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我が演芸オールタイムBEST100

はじめに

自分が「誇れる事」って何だろう、と考える。

金は無いし、先の見えない非正規だし、恋愛経験皆無の童貞だし、性格に欠陥があるしと、一般的な三十代の中でも、かなり拗らせた不器用な人生を送っていると自負している今日この頃ではあるが、そんな人生でも唯一つ誇れるというか自信を持っている事がある。

「見てきた、聞いてきた、語れる演芸の量」である。

人に生まれて三十三年。何の因果か演芸の魅力に頭のテッペンまでどっぷりと浸かってしまい、気がつけば、この有り様である。

誰からも言われないから、自分で言うしかないのだが、世間一般でいう「お笑いファン」という括りに括られるにしては、守備範囲が広くないかと自惚れている。

お笑いファン=若手芸人のネタが好き。逆に言うと、若手のネタしか知らないというイメージが普通だと思うが、自分の場合は若手だろうとベテランだろうと、時代が新しかろうと古かろうと、そんな事は一切お構い無し。
漫才、コント、ピン芸は勿論、巧いのからバカバカしすぎる諸芸、落語、講談、浪曲などいわゆる「古典芸能」と括られる分野まで、要は面白くて、楽しくて、自分の琴線に少しでも触れる芸であれば、何でも吸収したくなってしまう性分なのである。

そんな人生において、未だに思い出すほど強く心に残っている演者とネタを、簡単な解説みたいな物を付けて羅列して、自分だけの演芸オールタイムベスト100を作ってみようというのが、今回のテーマである。

演芸を好きになって三十三年間、自分はどれだけの芸を見て、どれほど楽しみ、どんな事を感じてきたのか。
何よりはたして、100本も上げる事ができるのか、検証してみたい。

なお、これから書く事に関しては、資料は一切見ず、自分の頭の中にある記憶だけを頼りに書き進めていくので、記憶違いも絶対に発生すると思う。その辺は容赦願いたい。
また、これから上げる順番は若干の思惑が作用している部分もあるが、基本的に思いついた順に書き連ねていくので、そこに優劣といった物は一切無いという事も理解していただきたい。

では、しばらくお付き合いのほどを。


1~10

1.桂枝雀 落語「代書」
あらゆるネタのジャンルを見てきて、「人生で一番笑った演芸は何か?」と問われたら、問答無用でこれを挙げる。
枝雀ワールド全開の一席。
「世の中にこんな面白い物があったのか」と見終わった後、あまりのショックにしばらくその場を動けなかった。
この芸を超える破壊力のある演芸を自分は知らない。
「これを超える笑いに巡り会いたい」と思っているからこそ、自分はこうして未だに演芸を好きでいられるんだと思う。

2.ラーメンズ コント「現代片桐概論」
このコントに巡り会ってしまったお陰で、「コント」という芸に対する価値観がひっくり返ってしまった。
いかにも大学の教授のような風貌の小林賢太郎が、「標本用片桐仁」を横に置き、片桐仁の生態・歴史についての講義を展開してゆく。
ボケ・ツッコミの概念が存在しない、描かれる世界観その物がギャグになっている構造の斬新さは、まさしく「雷に撃たれた」が如き衝撃を受けた。
未だに雨上がりの道端を歩いていると、片桐の死骸を探してしまう。

3.東京ダイナマイト コント「ボケとエクササイズ」
間違いなく、人生で1番爆笑したコント。
昔、深夜にやっていた『登竜門F』というネタ番組で披露されたのをリアルタイムで見て、深夜にも関わらず呼吸困難になるほど大爆笑して、寝ていた親に怒られたのも、今となっては良い思い出である。
センス、バカバカしさ、テンポ、選曲。どの要素も文句無しの破壊力。
このネタで「平家物語」の序文を覚えたお笑い好きも多いはず。

4.タカアンドトシ 漫才「名前を略す/モノマネ」
初めて見たのが、2004年の『オンエアバトル爆笑編』(NHK)。521KBで、その週のトップ合格。
おそらく、この時に初めてタカトシの漫才を見たと思う。いやはや、その漫才の面白いのなんのって。
何度も何度も録画したテープを擦り切れるくらいに見返し続けて、気づけば一言一句暗唱できるようになってしまった。
おそらく今でも暗唱できると思う。

5.鼻エンジン 漫才「ショートコント」
元・フォークダンスDE成子坂にして伝説の芸人・村田渚が組んでいた、図らずも最後のコンビ。
漫才の設定で「台本通りにショートコントをやってみよう」という発想が、実に斬新。
自分はこの漫才からツッコミの熱量の上げ方の妙、伏線の面白さ、間を学んだ。
村田渚は「こんなツッコミを自分もできるようになりたい」と憧れさせてくれた、最初で、今のところ最後の芸人。

6.ブラックマヨネーズ 漫才「ボーリング」
M-1グランプリ2005で披露された漫才。
漫才を見て、鳥肌が立った瞬間というのが人生で2回だけある。その1回目がこの漫才。
小杉・吉田2人の個性が、がっぷり四つに組み合って、凄まじい力強さでぶつかり合いまくる漫才に、爆笑しながら体の中を得も言われぬ感情が物凄いスピードで循環していく感覚を味わった。
一切入り込む隙の無い、ブラックマヨネーズ二人だけの世界。

7.パンクブーブー 漫才「コンビニで犯罪に巻き込まれる」
漫才を見て、鳥肌が立った瞬間の2度目がやってきたのが、この5年後のM-1グランプリ2010。
前回王者が敗者復活戦から上がってきて、この漫才を実に見事に颯爽を披露した時は本当に度肝を抜いた。
話芸の真骨頂。
話題が有無を言わさずどんどん展開されながら、次々に見る側の予想を見事に裏切ってゆく、その無駄のない構成力の凄まじさに圧倒された。

8.街裏ぴんく 漫談「石川啄木」
芸人の芸を見て「雷に撃たれる」ような衝撃を受けたのは、本当に久しぶりの感覚だった。
この漫談家が売れる事で、日本の芸界のレベルは間違いなく10年は先に進む。その位のセンスと技巧を持った天才。
4分ほどの漫談だが、唯一無二のセンスが凝縮に凝縮されまくった傑作。
有り得なさすぎて、頭に絵が浮かぶ事も拒絶してしまいそうなくらいの異次元の設定なのに、彼の生々しい語り口や息遣いで話を聞いていると、いつの間にか頭の中に「プールの底で、変顔で茶化す石川啄木」の姿が浮かんでくる不思議。

9.三代目 三遊亭圓歌 落語「中沢家の人々」
問答無用に漫談系落語の最高峰。
おそらく今後もその座が揺らぐ事がないであろう傑作。
圓歌師の、自身が落語家になるまでの道のりと、落語家になってからの生活を毒舌を織り交ぜながら語ってゆくが、とにかく全編切れ味・テンポが最高。
そして、何が凄いって、何度聞いても飽きずに笑える。
フルで演じられると1時間超えの超大作なのに、時間の経過を微塵も感じさせないほどの爆笑の連続。
「凄すぎる」の一言に尽きる。

10.シャンプーハット 漫才「スーパーマリコ様」
もう、ずっと、ずっとバカ。
最初から最後まで「バカ」が振り切れてる。
全裸の中年女性がスーパーマリオの世界で縦横無尽に暴れ狂う様は、バカバカしさと狂気が入り混じる混沌。問答無用のカタルシス。
「笑いの金メダル」で何気なさらっと披露され、リアルタイムでこの漫才を見ていて、呼吸困難になるくらい笑わせられた。

11~20

11.チョップリン コント「ニューヨーカー」
現在はザ・プラン9のメンバーとして活躍。
シュールで、気色の悪い世界観を淡々と紡いでいく唯一無二の存在感のあるコンビ。
「外国人に翻弄される」というシチュエーションは古典的なコメディの設定だが、このコンビが想像した「外国人」像は、常人が100年考えても到達できない。
その斬新過ぎるぶっ飛んだキャラクター造形を初めて見た時はひっくり返った。
前衛的なキャラと、大阪のコント師らしい濃い掛け合いのアンバランスさが味わい深い。

12.大輪教授 漫談「素因数分解」
勉強と笑いを組み合わせる演芸の形は過去幾度とあったが、「数学」と笑いを組み合わせた芸で、しかもそれを専科にしていたのは、この芸人だけ。
眼鏡に、もじゃもじゃ頭。ヨレヨレの白衣を着て、ホワイトボードの前で数学を用いたその「講義」の如き漫談は、インテリジェンスと笑いが鮮やかに同居していた。
特に「素因数分解」のネタは、完成度の高さの中にも、粗さ・バカバカしさが入り混じり、独特な存在感を放っていた。
ドラえもん=「未来」から来た「コンピューター」内蔵の「芸術的」な「ゴミ」

13.タイムマシーン3号 コント「エレベーター」
「爆笑オンエアバトル」の申し子にして、現在はロケの名バイプレーヤーとして頭角を現してきた昨今の売れ方が本当に嬉しくて堪らない。
M-1グランプリの決勝に残るほどの漫才の名手であるコンビだが、同じくキングオブコント決勝にも名を連ねるほどコントも抜群に巧くて、面白い。
中でも傑作だと思うのが、「エレベーター」のコント。
エレベーターに閉じ込められるという緊迫感に、どんどん予想外な方向に発展してゆく展開のワクワク感が拍車をかけて、生粋のコント師のコントには出せない、漫才師だからこそのコントの旨味が容赦なく翻弄させてくれる。
面白くない訳がない。

14.鬼ヶ島 コント「即身仏」
シュールと狂気が交錯する学園コントを主とするトリオ。
中でも、このコントを初めて見た時は度肝を抜いた。
設定がぶっ飛んでいながらも、小ネタ1つ1つがしっかりと作りこまれていて、なおかつずっと「バカ」が振り切れていて、切れ味がとんでもない。
後半の予想外な展開からの、ドラマティックな結末は、やりたい放題かつ圧巻。
この3人にはジジイになっても、学生服を着てイカれた学園コントをやっていて欲しい。

15.ザ・ギース コント「歩行者教習所」
新進気鋭のコント師として水星の如く現れた二人も今や立派なベテランコント師に。
だが、今も予想外な進化を遂げ続けている様を見届けられる事が、とても楽しい。
「爆笑オンエアバトル」2度目の挑戦で披露したコント。その回のトップ得点485KBを獲得した。
シュールな空気感で、説得力と厚みのある設定とストーリー展開が素晴らしい。とにかく、洒脱。
自分はこのコントを見て、「ムーンウォークができるようになりたい」と思い立ち、独学で習得した。
自分にとって「ムーンウォーク」といえば、MJではなく、ザ・ギース高佐。

16.マヂカルラブリー 漫才「村の秘密を知ってしまったために、村人に十字架に磔にされ、竹槍で突かれそうになった時の対処法」
こんな漫才、聞いた事が無い。
今のマヂラブはM-1・R-1王者の風格で威風堂々としているが、最初に出てきた時の怪しさ・不気味さは強烈だった。「何だこいつらは」の一言に尽きた。
今思い返しても、この発想でよく漫才を作ろうと思ったし、よくぞまとめきったもんだと感心する。
「わー!お前より悪い奴いるけど、死ねぇー!!」の台詞が強烈。

17.にのうらご 漫才「バスの事故」
漫才コンビ・モンスターエンジンの前身となるトリオ。モンスターエンジンのならではのアクのある芸風とは、また一線を画した存在感のある漫才が好きだった。
「人間、事故に逢った瞬間スローモーションになり、今までの人生が走馬灯のように蘇るという。もし複数人が乗っているバスが事故った際、乗っている人達全員もスローモーションになるのか」という漫才だが、その設定の着眼点の斬新さに、当時舌を巻いた。
舞台を広く使いながら、ドタバタ感とシュールが入り混じる展開が面白かった。

18.さくらんぼブービー ショートコント
歴代最高峰のショートコント師だと思っている。言い過ぎだろうか。でも、それくらい笑わせてもらった。
お決まりの「鍛冶くんじゃない?」から始まり、少年マンガのナンセンスなギャグ漫画みたいなショートコントに、奇声をあげる意味不明なブリッジ。何もかもが異質。でも、それがハチャメチャに面白い。
『笑いの金メダル』で初めて見た時、親から心配されるほど、のたうち回りながら爆笑した。
「やる気0スーパーマリオ」「カリブの海賊ヤンキー編」「超過激オリンピック」は後世に残る傑作。

19.イシバシハザマ ショートコント「おかしな話」
コントの内容は勿論、ショートコントの「スタイル」その物から全く新しい物を作り上げる芸風は、実に画期的だった。
「六分咲き劇場」「シャバダバ劇場」「まさかでショートコント」と色々な形を生み出してきたが、やはりこのコンビと言えば「おかしな話」に尽きる。
こんな形のショートコントは、今まで見た事がなかった。
丁々発止のテンポに翻弄される心地よさも、ここのコンビならでは。

20.モグライダー 漫才「玉置浩二もっとご飯食べて」
2021年に色々と見てきた演芸の中で、ダントツで1番笑った傑作。
設定の突拍子の無さも大好きだし、設定を提案したボケがツッコミが徹底的に翻弄するパターンかと思いきや、ボケ・ツッコミが共に設定に翻弄される混沌っぷりが見事。
縦横無尽に「ドタバタ」が詰まっている。
いちいち「♪トゥントゥントゥントゥントゥントゥトゥ~ン」と前奏からやり直すのも好き。

21~30

21.柳家喜多八 落語「小言念仏」
「清く、気怠く、美しく」をモットーに、芸道を見事に駆け抜けた「柳ノ宮殿下」。
アンニュイな感じでボヤくマクラがめちゃくちゃ楽しくて面白くて、本編に入るとそこから一変する熱量の凄まじさに、揺さぶられる時間が最高に心地良かった。
「らくだ」「居残り佐平次」のような大ネタの圧倒的な説得力も素晴らしいが、自分はどちらかと言えば10~15分のいわゆる「寄席サイズ」の短い噺の爆発力が好きだった。その最高峰がこの噺。
あらすじだけ見ると、もの凄く単調な噺なはずなのに、その縦横無尽なテンションの緩急に振り回される楽しさ。
師である柳家小三治の十八番だが、この噺に関しては師匠を超えている。

22.国本武春 浪曲「ザ・忠臣蔵」
「浪曲」に対する凝りに凝り固まった既成概念を、鮮やかにぶっ壊した「希代の天才」。
まだ「浪曲」という芸能が何なのか全く分からない時分に、この人が颯爽とテレビの画面に現れた。
ギターを操るが如き超絶テクニックで三味線を操り、さらにシンセサイザーまで使って、ロック、ブギ、ブルーグラスといった洋楽の要素を織り交ぜ唸る、新境地へと昇華させた別れと忠義の物語に、大いに笑って、ほろりと泣かされた。
「浪曲」という文化を知る入口がこの人で本当に良かった。

23.プラスマイナス(現プラス・マイナス) 漫才「ペットを飼うために親を説得」
「爆笑オンエアバトル」の、確か静岡大会でトップ合格した漫才。
オンバトあるあるで、地方大会というのは点数がどうしてもインフレを起こしてしまうのが通例なのだが、そのハンデを差し引いてもこの時のプラスマイナスの漫才の力強さはえげつなかった。
息もつかせぬ容赦の無いパワー漫才。
点数は541KB。パーフェクトまであとボール1個だった。

24.空気階段 コント「火事」
キングオブコント2021優勝。
登場人物2人はボケてもいないし、ましてやツッコんでもいない。
ただ、目の前に巻き起こる絶体絶命の状況下からいかに脱出するかを模索して、果敢に行動しているだけ。
2人が懸命に生きようと、果敢に命を繋げようとすればするほど、その見た目の情けなさが際立ち、爆笑が膨らんでゆく。そのジレンマの哀愁。

25.トム・ブラウン 漫才「ナカジマックス」
M-1グランプリ2018の予選をネットで見届けていたが、最初から最後までずっと地鳴りのような爆笑を量産する様は、「仁王」が如き迫力があった。
ツカミから展開からオチまで、何もかもがずっと規格外な狂気の「合体漫才」。
合体がどんどん加速してゆく度に、会場の空気が爆笑の坩堝にどんどん飲み込まれてゆく様は、ずっと狂気じみてて異様だったが、同時に爽快感すら感じる。
ツッコミの「ダメー!」がフューチャーされる事が多いが、個人的にツカミの「キャー!!」「集中!!」、最後の「ヤッター!!!」がとても好き。
前2個はまだ分かるとして、最後は念願の合体が成功して喜んでるのに、なぜか全力で頭をどつく。
訳が分からない。最高。

26.グランジ コント「僧コン」
吉本所属の、漫才もコントに器用にこなすトリオ。
他のネタでも確実に笑いを獲得していく実力派だが、脳裏に強烈に焼き付いているのが、このコント。
「お坊さん」「寺」のあるあるを、上手く「合コン」という陽のシチュエーションに挟みいれるセンス。下手すれば不謹慎にもなりかねない際どいラインを攻めてくる感じが堪らない。
僧2人の淡々としながらも、次第にテンションが上昇していく様の描写も良い。
そして終盤の「山手線ゲーム」での、えげつない畳み掛けは、何度見ても力強くて、ハチャメチャにバカバカしい。

27.四代目春風亭柳好 落語「牛ほめ」
春風亭柳好といえば三代目。三代目が「メジャー」だとすれば、四代目は「マイナー」という位置になってしまっている通例となっている。
いやはや、とんでもない名人である。
与太郎物を得意とするが、決して与太郎をただのバカとして描いていない。
淡々とした穏やかな口調で紡ぎだされる、脱力系の笑いと間のセンスに初めて聞いた瞬間、一目惚れした。
落語の「美学」を優先するなら三代目だが、「笑い」を優先するならば断然四代目である。

28.我人祥太 コント「オスタヌキの自殺」
今でもふと「この人が今も芸人でいてくれてたら、どうなってたんだろう」と思う時がある。
「陰気」「憂鬱」といったネガティブな要素を、鮮やかに笑いへと調理するセンスは天才的だった。
衝撃的なコントだった。
陰気で社会派な様相を呈しながら、狸あるあるや盲点が絶妙なセンスで組み込まれた悲喜劇の傑作。

29.勝又 コント「餅つき」
独特でシュールな芸風が持ち味だった兄弟コンビ。
シュールながら、雑でいい加減な要素も併せ持っていて、常に気になる存在感を放っていた。
漫才にも転換できる代表作「遊び」をのべつ幕無しにやっていたイメージが強いが、常連として挑戦していた「オンバト+」では色の違うセンスの光るコントを複数演じていた。
「餅つき」もそんな中の1本
基本「よいしょ!」の掛け声だけが響くシンプルな構造だが、段々と雑なズレが生じてきて、そのバカバカしさとシュールな処理の仕方が彼らならではの可笑しみがあった。
ずっと見ていたくなる不思議な心地よさのあるコント。

30.レッドブルつばさ(現・谷口つばさ) コント「明日好きな人が結婚する」
このコントを見終わった後、「才能ある良いコント師に巡り会えた」と心の底からそう思えた。
純粋が故の狂気。純粋が故の生きづらさ。純粋が故の受難。
彼の描くコントには、悪人は出てこない。
とにかく脚本が秀逸。4分半ほどのネタ時間だが、発射と着地が同じで、ここまで物語の色を変えられるのかと、そのギミックの凄さに打ちひしがれた。
純粋と狂気をスマートに、それでいて正面から描ける才能に、今後が楽しみで仕方がない。

31~40

31.錦鯉 漫才「ニュースキャスターになりたい」
2015年のM-1グランプリ予選で見た時の、その新鮮な破壊力が強烈にインパクトに残った。
2人とも前のコンビの時から見ていただけに、その思い入れも重なって、笑いながら「あの2人がコンビを組んで、こんなに面白い漫才になったのか」と感慨深い心持ちになった。
強烈な大ボケに、冷静かつ大胆なツッコミのシンプルな構造。
「バカ」を全面に扱った漫才で、ここまで違和感なく楽しめる漫才に出会えたのはこのコンビがひょっとしたら初めてかもしれない。

32.メイプル超合金 漫才「ペット」
YouTubeで所属事務所であるサンミュージックのライブでのネタ動画を見てその存在を知ったのが、確か2014年頃。
その翌年にM-1が復活し、あれよあれよという間に決勝に残り、あっという間にスターダムに登り詰めていってしまった。
カズレーザーが思いついた事をマイペースに言い放って、それに安藤なつが強めにツッコむ。
センスがあって、しかも自由奔放な漫才は問答無用に強い。

33.三拍子 漫才「子供を寝かしつける」
見始めて20年近く経とうとしているが、ずっと安定して安心して笑っていられる漫才。
外している所を一度も見た事が無い。
油断してたら、容赦ない方向からギャグが飛んでくるドキドキ感が、初めて見てから未だに色褪せない。
傑作漫才が多い中で、1番印象的な漫才がこれ。
『美味しんぼ』の使い方が、秀逸すぎる。

34.イワイガワ コント「殺人事件の現場」
久しくネタを見れていないが、一時期、自分の中で「1番好きなコント師」だった。
岩井ジョニ男の強烈なキャラクターと終始そのキャラに翻弄される流れに目がどうしても行きがちだが、実は伏線といったギミックの妙が光る秀逸な台本のコントを幾つも持ち合わせている。
自分はこのコンビのコントから、「間と余韻を面白がれる」楽しさを知った。
フリスビーを使った大オチの切れ味が鮮やか過ぎる。

35.カンカラ コント「石松組にさらわれた姐さん」
天下御免の「時代劇コント」。
3人で活動するようになって大分久しいが、やっぱり自分の中でカンカラといえば5人。
剣劇アクションあり、音響あり、バカバカしい小ネタあり。とにかく笑える物なら何でも徹底的に放り込んだ理屈抜きに楽しいドタバタ時代劇コント。古き良き剣劇コントの面白さを伝え続けている最後の砦のようなグループ。

36.とろサーモン コント「日本語学校」
いまやすっかりM-1チャンピオンにして、「お笑い界のダークヒーロー」と化しているが、コントも衝撃的でべらぼうに面白い。
「爆笑オンエアバトル」の第8回チャンピオン大会のセミファイナルでこのコントが披露されたが、その強烈すぎるシュールさに、ド深夜帯という放送時間と「大事な舞台で、なんてネタかけてんだ」という呆れが複合的に組み合わさって、腹がよじれるほど爆笑した。
結果は散々だったのは言うまでもないが、自分の中ではダントツで1番面白かった。

37.底ぬけAIR-LINE ショートコント「あてぶりショー」
芸人にして、希代の音楽プロデューサー・古坂大魔王が所属していたお笑いグループ。
リアルタイムでネタを見るのには間に合っておらず、YouTubeで何気なく見つけた20数年前に披露していたネタ動画を見て、その斬新さに衝撃が走った。
今もたまに見返す事もあるが、それでも未だに「新しい」と思えてしまう凄さ。当時としても相当に画期的なネタだったのではと思う。

38.天竺鼠 コント「寿司」
「奇才」である。
キングオブコント2013。初年度以来の決勝進出で期待値もかなり上がり、「さぁどんなコントを見せてくれるか」と蓋を開けてみたら、この衝撃的なコントである。
あの大舞台でこのネタをかけてくる了見と、支離滅裂に見えて、ストーリー展開が整備されている丁寧さのギャップに終始心を奪われた。
因みに、使用されている楽曲はルーマニア出身の女性シンガーソングライター、アレクサンドラ・スタンの『Mr. Saxobeat』。

39.鎌鼬(現・かまいたち) コント「中国人の家庭教師」
山内扮する中国人チャン・ドン・ゴン・ゲンがやりたい放題に暴れ倒しているものの、どこか飄々と、淡々としている様は今までに見た事のない異様な存在感を放っていた。
映画『プロジェクトA』のテーマで颯爽と現れ、唐突に銅鑼を叩き、濱家から金をせびるなど、ずっと「やりたい放題」。やっている事がずっと強烈なのに、不思議とどこか「ほのぼの」とした空気感もある。
「何を成し遂げてくれるのか楽しみな人達が出てきた」と漠然とその当時は思っていたが、まさか後にこんなにも鮮やかに天下を取るコンビになるなんて想像もしていなかった。

40.バカリズム コント「ラジオ挫折」
ピン芸として数多くの名作傑作が数多くあるが、自分が「バカリズム」で1番最初に思い付くネタは、コンビ時代のこの問題作。
ラジオ体操のあの爽やかなフォーマットに乗せながら、人生の堕落を淡々と描き上げるシュールな発想と底意地の悪さ。
際どい描写も遠慮なく書ききるその容赦の無さも見事。
ギラギラに黒光りしていたそのセンスは「新感覚」以外の何物でもなかった。

41~50

41.飛石連休 漫才「天使と悪魔」
サンミュージック所属の実力派ベテラン漫才コンビ。
今まで数多の漫才師が何千回とこの話題を取り扱ってきたと思うが、個人的に「天使と悪魔」漫才の最高峰だと思っている。
終始突き抜けてたバカバカしさがあるだけでも十分面白いのに、そこから派生した畳み掛けや天丼といったテクニックが容赦なく加わり、えげつない爆笑編となっていた。

42.ハリウッドザコシショウ 「ものまね100連発」
ネタを見て「面白くて笑う」というのは当たり前だが、その段階を通り越して、ネタで「もうやめてくれ!」というほど笑わせてくれる、芸人の中でもここまでの存在は今この人しかいないのではないだろうか。
徹底的な泥臭さと男臭さを漂わせ、マニアックだろうと、支離滅裂だろうと、えげつない力業を次々に放り込んでゆく唯一無二のストロングスタイル。
「モノマネ」を超越したモノマネ。

43.ランジャタイ 漫才「T.Nゴン Nの秘密」
初めて見た時のその天衣無縫っぷりは衝撃以外の何物でも無かった。
漫才の醍醐味である「ボケとツッコミの掛け合い」を徹底的に排除して、己のセンスだけで空気を巻き込む姿に新しい漫才の形を見た。
現在はグレープカンパニー所属だが、以前はオフィス北野に所属し、オフィス北野所属最後の事務所ライブで披露したのがこの漫才。
ランジャタイ流のオフィス北野への「贈る言葉」。
ランジャタイは7分以上やらせても、べらぼうに頭がおかしくて面白い。

44.ゼンモンキー コント「KALDI強盗」
ワタナベエンターテインメント所属、まだ結成3年目の新進気鋭のトリオ。
「強盗」というベタな設定に、「KALDI」というシチュエーションが組み合わさるだけで、ここまで面白くなるのかと衝撃を受けた。
見た目の存在感もキャラクターもバラバラなのだが、三者三様のキャラが渋滞する事なく、しっかり嚙み合いながら笑いを膨らませてゆく構成の丁寧さと堂々とした大胆さが見事。
将来が有望すぎる。

45.スーパーニュウニュウ コント「合格発表」
「バカ」が突き抜けたコントが好きだ。
現役の芸人の中でも、ここまで突き抜けたバカバカしさを体現できるコンビはそうそういない。
さらに、そこへシュールやマニアックが入り混じり、混沌を極める。
このネタも元ネタを知らないと「?」なコントではあるが、知った上で見ると腹がよじれるくらいに楽しい。
「どこの、何を取り上げてんだ!」と言う感覚が最高。

46.金属バット 漫才「プリクラ」
確か2016年のM-1グランプリの準々決勝で披露していたかと思う漫才。
「ラジコン」や「漁師」のネタもそうだが、シュールであり得ないシチュエーションを、コントに入るでなく、話術の掛け合いだけで絵を浮かび上がらせるテクニックは本当に卓越している。
二人とも人を食ったような態度で、終始飄々としているように見えて、実はとんでもなく高度な事をさらっとやってのけている様が面白いだけでなく、独特なダンディズムを感じさせる。
余韻もへったくれもない唐突すぎるオチも堪らなく良い。

47.デルマパンゲ 漫才「4」
初めて見た時のその感覚の衝撃たるや。
キツめの博多弁で展開される泥臭いやり取りと、聞いている内に段々と思考停止に追い込まれていくかのようなシュールさの、今まで味わった事のないアンバランスさが斬新だった。
数字に対する解釈がずっと意味不明すぎるのに、終盤辺りで不思議と若干納得してしまったような気にされてしまう説得力の怖さ。

48.笑福亭笑瓶 落語「ある日の六代目」
今から10年ほど前、札幌で開かれた「枝光・雀々・笑瓶三人会」へ出向き、聞いた一席。
久しぶりの地方という事で本人曰くテンションも上がり、「大サービス」として座布団の上に立ってフリートークという形でマクラを振った。
ガンガンに会場を湧かし、入った本題は大師匠である六代目笑福亭松鶴との逸話をベースにした「私落語」。
実体験だからこその興奮度のリアリティ、何よりイキイキと楽しく落語を楽しみながら演じていた笑瓶師の姿が今も鮮明に脳裏に焼き付いている。

49.桂雀々 落語「蝦蟇の油」
同じく「枝光・雀々・笑瓶三人会」で聞いた一席。
「蝦蟇の油」本題自体は単純明快な噺なはずなのに、雀々師がこの噺に向かってぶつけてくる過剰なまでの熱量のえげつなさに痺れた。
「え、この噺ってこんなに面白かったっけ?」と思う程の大爆笑大熱演。
次の出番の枝光師が高座に上がり、苦笑いしながら汗まみれの見台を拭いていた姿も印象的だった。

50.野性爆弾 コント「見なはれ!あれが軍事基地でっせ!」
2007年だかの「オールザッツ漫才」で披露していたネタをネットで見た記憶。初めて見るその支離滅裂な「爆弾コント」に衝撃を受けた。
野性爆弾を評する言葉を選ぶとすれば「無秩序」という一言に尽きる。
発想・構成、コントを形作っている、ありとあらゆる要素の全てが常識を超越してしまっている。
「やりたい放題」を体現する一方、大衆に迎合せず自分達が面白いと思う事を全身全霊でぶつけている様は、めちゃくちゃカッコよかった。

51~60

51.ナオユキ 漫談
会場の空気に身を任せ、揺蕩いながら、唄い調子で酒場の風景、酔っ払い達の生き様を語り紡いでゆく芸は、まさしく孤高。
同じ話・同じ登場人物でも、その会場、観客の空気や間合いが変わる事で、知らなかった新しい一面が垣間見える。
容赦なく切り捨てているように見えて、情景をスケッチする目線はどこか柔らかくて暖かい。
鋭さと優しさを持ち合わせている人柄だからこそ成り立っている芸である事を、本人に実際に会ってやり取りして如実に実感した。

52.宮田陽・昇 漫才
東京の常設寄席を主戦場とする漫才師の中で、個人的に「現役最高峰」だと思っている。
生で初めて見た時のその爆発力の凄さ。「笑いで会場が揺れる」とは、まさしくあの事。
もう何度も聞いているはずなのに、それでも待ち遠しくなる楽しい件からの、世の中のタイムリーな話題を巧みに茶化しまくるやり取りの圧倒的なセンス。
2人の漫才を見ていると、「変わらずに変わり続けていく」事の凄さ、難しさ、尊さをひしひしと感じる。

53.笑福亭鶴瓶 落語「青木先生」
2019年5月に初めて開催された「さっぽろ落語まつり」での一席。
会場にけたたましく鳴る出囃子に乗って颯爽と現れ、高座に座るかと思いきや、高座の前に立ったままでのフリートーク。
そこには、いつもテレビで見ている笑福亭鶴瓶、「べー師匠」がそこに居た。
圧倒的破壊力の「鶴瓶噺」で盛り上げまくり熱気が最高潮に達したその刹那、「落語やるわ」と言い残し一旦捌けて、再び出囃子が流れる中、高座へ。
その姿があまりにもカッコよすぎた。
本題に入ってからも爆笑の連続。実体験を元にした鶴瓶師だからこそ語れる「私落語」。一挙一動が爆笑を生み出す、まさしく「無双状態」。
あの高座を見届ける事が出来た事は、自分の生涯の誇りである。

54.神田松之丞(現・六代目 神田伯山) 講談「天保水滸伝 ボロ忠売り出し」
2017年1月に行った「札幌成金」での一席。
演芸写真家・橘蓮二氏の写真集『夢になるといけねぇ』(河出書房)での松之丞さんの項で、この話の一節が取り上げられていて、「いつか生で聞いてみたい」と思いながら迎えた初めての松之丞体験で、いきなり遭遇した。
この日ほど「演芸の神様は存在する」と心底思った日は無い。
「こんな事あるのか」と噺が分かった瞬間、心臓が止まりそうになった。
天衣無縫のバイタリティで侠客の世界を成り上がってゆくボロ忠の姿と、その様を熱量を爆発させながら語る松之丞さんの姿が鮮やかに重なる。
あの夜から気づけば6年。
松之丞さん、いや伯山先生の成り上がりは未だ勢いが止まらない。

55.オズワルド 漫才「友達」
2018年のM-1グランプリ3回戦で初めて彼らの存在を知った。その時に披露していたのが、この漫才だった。
この時の審査結果を知って、強い憤りを抱いた。
「こんな上質な漫才を見せられて、どうして彼らを3回戦で落とさなければならないのか」と。
淡々としたやり取りをベースに、強弱を巧みに使い分け、言葉のセンスも凄いし、リズム感が全く崩れない威風堂々たる漫才。東京漫才の品の良さをちゃんと持ちながら、大阪の漫才と対等、それ以上に戦える地肩の強さ。
2021年の決勝で、ブラッシュアップさせたこの漫才で爆発を起こしていた様は、感慨深かった。

56.千鳥 漫才「タクシー」
THE MANZAI 2012で披露された傑作。
手練れのお笑い好きなら、この漫才に散らばっている1フレーズだけを肴に酒を呑める。それくらいセンスが研ぎ澄まされたフレーズだらけの宝箱のような漫才。
こんだけ天衣無縫なワードセンス、キャラクターが跋扈しているのに、寸分の無駄と言うか隙を一切感じさせない。一言一句、誰かが介入する事で一瞬で崩れてしまう、千鳥の二人だけでしか成立できない世界観。
安全交通のよだれだこ、ブルーベリー畑、ボク外国人抱いた事あるんですよ~、風俗帰りですか?、ポカリ川、ロードスター…

57.ニッポンの社長 コント「ケンタウロス」
キングオブコント2020にて披露された衝撃的なコント。
彼らが決勝に上がる前あたりから、「ニッ社がとんでもないコントを持っている」と噂になっていたので、気になっていただけに、この大舞台でかけてきた時は内心飛び跳ねるほどに喜び、食い入るように見た。
出オチの衝撃度、予想のつかない展開、何よりもその強烈なバカバカしさ。徹底的に彼らが作る世界観に揺さぶられた。
斜に構えず、真正面からナンセンスをぶつけてくる泥臭さが素晴らしい。

58.ホーム・チーム コント「いたずら電話」
1996年~2010年まで活動していた伝説のコンビ。漫才・コントを実に器用にこなす2人だった。
初めて見たのがもう20年以上前のコントのはずなのに、未だにふと思い出して、思い出し笑いをしてしまうのが、このコント。
全く掴み所が無い檜山のいたずら電話と、恐怖に怯えるでなく、ただひたすらにイライラを爆発させまくる与座とのアンバランスでエキセントリックな攻防が、ずっと楽しい。
ちょっと不穏さが加速しかける終盤からの肩透かし、からの全くオチていないオチという流れが、不思議と洒脱で良い。

59.我が家 漫才「お葬式」
一世を風靡した我が家の「ローテーション漫才」。
そのシンプルかつ斬新な見せ方に、初めて見た時は驚かされた。
「フリ・ボケ・ツッコミ」というお笑いの方程式をシンプルに可視化させて、その中で3人それぞれのキャラクターをしっかり活かしながら、テンポよく展開させてゆく。
無機質でコント的な手法ながら、漫才ならではの人間力の旨味も味わえる、不思議な漫才だった。
白と黒を基調にしたシンプルな3人の出で立ちも、ネタの斬新さ・スタイリッシュさを引き立たせている。

60.二代目 広沢菊春 浪曲「徂徠豆腐」
現在も「浪曲」という分野をまだまだ勉強をしている最中で、たまに色々と聞いてみてはいるものの、今一つ自身の琴線に触れる芸に巡り会えず停滞していた時期に巡り会えたのが、二代目広沢菊春の浪曲だった。
従来の浪曲とは一線を画した、落語家同様に出囃子に乗って高座へ上がり、正座し浪曲を落語風にアレンジ、または落語を浪曲風にアレンジした「落語浪曲」という独自のスタイルを確立した才人。
浪曲ならではの渋さと拡張高い面もありつつ、落語のような飄々とした軽い空気も持ち合わせた芸が、聞きながらすごく自分の感覚に馴染んでいく心持ちを味わった。
じっくり聞かせて、笑い所もあって楽しくて、そこはかとなくインテリジェンスを感じさせる芸。

61~70

61.劇団ひとり コント「銀行強盗」
「むき出しの人間」を描かしたら、この人の右に出るコント師はいない。
モノローグ調で、落語のように登場人物達をコントの中で演じ分けながら描かれる迫真の緊迫感からの、見る側の予想を軽々と超えて行く展開のバカバカしさ。そこへ演技力が拍車をかけ、世界観をより生々しい物へと昇華させてゆく。
彼の後を引く魅力に魅せられて、一時期彼の出てるネタ番組は片っ端から見ていた。

62.5番6番 漫才「個人情報流出/裁判員制度」
めっきりと時事漫才をやる若手が少なくなった現在、今でもたまにふと「いてくれたらな」と思う時がある。それくらい巧くて、程の良い時事漫才コンビだった。
中学時代このネタを見た後日、社会のテストがあり「裁判員制度」を問う問題が出た。彼らの漫才で「裁判員制度」の内容を知っていたので書いたら、案の定正解。それも、この問題を正解したのはクラスで自分だけだった。
そんな思い出も相まって、今でも忘れられない漫才となっている。

63.ブロードキャスト(現・ブロードキャスト!!) 漫才「同級生との再会」
初めて見た時、彼らはまだ名古屋吉本所属で、たまに「爆笑オンエアバトル」に名古屋から挑戦してくるものの、オンエア率は低く、そこまで期待値は高くなかった。
そんな中初めて本格的にネタを見たのが、北海道でも深夜に放送していた名古屋発のネタ番組「イエヤス」でのこの漫才だった。
その小気味いいテンポと爽快感のあるスピーディーな掛け合いの巧さに、見事に振り回された。
爆笑しながら、「この漫才オンバトでかけたら、1発合格だな。オーバー500は堅い」と確信した後日、久しぶりの挑戦でこの漫才を披露。初めてのオーバー500、501KBでオンエアとなった。

64.立川吉笑 落語「ぞおん」
2022年、自作「ぷるぷる」でNHK新人落語大賞受賞。
初めてこの人の落語を聞いた時、「あ、この人今まで見てきた人と違う」「闘っている戦場が違う」と思った。
背景に古典落語の世界観を描きながら、紡ぎだされる笑いの感覚と発想はまさしく「現代」。いや、現代よりさらに半歩「未来」を歩いているような。今の漫才やコントとでも、充分に戦い合える落語。
いわゆる「新作落語」という括り付けとなるのだが、その中でもこの人の作る落語は、さらに一線を画してる。
落語の世界観に「ゾーン状態」と言う設定を持ち込むという発想がとんでもないし、そこからのギャグ・展開のギミックも鮮やか。

65.三遊亭円丈 落語「ぺたりこん」
漫才の歴史が「ダウンタウン以前、ダウンタウン以後」に分けられるのなら、新作落語の歴史は「円丈以前、円丈以後」に分けられる。
落語を知る前までは、子供の頃見ていた戦隊ヒーロー「忍者戦隊カクレンジャー」で、話の合間合間に出てきたハイテンションな講釈師のおっちゃんだったが、落語を聞くようになって、この人の偉大さにただ、ただ打ちひしがれるばかりになった。
数々のクレイジーな傑作怪作を残しているが、一番印象的なのがこの噺。
容赦なく不条理で、シュールで、とにかく荒唐無稽な設定。そして、救いようのないブラックな展開に、今まで落語を聞いて味わった事の無かったその余韻に唸った。

66.笑い飯 漫才「鳥人」
ここにきての「鳥人」である。笑い飯の唯一無二すぎるニッチな設定が好きすぎるのが、その最たる物だと思う。
何が凄いって、この設定を思いついただけでもえげつないのに、これをコントでなくて、漫才に落とし込もうとする感覚である。
コントにしてしまうとあまりにも「鳥人」のイメージが固定化されてしまう所を、漫才で表現する事で見ている側の数だけ「鳥人」の形が生まれ、各々の頭の中を縦横無尽に暴れまわる。
客に想像させる余地を与えたからこそ、あれだけの衝撃を残せたし、未だに語り草になる名作漫才になったのだと思う。
「異才」である。

67.ケンドーコバヤシ ピンクローター漫談
思い返してみれば、初めてケンドーコバヤシという芸人を知ったきっかけになったのが、このネタだった。
関西の風物詩である生放送ネタ特番「オールザッツ漫才」で、とんでもないネタを披露した芸人がいると風の噂で耳にして、当時のネットを駆使してどうにかして観て、死にかけるくらい笑った。
下ネタど真ん中の最低なネタなのに、面白くて見てられるという凄さ。
ひとえにケンドーコバヤシと言う芸人の「仁(にん)」だからこそ成立する芸。
このネタで関西芸能界から総スカンを食らって、東京へ進出してきた、といか逃げてきたとか。

68.東京03 コント「角田の紹介」
キングオブコント2009王者、そして近年では令和4年度芸術選奨新人賞(大衆芸能部門)を贈賞されるなど、今や日本に認められた希代のコント師。
奇をてらわない日常の違和感や人間関係の機微を丁寧に描くのがお馴染みだが、挙げたコントは今の芸風が段々と固まりだしてきた辺りの快作。
結成当時に全面からフューチャーしていた「ハイテンションさ」もありつつ、人物達の揺れ動く関係性の妙がめちゃくちゃ楽しい悲喜劇。
あと、このコントの時の飯塚のツッコミのキレッキレな感じも堪らなく良い。

69.ぎょねこ コント「新築」
ワタナベ所属。バカバカしくて、不条理なコントを量産していて、今後が楽しみなトリオである。
喜劇王チャーリー・チャップリンは「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」という名言を残しているが、このコントはまさにこの言葉を体現している。
登場人物達からしてみれば「悲劇」以外の何物でもない状況下なのだが、その状況下で右往左往する様が、悲しくもめちゃくちゃ面白い。

70.カリカ 漫才「越冬つばめ」
かつて東京吉本にいた伝説のコンビ。独特の異彩を放つコントや漫才は、初めて見てから十数年以上経つが、未だに脳裏に焼き付いている。その最たるネタがこの漫才。
M-1グランプリ2006年敗者復活戦にて披露。ひたすら森昌子の名曲「越冬つばめ」のサビを歌い、その合間に「聞き分けの無い女」の一言を挟んでいく。
そのシュールな世界観と、有無を言わさず会場の空気を巻き込む荒々しさと「やりたい放題」な自由さが衝撃的だった。

71~80

71.ジャルジャル コント「ハンドイートマン」
たかだか2分半程度の短いコントだが、ジャルジャルの狂気、センスが凝縮されている怪作。
かなり難解な設定のはずなのに、表情の機微と演技だけで、いとも容易く設定を観客に飲み込ませてしまう説得力の凄さ。
初めて見た時、大笑いしたと同時に、「日本のお笑いを見ている」という感覚にならなかった。まるで「モンティパイソン」とか海外のナンセンスなコメディを目の当たりにしているかのような心持ちになった。

72.東京ボーイズ 漫才「ハワイアン民謡/謎かけ小唄」
「笑点」の大喜利前に入る演芸コーナーや、NHKの演芸番組は地方に住んでいる寄席演芸ファンは勿論、新しいファンを開拓できる、実に稀有で尊い機会だと思う。自分がそうだったから、特にそう思う。
楽器を使った寄席演芸「ボーイズ」を知ったのも、この機会から。
とぼけた味わいと切れ味のあるツッコミの掛け合いの楽しさと、聞かせる所はしっかりと聞かせるパフォーマンス力の高さに、子供ながら「こんな笑いの形もあるのか」と心に響いた。
コンビになって1度だけ生で高座を見たが、生であのテーマソングを聞けた事は、自分の大切な思い出である。

73.ローカル岡 漫談
この師匠も、いわゆる演芸番組で存在を知った。
ふらっとステージに上がり、飄々とした佇まいでセンターマイクの前で直立不動。繰り出される茨城訛りの世相を扱った毒気のあるボヤキ漫談は、めちゃくちゃ面白くて、ポーカーフェイスでの喋り一本で会場を爆笑させる姿は得も言われぬ「ダンディズム」を感じた。
訛りの存在感が強いが、とても小ざっぱりしている芸で、話の運び方に一切の無駄を感じさせない。
年齢を重ねて「演芸」を数多く見るようになって、改めてその唯一無二の存在感の偉大さを痛感している。

74.春風亭柳昇 落語「結婚式風景」
「笑点」の司会でお馴染みの春風亭昇太師の師匠。
「わたくしは、春風亭柳昇と申しまして、大きなことを言うようですが、今や春風亭柳昇と言えば、我が国では…わたし一人でございまして…」が決め台詞。何を考えてるんだから全く読めないポーカーフェイスと淡々としたトボけた口調から繰り出される新作落語は破壊力満点。
傑作が数多いが、自分は一番笑わせてもらったのが「結婚式風景」。
結婚披露宴での、来賓や仲人によるめちゃくちゃなスピーチを描いたスケッチ風落語。
10分程度の作品だが、ずっとトボケてて、爆笑が最後まで途切れない。

75.男性ブランコ コント「ロッカー」
近年、キングオブコント・M-1グランプリで頭角をメキメキと現してきたWメガネのニクいコンビ。
彼らのスマートな脚本のコントも好きだが、こういう単純明快でバカバカしいコントもめちゃくちゃ楽しい。
シンプルなストーリー展開と構造だが、ワードセンスの秀逸さと、ロッカーの扉の開閉の抜群すぎるスピード感のマリアージュがえげつなく面白い。

76.巨匠 コント「スルメの処刑」
今や希代のクズ芸人としてその名が知れ渡ったピン芸人・岡野陽一。
彼は元々コンビ「巨匠」として、そのコントセンスの高さにお笑いファンから高い評価を受けていた。キングオブコント2014・2015ファイナリスト。
中でも好きなコントが、この「スルメの処刑」。
問答無用の「設定」の凄さと感覚。そして、このコントでは普段ボケ役の岡野がツッコミ役。彼は翻弄するのも巧いが、翻弄されるのも抜群に巧い。
シュールかつダークな世界観だが、常にどこか「ほのぼの感」も漂っている奇天烈なコント師だった。

77.BODY コント
椿鬼奴・増谷キートン(現・キートン)によるユニット。
忘れもしない、「笑いの金メダル」のショートネタ企画に颯爽と現れて、そこで披露したコントで呼吸困難になるくらい笑わされた。
何が悔しいって、自分の持ち合わせているボキャブラリーを全部駆使しても、この時のコントの面白さを1割も説明できない事だ。
設定、ギャグ、BGM全てが、理屈で説明しようとすればするほど、どんどん野暮になってしまう。
ただ確実に言える事は「何故か分からないけど、腹がちぎれるくらい面白い」。

78.ガクヅケ コント「カラテ」
芸歴9年目、マセキ芸能社所属のコントを主流とするコンビ。
Twitterでお笑い界隈がざわついているのが気になり、YouTubeでこの「カラテ」を見たが、ひっくり返った。
一切台詞無しで、全編動きだけで構成されているが、ストーリー展開と流れるBGMの選曲センスが不条理の極致。
「なぜこの設定で、このBGMを選曲したのか」など背景やネタ作りなどのバックを考えれば考えるほど、それも含めてどんどん、どんどん面白くなっていく。そして最後には、なぜか爽やかな感動が心に残る。
台詞一切無しで、ここまで見る側の感情を振り回せるコントなんて、そうそう無い。

79.はなわ ベース漫談「埼玉県」
「佐賀県」のブレイクからもう20年経とうとしているが、未だに数年周期で自身の作品で存在感を示し続けている才は、端から見ていて嬉しくなる。
自分にとって、彼の代名詞は「佐賀県」ではなく、この「埼玉県」である。
初めて聞いた順番がこのネタが先というのもあるが、「学校へ行こう」の1コーナー「B-RAPハイスクール」での、出演メンバーと芸人で対抗戦を行うというスペシャル企画で、このネタを聞いた。
それまでは「松井秀喜のモノマネ芸人」というイメージだけしかなかっただけに、このネタを見た時は、その衝撃度と破壊力の凄さに度肝を抜かされた。
「埼玉県」へのリスペクトが1㎜も感じられない言いたい放題っぷりが最高すぎた。
そこから十数年後、「王様のブランチ」の映画コーナーを何気なく眺めていたら『翔んで埼玉』の告知が流れた。そこまで興味も無くボーっと眺めていたら、終盤に「埼玉県」が流れ出し、思わず身を乗り出してテレビを凝視した。
正直「埼玉県」を主題歌として採用されていなかったら、この映画をわざわざ映画館へ見に行く事は無かった。
果たして、エンディングで映画館は大爆笑に包まれた。

80.スリムクラブ 漫才「葬式」
M-1グランプリ2010最終決戦で披露された傑作。
しっかりと彼らの漫才を見たのはそこからさらに数年前の予選動画。真栄田は自身のコントキャラクター「ザ・タカシ」に扮してセンターマイク前に立っていたが、芸の方向性は当時からそこまで変わっていなかった。
そこから09年のM-1敗者復活戦で強烈に異彩を放ち、翌年に意を決しての決勝進出。
「最後のM-1」で、それまでの定石を根幹からぶち壊していく様は、めちゃくちゃ面白くて、めちゃくちゃカッコよかった。
最後の「民主党ですか?」のあの鮮やか過ぎる切れ味に、笑いながら思わず唸った。

81~90

81.ハチカイ コント「マナーイーター」
結成わずか2年の男女混合トリオ。まだ若い。ただ、作るコントのセンスが群を抜いて頭がおかしい。
序盤の衝撃的なビジュアルの掴みから、「大喜利」的のような設定の掘り下げ方やディティールの作り込みが光りつつ、バカが振り切っているが如く大胆にやりたい放題暴れまわっている。
ツッコミの言葉の選び方も、聞いた事のない物ばかりで、巧いだけでなく新しい。
このトリオが毎回見る側の予想を軽々と超えてきたり、容赦なく裏切る設定ばかり作り上げてくるので、YouTubeに新しいネタが上がるのが楽しみでしょうがない。

82.虹の黄昏 コント「悶絶レンタルショップ」
めちゃくちゃ売れて欲しいけど、その反面、一生日の目を見ないで欲しいとも思う「地下芸人の帝王」。
心身が徹底的に疲弊した時に見ると、下手な栄養剤を飲むよりも元気が出てくる。
世の中「実力派」「技巧派」の芸人ばかりだが、彼らのような「考えながら見ようとすると、100%見ている側がバカを見る」ような芸をやってくれる芸人も絶対必要。
天上天下唯我独尊。説明不要。見てみれば分かる。

83.ジャリズム コント「テント」
自分が初めてその存在を知ったのは、解散から再結成をした直後に出演した「笑いの金メダル」だった。その後何度か出演し、ある回で披露したのがこのコントだった。
「テント」を見事なまでに効果的に使った発想が斬新。
謎の登場人物が増えていくという不穏さから、次第にテントが作る「空間」の範疇がどんどん有り得ないスケールアップの仕方をしていき、ジェットコースターが如く混沌とした展開へと加速してゆく、その得体の知れないナンセンスな構成が堪らなく面白かった。

84.おいでやす小田 コント「バイトの面接」
今やすっかりバラエティ番組の、「うるさ型」「キレ要員」の立ち位置を確立している。近年見てる芸人で、この人が1番「売れて本当に良かった」と思う芸人。
それは、やっぱり初めて見たこのネタが鮮烈だったというのと、今まで賭けてきた「R-1」という場所から無情に梯子を外されて、それまで縁遠かった「M-1」で会心の一撃を魅せて、やっと日の目を見たというドラマを目の当たりにしたからだと思う。
R-1ぐらんぷり2016
前の出番だったハリウッドザコシショウによって文字通り「焼け野原」と化した舞台でも、堂々たる爆笑を稼いだ姿が見事だった。
余韻も間も一切無視した容赦のない「裏切りの畳み掛け」のテンポの良さ、ギャグのパンチの重さは圧巻だった。

85.三浦マイルド コント「ハゲがモテる世界」
R-1ぐらんぷり2013王者
優勝を獲得した年の「広島弁講座」や「道路交通警備員ニシオカさんの言葉」といい、この人の芸には、いつも「哀愁」が味方についている。そして、1つ1つの言葉に禍々しい血のような物が通っている。
特に好きなネタがR-1で初めて敗者復活制度「サバイバルステージ」を採用した2009年に披露したコント。
現実を逆手に取った設定の巧さで終始和やかに笑いを稼いだかと思いきや、ラスト1分での大どんでん返し。
眼光鋭く絶叫しながら自分で作り上げた世界を全力で否定してゆく姿は、「笑いと悲しみは紙一重」。

86.なだぎ武 コント「警察24時」
「R-1ぐらんぷり」歴代のネタで1番好きなネタは何かと尋ねられたら、間違いなくこのネタを上げる。
R-1ぐらんぷり2010
前人未到の3連覇という偉業がかかっている得も言われぬプレッシャー、見る側の緊張度も最高潮に達した中で披露された。
「笑いが弾けた」とは、まさにこの事。
色んな意味で「危ない」キャラ設定、その危うさをさらに際立たせる、声の加工だったり、BGMといったディティールの畳み掛けでもうお腹いっぱいなのに、さらにそこからの展開の振り切れたくだらなさ。見終わった後強烈な疲労感に襲われるくらい笑かせられた。
芸人のネタを見て「もうやめてくれ」という位に笑かせられた稀有な経験だった。

87.夙川アトム コント「ふた実況」
「業界人紙芝居」で一気に人気芸人の仲間入りを果たしたが、その後「俳優」へと華麗に転身。優秀なバイプレーヤーとしてドラマに数多く出演し活躍する姿を見かける度に、年月の経過を噛みしめている。
世に出るきっかけになったのは「業界人紙芝居」だが、この人の本芸は味わいのあるシュールな1人コント。
当時「業界人紙芝居」しか見た事無かったので、この「ふた実況」を初めて見た時は、もの凄く新鮮で、才能の豊かさを感じた。
瓶の蓋が開かない事でどんどん追い詰められている男の模様を、その実況をバックに流しながら演じるという発想の面白さと、短時間ながら惹きつけられる演技力のスマートさが印象的だった。

88.カンニング 漫才
今でもYouTubeでたまにこの二人の漫才を見返す時がある。
03~04年辺りのお笑いブームでアイドル的な人気の芸人が多数チヤホヤされている中で、芸歴やキャラクター的にもしょうがない部分もあったかもしれないが、「キレてるだけ」「ネタが同じ」と煮え湯を飲まされていたように思う。
だが、自分は当時からこの漫才が大好きだった。
シンプルに掛け合いが巧いし、毎回「何をやってくれるのか」という危なっかしさにドキドキしながら見ていた。
冷静に聞くと、ゴリゴリの博多弁を用いた方言漫才。お国言葉だからこそ言葉に感情が乗り、あの独特なグルーヴ感を巻き起こしていたように思う。

89.イッセー尾形 コント「ヘイ、タクシー」
ここに来ての御大登場である。
深夜なかなかタクシーを捕まえられない酔っぱらったサラリーマンが、一時的な暖を取るためビルとビルの隙間に入ったが、出られなくなってしまう受難劇。
爆笑というのではなく、クスクスと見る側の笑いのツボを絶妙な力加減でこづいてくるような感覚と手法が、初めて見た時とにかく新鮮だった。
イッセー尾形の世界に足を踏み入れたのは20代後半になってからで、「演芸」に対して若干の見識を持ち出した頃だった。
果たして、このタイミングで足を踏み入れたのは正解だった。
分かる人には堪らない、エスプリ過ぎる1人芸。

90.ガスマスクガール 漫才「走馬灯」
気付けば、解散から10年以上が経ったという。早すぎる。
M-1グランプリ2009敗者復活戦
結成翌年でいきなりの準決勝。「大阪に気鋭のコント師が出てきた」と風の噂が耳に入ってはきていたが、自分の初見は漫才だった。
元はコントだった物を無理やり漫才に落とし込んだ感は強かったが、センターマイクの前で言葉の掛け合いをやっていれば、それはもう漫才である。
1人の男の人生のあっけない結末から始まり、その男の波乱万丈な人生を年齢ごとに表現していく見せ方が、シンプルで斬新だった。
ブラックユーモアが入り混じるヒリヒリするストーリーだが、小気味よく場面転換がされる事で、ナンセンスな喜劇として成立させている。

91~100

91.ミルクボーイ 漫才「コーンフレーク」
色々とネタを見続けている人生を送る中で、この二人ほど「化けた」と感じる漫才師はいない。
M-1で優勝する前年までは、準々決勝の常連組として名を連ねており、ネタは毎年ネット配信で見ていた。申し訳ないが、その当時は印象度が薄く、他の出場者の中に埋もれてしまっているという感じが否めなかった。
だからこそ、2019年のM-1予選が始まり「今年はミルクボーイが仕上がっている」という噂を聞いた時に耳を疑った。
噂を確かめようと予選配信を見て見たら、面白いのなんの。
過去数年の漫才を見て感じた「くどさ」みたいな物が綺麗さっぱり消えて、言葉の選び方、間といったあらゆる要素が洗練されている事が如実に感じられた。
想像のスクラップ&ビルドにより、延々と笑いが膨張し続ける「無限漫才」。

92.ジェラードン コント「満員電車」
何と言っても「シチュエーションの巧さ」。これに尽きる。
日常的によくある不快な緊張状態の中、言葉を最小限までそぎ落として、表情や間合いの妙で爆笑を鮮やかに稼ぐ様は、まさしく「コメディの王道」。
モーションだけでストーリー展開が明確に分かるだけでなく、異質でドラマティックな展開もあって最後までダレる事が無い。
4分程度のシンプルなコントだが、ずっと爆笑が途切れる事が無いのは見事。

93.快楽亭ブラック 落語「SM幇間腹」
断言できる。今1番生き様が面白い芸人は誰かと聞かれれば、間違いなく快楽亭ブラックである。
コンプライアンスという概念が一切存在しない「邪道」を極めに極めたその芸は、まさしく「孤高」。
毎年、夏・冬の2度、地元で「毒演会」を打ちに来てくれて、自分の中で完全に風物詩と化している。
純然たる古典から狂った新作改作まで色々聞いたが、1番笑わせてもらったのが古典落語「幇間腹」の改作である「SM幇間腹」。
終盤の衝撃的な演出は、間違いなく自分が見てきたライブの中でも「笑い」
の瞬間最高風速を叩き出していた。
快楽亭ブラックと言う芸人の「生き様」を全身に受けたあの真冬の夜は忘れない。
健在を心から願うばかりである。

94.島田紳助・松本竜介 漫才
自分が世間一般の「若手お笑いファン」から飛躍して「演芸ファン」になった大きなきっかけの1つが、大学生になって自分専用のパソコンを持つようになった事だった。
当時の最新型のパソコンで容易くネットを繋ぎYouTubeを見られるようになった事で、自分の芸の見聞は爆発的に広がっていった。このきっかけに、さらに3組の漫才を知った事が作用して、「演芸ファン」へ変貌していく道は確実な物になった。
その1組が島田紳助・松本竜介。「紳竜」である。
初めて見た時の、あのスピード感の衝撃が忘れられない。あんなにテンポの早い漫才を今まで見た事が無かった。それなのに、言葉が明瞭で、何よりめちゃくちゃ面白い。
全面に「やんちゃさ」を出す一方で、当時の若者に刺さる事を意識した戦略的な思考が見え隠れする「インテリ」の部分も感じられた。
当時ネットに上がっていた漫才を見尽くし、ついにはDVD『紳竜の研究』まで買うくらい、自分の中で「紳竜」熱がめちゃくちゃ高い時期があった。
今も数年に一度DVDを見返し、楽しみながらその熱量を帯びていた時代を思い返す事がある。

95.古今亭志ん朝 落語「お見立て」
落語を好きになって十数年くらい経つが、「やっぱ志ん朝っていいなー」と思いだしたのは、ここ数年である。
全く聞いてこなかった訳ではないが、どの高座を聞いても当たり外れが無くて、それが逆に退屈に感じていた。
それがふとしたきっかけでネットだったり、持っていたCDを聞き返す機会に当たったのだが、これがめちゃくちゃ良かった。
流れるような口調とスピード感、音だけでも感じ取れる様子の良さ。離れている時間が長すぎた事を後悔して、あれこれ志ん朝師の音を聞くようになった。
「火炎太鼓」「文七元結」「居残り佐平次」「愛宕山」…名演を挙げれば本当にキリがないが、一番ハチャメチャに楽しくて笑ったのが「お見立て」だった。
一人の女性に大の男二人が翻弄される様が、気の毒だけどドタバタ感があって楽しい。
それをあの寸分の乱れの無い志ん朝師の鮮やかな語りで聞くんだ。面白くない訳がない。

96.ツービート 漫才
先に書いた、自分を「演芸ファン」へ叩き込んだきっかけを作った漫才2組目である。
あれだけの天下を獲ったビートたけしが漫才師だという事は知っていたが、これだけのメディアに出ていれば過去の漫才をやっていた頃の映像に当たるはずなのに、今まで一切見る機会が巡って来ないというのが不思議で仕方が無かった。
果たして、自分でパソコンを持つようになりYouTubeで初めてツービートの漫才を見て、納得した。
今のテレビでは、何一つ放送できない事しか喋ってないからである。
でも、それが尋常じゃないくらい面白い。
コンプライアンスを無視するどころか、真正面から中指を突き立てるが如き毒まみれのギャグ。それも詰め込みすぎなくらいの量を、息もつかないスピードでぶん投げまくる。客がそれを飲み込む前に別の話に転換する容赦の無さと傍若無人っぷり。
とにかく面白くて、とにかくカッコよくて、そこはかとなく感じる「無頼」の雰囲気に、大学生の自分は釘付けになって何度も繰り返し見続けた。

97.十代目金原亭馬生 落語「鰍沢」
落語に面白味を感じ、手当たり次第聞いていた最初の頃、演者の当たり外れを繰り返す日々の中、一言目のトーンを聞いた瞬間「あ、自分この人好きだ」と直感に刺さった。それが十代目金原亭馬生師だった。
父は五代目古今亭志ん生、弟は古今亭志ん朝。馬生師もこの二人に劣らない名人だが、いかんせん前の二人があまりにも「化け物」過ぎる。
もっと、もっと語られないといけない名人である。
噺を演じている時に感じさせるあの「上品な華やかさ」。かと思えば、「いいかげん」「大ざっぱ」な面も持ち合わせていて、志ん生師に通じるフワフワと力の抜けた感じが実に魅力的。
「格調」と「適当」が抜群のバランスで同居している大好きな師匠だった。
どんな噺でも演じる人で演目も膨大だが、馬生師のこの一席となると、自分は「鰍沢」を選ぶ。
馬生師の人物造形はどこか「冷たさ」を感じる。特にこの噺においては、血があまり通っていないというのか。声を荒げたり、トーンが高くなる場面もあるけど、下手に聞く側の感情を逆なでせず、あくまで淡々と語り続けていく。
これがめちゃくちゃ怖い。
他の演者で何度も聞いてる噺なのに、馬生師の噺の時に初めて背筋にゾクゾクと寒気が走る感覚を味わった。決して感情を注入しすぎない、あの淡々と柔らかみのある語りだからこそ、人間の醜さと生への執念がダイレクトに響いたのではないかと思う。
自分の中で「鰍沢」といえば、十代目金原亭馬生。

98.五代目古今亭志ん生 落語「黄金餅」
間違いなく、人生で1番聞いている落語ナンバー1である。
初めて聞いた時のその衝撃たるや筆舌に尽くしがたい。
おどろおどろしい展開、常識から外れて本能の赴くままに行動する人物の生き様、そして常識を覆すオチ。
全編通して陰気だし、グロテスクで胸糞悪い展開だし、呆気に取られるようなクライマックスなんだけど、志ん生師がこの噺を語ると、「死」や「業」といった陰な部分が全部曖昧になって、ナンセンスな悲喜劇へと変貌する。
あの「金魚~、金魚~」というデタラメが振り切れたお経の軽さ、不条理は志ん生師でしか描けない。
多くの落語ファンが「自分が死んだ時は、黄金餅のあのお経でいい」と答えるはず。自分も全く同意見である。

99.中田ダイマル・ラケット 漫才「家庭混戦記」
自分を「演芸ファン」へ叩き込むきっかけを作った漫才、大トリである。
出囃子に乗って、颯爽と現れ、黙礼をして、「あのな」「なんや」とやり取りが始まった時点で、舞台は一瞬で「中田ダイマル・ラケット」の世界になる。
この一瞬の空間支配力、ネタの発想、実の兄弟ならではの掛け合いの息と間、展開のテンポ、とテクニックも問答無用に見事だが、ダイラケ漫才はここへさらに、シュールと狂気が加わる。
その醍醐味をダイレクトに感じたのが「家庭混戦記」だった。
「ダイマル師の妻の連れ子である娘が、ダイマル師の父親と結婚し、孫が生まれた」という設定で、展開が進むに連れて、家族の関係性が混沌と極めてゆくそのプロセスの狂気とシュールさに、今まで若手芸人のネタしか見てこなかった自分にはカルチャーショック以外の何物でもない衝撃を受けた。
初めて映像を見た時「この時代の段階で、もうこんな漫才やってる人達がいたの…?」と、この事実に打ちひしがれた。
これだけ漫才が隆盛に隆盛を極めて、どうしてダイラケ漫才の魅力を語る人発信する人が居ないのかが、不思議でならない。
中田ダイマル・ラケットは、間違いなく自分の漫才における「基準」である。

100.立川談志 落語「よかちょろ」
このnoteを書き始めた段階で、大トリはこの師匠と決めていた。
落語界の鬼才。そして、世間に、お笑いファンに、自分に「演芸」の面白さ、素晴らしさを伝承してくれた「道標」。
演芸ファンとなったきっかけについて、大学生で自分のPCを手に入れた事は散々書いたが、これはあくまでに「きっかけの1つ」とした。もう1つの決定的なきっかけになったのは、立川談志との出会いである。
この出会いを詳しく書くと、これだけでnoteの記事1本分となってしまうので今回は割愛する。いずれ書きたくなったら書く事にする。
「芝浜」「鼠穴」「居残り佐平次」「黄金餅」「らくだ」「富久」「やかん」「松曳き」…志ん朝師同様こちらも名演を挙げだしたら本当にキリがない。フィクションを超越し、強烈な人間ドラマへと昇華させた「芝浜」、どこから湧いてきたか分からない不気味さを孕んだバイタリティの塊のような「居残り佐平次」と、演目1つにとんでもない魅力が溢れているが、そんな談志落語で1番衝撃を受けたのが「よかちょろ」だった。
道楽者の若旦那が父親の説教をどうかいくぐるかという噺で、ストーリーらしいストーリーは無いのだが、この若旦那のバイタリティの凄さに一目惚れしてしまった。
先に上げた「居残り佐平次」もかなりのカリスマ性を持ち合わせているが、自分は断然「よかちょろ」の若旦那の方が好きだ。
人間の1番身近にいる権威である「親」を徹底的にバカにしコケにし、「よかちょろ」なんて訳の分からない歌を大金で仕入れる支離滅裂なやりたい放題っぷり…
この若旦那の生き様、まさしく「人生、成り行き」を体現している。
「常識」という不確実な物にどうにかしてしがみつきながら日々を生きている身にとって、この若旦那の生き様を目の当たりにした時、どうしようもなさを感じると同時に、共感と、一抹の尊敬・憧れを覚えた。
聞き終わって、漠然と「自分には一生この生き方をマネする事は出来ないし、生涯この「よかちょろ」の若旦那に焦がれて死んでいくんだろうな」と思った。
という訳で、この噺は全編強烈なバイタリティの塊のような噺。
日々の常識にがんじがらめにされて疲弊してしまっている人は、この噺で一時の間、常識から解放されて欲しい。
大した事ない。人生所詮よかちょ~ろ、パッパ…


あとがき

以上、自分にとっての演芸オールタイムBEST100である。

「意外と容易かった」…と書いて終わりたかったが、これが書き出してみると、想像の何十倍も苦労した。

演者・ネタを上げる事については全然問題なかったのだが、そこに付属させるコメントを書くに当たって、自分の過去と否が応でも向き合わなくてはいけない。ネタを見ている時は勿論楽しい思い出しかないのだが、それを思い出すと同時に思い出したくもない事も芋づる式に上がってきてしまって、書く手が止まる事が何十回とあった。
こうなるとは、正直全く想定していなかった。
「自分の歴史と向き合うという事は労力を要する」という事を今回学んだ。

いずれにしても、今回上げた100本の演芸。この芸との出会いと楽しい思い出に、自分は今まで生かされてきたし、今後もこの思い出達を力にして、生きていく。
無論今回書ききれなかった芸がまだ山のようにあるが、それらも全部含めて、である。

「オールタイムベスト」と銘打っただけあって、世間から忘れ去られてしまった芸もちらほら見られる。
でも、世界中の殆どの人間がその芸の事を忘れてしまったしても、自分のような奇特な人間が1人でも覚えていて、それを何かしらの形で残していければ、その芸が間違いなくある一定の人達を楽しませた、という何かしらの証明になるのではと思う。

自己満足の極致でしかないが、自分はこれからも見てきた芸については書き残していきたい。
そして、この文章から多少でも興味を持ってくれて、その人の人生に何かしらの影響を与えるきっかけになれたら、こんなに嬉しい事は無い。

それにしても、自分は本当によくお笑いを、演芸を見ている。

誰からも言われないから、せめて自分で言っていないと、やってられない。
なんとか書き上げたんだから、少しくらいは自惚れてもバチは当たるまい。





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