★【作者と読者のお気に入り】★

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◉たくさんのビューとスキを頂いた作品と、個人的に好きなモノだけをギュッとまとめてお届け!30作品程度で入れ替えしながらご紹介。皆様のスキが集まりますように(笑)お気に入りの玉手箱!
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#ほろ酔い文学

短編:【花の教え】

「最近の桜って花びら白いよね…」 彼女はそういう敏感な感性を持っていた。 「白い?」 僕には、桜の花びらがピンクに見えていた。いや、そう思い込んでいたのかも知れない。周りを見渡すと、至るところで花吹雪が舞っている。 僕には20年間、彼女がいない。奥手というか、人付き合いが苦手というか。大学に進み、同じゼミを専攻した彼女と出会った。 「もちろん品種によっても違うだろうけど…昔の花吹雪ってもっとピンク色だったと思わない?」 「ああ、そう…かもね…」 話を合わせてみる。 「自

【カレーの日】

街角で思いっきり殴られた夜、無性にカレーの気分になっていた。23時を少し回っていたが、24時間営業のチェーン店ならやっているだろう。 とはいえ、思いっきり殴られたせいで、右目の上は大きく腫れていて、左頬には紫のアザがくっきり出ている。見た目ではわからないが、口の中も切れているようで、微かに鉄分の味がする。 「こんな姿で、また街を歩くのは…」 …流石に気が引けた。一旦、シャワーを浴びて、血の飛び散った洋服を着替えてから考えることにしよう。 なぜ殴られたのか。 …ただ歩いていた

【その光が落ちたなら】

儚ければ儚いほど、その雅な輝きは美しい。 季節の終わり、ひとつの終止符。 線香花火という風物詩は、火薬の量が多ければ、広く火花を広げるが、その反面、その重量で核となる火の軸が大きくなりすぎて、すぐに落ちてしまう。そして細く巻かれた先端から、徐々に太い部分に達し、一番華やかな光を放っている時こそが、最もその火の軸がポツンと切れやすく、それはまるで人の生き方や人気職業にも似た危うさに酷似している。 そう儚く感じてしまうからこそ、夏の夜の線香花火は美しい… 「バブル時代の恩恵なん